いきなり「離婚」を突きつけられて……
恋人同士だったころのようなラブラブ感はなくなったが、落ち着いた夫婦の関係もいいものだ。そう思っていたら、ある日、突然、夫から離婚を突きつけられる。そんなことが起こったら、妻はどうしたらいいのだろうか。
「オレの居場所はここじゃないから」と夫
結婚して15年、ひとり息子も中学生になった。中古だがマンションを買い、夫は安定した会社員として働き、自身もパートとはいえ仕事をしている。これから親の介護などが控えているかもしれないが、今はとにかく安心して生活していられる。
ミドリさん(44歳)はそう思っていた。つい先日までは。
「息子が生まれて半年足らずで、夫が外国に長期出張をしたんです。半年ほどでしたが、その間はつらかったですね。実家は遠いし、母がちょうど祖母を介護していたから、手伝いに来ることもできない。夫の実家も頼れず、貯金をはたいてベビーシッターさんに来てもらったりしました。夫も会社にかけあって補助金を出してもらった記憶があります」
夫が帰国したとき、「よくがんばってくれた」と抱きしめられ、ミドリさんは自分の苦労が報われたと思ったものだと言う。夫に対してはずっと全幅の信頼を置いてきたのだ。
「この春、息子が有名私立中学に入ったんです。それも子育てで報われたことのひとつですね。塾の送り迎えやお弁当作り、家での勉強など、この3年間は息子に負けず劣らず、私も努力してきました。パートと家事と息子の受験、全部乗り切った、これからはパートの時間も増やしてがんばろうと思っていたんです」
ゴールデンウィークはコロナ禍だったので自宅で過ごした。それでも3人で近くの店にランチに出かけたり、自宅で焼き肉をしたりして、家族での時間を楽しんだという。
「連休最後の夜、夫が寝室で突然、『離婚してくれないか』と言ったんです。明日、雨かなというような調子だったんので、離婚がイコンに聞こえて、『イコンってなに?』と聞き返したほど。夫は『離婚だよ、りこん。今すぐじゃなくていいんだ、ちょっと考えてみて』と。思わず『理由は?』と聞きました。すると夫は、『オレの居場所はここじゃないから』って」
さっぱり意味がわからなかったミドリさんは、「あなたが私と離婚したい。そういうこと?」と念を押すように尋ねた。
「夫はうなずくだけでした。私は『あなたは毎日、ここから会社に行ってここに帰ってくる。ということはここが居場所だよね』と言ったんです。夫は『そういう物理的な意味合いじゃないんだよ、オレの心の居場所だよ』って。古い言い方をすれば一家の主ですよね。夫であり父親であり、マンションの名義だって彼なんです。本当に意味がわからなかった」
ただ困惑するしかなかったとミドリさんは振り返る。
夫の気持ちがわからない
その週末、夫はまたも離婚の話を蒸し返した。もっと詳しい理由がわからないと応じられないとミドリさんは答えた。「すると夫は、『結婚生活が欺瞞のように思えてならない』『家庭はきみと息子のものであって、自分はいつも居場所のない気持ちになる』『結婚って何だろうと思うようになった、自分には向いていない』と言い出したんです。私は他に好きな女性ができたのではないかと疑いました。でも夫はそうではないと言う。だからこそわかりづらいんですけどね」
結婚して14年もたつのに、今さら結婚生活が向かないだの家庭は居場所ではないだのと言われても、どうすることもできないとミドリさんは夫に言ったという。
「そう、きみはいつでもそうやって現実的なんだよね、だから一緒にいて楽しくないんだと思うと言われて。なんだか私を全否定してくるから、私もムキになって、『あなたが大人じゃないっていうことでしょ』と言ってしまったんです。それは夫の心に妙に刺さってしまったようで、『だからこんな幼稚なオレとは別れたほうがいいよ』って。甘えてるんじゃないわよと怒鳴ってしまいました」
それから4週間近くたつが、夫とは必要最低限の会話しかかわしていない。家族はうまくいっている、家庭は万全だと思っていたミドリさんは、足下をすくわれた気がしてならないとうつむいた。
「夫は5歳年上で、もうじき50歳になります。もしかしたら男性の更年期なのかと思う半面、私のことが好きではなくなったということを婉曲に言っているだけなのかなとも思えてきて。夫の本心がわからないんです」
このところ、帰宅した夫が夕食をとりながら心ここにあらずという感じがすることも多く、ミドリさんは夫の心身の調子が気にはなっているという。だが、夫を心配してみても、今の彼には自分の気持ちが届かないとも思っているようだ。
「夫の親しい友人に、そのうち連絡してみようと思っています。離婚するつもりはないけど、これ以上、夫に全否定されたら私もつらくてもうやっていけないと思うかもしれません。家庭を壊したくない。私たちはなにより息子のことを最優先に考えなければいけない立場なのに」
安泰に見えた結婚生活に突然差し込んできた暗い影。ミドリさんは不安を抱えながら、それでも家庭を守りたいからがんばるしかないとつぶやいた。