国民的シンガーソングライター、あいみょん
1億回再生×5曲の最多記録! 名実ともに国民的シンガーソングライター
あいみょんは1995年兵庫県西宮市生まれ。公式プロフィールによると、かつて歌手を夢見ていた祖母や、音響関係の仕事に就いている父親の影響で幼少の頃より音楽に触れて育ち、中学の頃から作曲を始めました。2016年11月にシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。2019年には「Billboard 2019年年間TOP ARTISTS」、「オリコン年間ストリーミングランキング 2019」首位を獲得し、文字通りその年最も聴かれたアーティストとなりました。
2020年以降もヒットは続き、「今夜このまま」は2021年3月24日発表の「オリコン週間ストリーミングランキング」で累積再生数1億回を突破。「マリーゴールド」「裸の心」「君はロックを聴かない」「ハルノヒ」に続き、自身5作目の1億回再生突破で、「ソロアーティストによる1億回再生突破作品数」最多記録を更新中です。
普遍性あるテーマ×耳馴染み良さ×秀逸なワードチョイス
インディーズ時代に作られ、デビュー当初10代を中心に爆発的な人気を集めた「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」。一見すると「過激な歌詞」「イマドキのテーマ」とターゲットを絞っているようですが、昭和~平成のJ-POPファンにも納得の快活なギターロックサウンドが耳馴染み良く、韻を踏んだ歌詞や歌唱にも高等なテクニックが垣間見えます。
このように、あいみょんの魅力は「歌詞の独自性」と、「王道を行く音作り」の相乗効果にあるといえます。それぞれを詳しく見てみましょう。
往年の歌謡曲を彷彿とさせるサウンド
「曲作りの際、言葉と旋律が一緒に出てくることが多い」と話すあいみょんですが、楽曲の多くはスローまたはミディアムテンポで、コード進行も複雑怪奇ではなく、往年の歌謡曲に通じる親しみやすさがあります。吉田拓郎や浜田省吾、スピッツに影響を受けたというのも頷けます。「裸の心」はイントロから静かなピアノの音色が印象的なスローバラードですが、「壮大なバラードではなく、プライベートな曲にしたい」というあいみょんの思いが、アコースティックギターや鍵盤ハーモニカといったシンプルな音に込められています。
しとしと滴る雨音のような雰囲気も相まって、昭和歌謡に親しんだ世代にはどこか懐かしく、ダンスミュージックやボカロ曲に親しむ世代にはかえって目新しく聴こえ、それが世代を超えたヒットにつながっています。
官能小説も題材? 一癖ある歌詞に注目して
一方、歌詞に注目すると新たな発見があります。「愛」「恋」「生きる」といった普遍的なテーマを歌う曲が多いあいみょんですが、「歌詞の世界観は唯一無二」と評されます。大ヒット曲の一つ「マリーゴールド」の歌詞を見てみましょう。
一見すると特異な単語を使っていないのですが、情景描写を多めに、心情については結論をはっきり言わないことでポジティブにもネガティブにも、聴き手の捉え方によってさまざまな解釈が可能な余白がかなり多く作られています。麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと 懐かしいと笑えたあの日の恋
岡本太郎を敬愛し、官能小説を愛読するというあいみょん。男性目線の歌詞も多く、「タイアップソングを勝手に妄想して作るのが趣味」と語るように、視点・視座の豊かさは同世代のシンガーソングライターの中でも群を抜いているといえるでしょう。
『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』の主題歌に起用された「ハルノヒ」では、歌い出しから「北千住駅のプラットホーム」というマイナーな地名が登場しますが、これはクレヨンしんちゃんのお父さん・野原ひろしがみさえにプロポーズした場所が北千住駅であることにちなんでいるそうです。
「一発屋」を狙いがちな2020年代のJ-POPシーンであいみょんは……
ところで、「あいみょん」をYahoo!などの検索エンジンで検索すると、セカンドワードの候補に「人気曲」が挙がります(2021年4月現在)。このことも、あいみょんが世代を超えて普遍的に愛される理由の一つといえそうです。
というのも、TikTokやYouTube広告など「数秒で伝える」が主流のSNSマーケティングにおいて、どうしてもヒット曲は「一度で覚えられるキャッチーなメロディ」や「奇抜なワンフレーズ」に依存しがちで、ともするとお笑い芸人でいう「一発屋」に近い楽曲が量産されがちです。
いわゆる「バズるアーティスト」には、短命でブーム終焉とともに姿を消す、2曲目がヒットしづらい、といった宿命が待ち構えています。それに対してあいみょんは「この曲が絶対的な代表曲」というものが存在せず、冒頭にあげたように「ソロアーティストによる1億回再生突破作品」を5曲も持ち、何年にもわたってヒットチャートの上位にランクインし続けています。
楽曲自体の持つ「余白」ゆえ、18歳でも22歳でも35歳でも共感できる、質の高い「スルメ曲」(=噛めば噛むほど味の出る名曲)が次々と生み出されています。リスナーの傍らで、その成長とともに何年も輝き続けることができる普遍性が、あいみょん最大の魅力といえるでしょう。