中でも女の子をターゲットにしたものは、かわいらしくキラキラしたデザインが特徴的です。おしゃれや友だち、恋愛、マナー、時間の使い方などをテーマとしたものが多く、中には、大人としては意外なほど実用的で丁寧に作られているものもあります。
今回取り上げる『自分をもっと好きになる かわいいのルール』(ハピかわシリーズ、池田書店、以下『かわいいのルール』)も、その一つ。
『自分をもっと好きになる かわいいのルール』(ハピかわシリーズ、池田書店/画像提供:Amazon)
『かわいいのルール』の魅力は、読みやすさと圧倒的な内容の濃さ
『かわいいのルール』は、マナーとしぐさ・みだしなみとファッション・心を磨く・友だち関係の4ジャンルを「ステキ女子計画」として解説し、自分を内側から磨き、そのタイトルの通り「自分をもっと好きになる」ことを目指しています。マンガ、イラストを用いた解説、お悩み相談室という形で構成されていて、気軽に手にとれる雰囲気ながら、ストーリーが記憶に残り、わかりやすく、内容も充実しています。
解説の導入である、かわいらしくわかりやすいマンガ部分は、人気マンガ雑誌「りぼん」(集英社)の双葉陽さんが担当(『自分をもっと好きになる かわいいのルール』より/画像提供:Amazon)
たとえば「生理が来たらどうすればいい?」では、基本的な生理の知識から紙ナプキンの種類や使い方・捨て方、生理中の過ごし方までも書かれていますし、「ブラジャーっていつからつけるの?」では、選び方や付け方のほか、付け始めた学年や悩みなどのアンケート結果が紹介されています。
知りたいけれど、友だちとの話題にしづらかったり、親に聞きにくかったりすることについての対処法がわかること、同じような悩みを持つ人がいると知ることは、子どもの安心感につながります。
また、インターネットでは子どもがどんな情報を目にするかわかりませんが、こちらは正確で表現もソフトですから、大人としても心配ありませんね。
「女子」に期待される役割に感じる息苦しさ
そういった魅力がある一方で、『かわいいのルール』に息苦しさを感じさせる描写があることも否定できません。一つは、何度もくり返される「女子」ということばが、性別を強調し過ぎているように感じられること。本来性別とは無関係であるはずのマナーや生活力があることが「かわいい」「ステキ女子」と受け取れ、それがそのまま「女子」に期待される役割としてすりこまれる可能性があります。
さらに、「あいづちのコツ」として、いわゆる合コンの「さしすせそ」や、「女の子って共感されるとうれしくなるよね」とのコメント付きで「わかる」が、紹介されているなど、違和感のある部分は少なくありません。わずかですが、男の子についても「男子は〇〇である」という書き方もなされています。これらは、ジェンダーバイアスだと言えるでしょう。
ステレオタイプな「ステキ女子像」に感じる生きづらさ
もう一つは、「〇〇できるのがステキ女子である」というステレオタイプなステキ女子像です。『かわいいのルール』は、「自分をスキになろう」「気持ちを上手に伝えよう」など内面についても取り上げていますが、問題を考えさせじっくりと成長をうながすというよりは、基本的には実践的なハウツーがメインの本です(内面については、同シリーズに『こころのルール』や『ことばのルール』が用意されています)。常識やマナーを知ることで、周りに合わせやすくなる。おしゃれや片づけが上手になる。困ったことがあっても、感じよく切り抜けることができるようになる――これらはシンプルでわかりやすい「術」であり「テクニック」ですから、チャレンジしやすく、役にもたつでしょう。できるようになることで、自信もつきます。
ただ、ここで描かれる「ステキ女子」像は均質的で、たとえば発達障害や自らの性について悩んでいる人への配慮は見受けられません。
人からどう思われているか、どう見えるかを気にしすぎないようにということも書かれていますが、「まわりと差をつけちゃおう」「みんなより一歩先のおしゃれ」「みんなから好かれる存在」などは、第三者やそれとの対比で自分の価値が決まるかのように思わせてしまう表現です。
「こうするのがステキ」という強いメッセージは、「こうでないとステキでない」と受け取られる危うさもはらんでいますから、読み手である子どもの中には、周りを気にするあまりに失敗が過度に怖くなったり、無意識に無理な努力を続けた結果、その基準からずれた人を許せない気持ちになってしまったりする子がいるかもしれません。
他者の視点を意識しなければならない「かわいい」「ステキ女子」を目指すために女の子たちが横並びのグループを作り努力する姿からは、「女子」の生きづらさを感じられないでしょうか。
先述した通り、助けになる本ではありますから、軽い気持ちで楽しく「ステキになる」ことを楽しむ分にはいいのでしょう。けれども、「ステキ女子」になる(なろうとする)ことで自由に生きられる子だけでなく、できるように意識的に振る舞うことで自分を見失い、不自由になる子もいるということも、心に留めておきたいことです。
そしてもし、この世界観に違和感があったり、達成することに無理が生じたりするのであれば、距離を置いていいということ、そしてこの本の「ステキ」と自分の思い描く「素敵」が本当に一致するのか考えてほしいということを、伝えていきたいですね。
子どもと本の相性、読んだ後のそれぞれの思いを大切に
『こころのルール』を参考にノートに「がんばりたいこと」などをまとめたり、好きなものの写真をコラージュして心がモヤモヤしたときに眺める。また『かわいいのルール』を読み、バッグの持ち物を整えたりする編集部員の小3の子ども(写真:All About提供)
子どもに知っておいてほしいことがきちんと書かれている、読みやすい、さらに親のことばが受け入れられにくい年齢、となれば、確かに読ませたくなるでしょう。ただ、本人が読みたくないときは、無理強いしないでください。読みたくなったときに手に取れるよう、置いておくだけで十分です。
逆に、「イラストがキラキラしすぎている」「ファッションやネイル、恋などはまだ早い」「<女子>を強調しているのが気になる」などの理由から、読ませたくないと思うこともあるようです。
けれども『かわいいのルール』は、子どもに受け入れられやすい形はしていますが、マナーや常識については、丁寧に解説されていますから、まずは読んでみることをおすすめします。
大人にとっては「当たり前」のことも、意外とできていない子は多いもの。注意されるよりも「やってみよう」と思えるような、前向きでていねいな解説が特徴です(『自分をもっと好きになる かわいいのルール』より/画像提供:Amazon)
ジェンダー等についての観点が気になるという場合や、本当にそれが正解なのかと思われるような部分については、ご自分の考えを話してみてもいいでしょう。
いずれにしても、どんな本にも相性とタイミングはありますから、お子さんの「読みたい」「読みたくない」という気持ちは大事にしてください。
大人気と言える『かわいいのルール』でも、登場人物たちと同じようにしてみたい子、こっそり読みたい子、全く興味を示さない子、きっと反応はいろいろでしょう。でも、どんな思いも受け入れられるべきだと思います。
大人としては、「ステキ女子」の型を押し付けないよう、成長を見守りたいものですね。
【書籍データ】
タイトル:『自分をもっと好きになる かわいいのルール』(ハピかわ)
マンガ:双葉陽
編:はぴふる編集部
出版社:池田書店
定価:本体900円(税別)