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世界のSDGs:食を大切にする誇りを台湾の国民運動に

2013年から台湾政府は積極的に食品ロス・廃棄削減に力を入れています。台湾において食品ロスの事態が国民にも重視され、食べ物を大切にする民間団体の取組も続々出てきています。

執筆者:All About Japan 編集部

All About Japan編集部「世界のSDGs特集」とは?

現在、193か国が2016年から2030年の15年間で、SDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)という目標が設定されています。様々な社会課題に「とも(コレクティブ)に動く(アクション)」ことを目指し、コレクティブインパクトの手法で、社会実装を実現していきたいと考え、All About Japan編集部では「世界のSDGs特集」の記事を作りました。
 
今回のテーマは、SDGsの「食品ロスゼロ」に注目します。世界の貧困地域では食品が足りていない一方で、先進国では食品が大量に廃棄されているという現状を解消する必要があります。各国の食品ロスゼロへの取り組みを紹介することを通して、日本に生活している方へのヒントになり、目標の達成と食品ロスゼロの実現に推進することができれば幸いです。
見栄えが悪い野菜の運命は廃棄の一途ではありません。

見栄えが悪い野菜の運命は廃棄の一途ではありません。©Senata / PIXTA

 

台湾における食品ロスの現状

台湾では、生産側の損失は主に天候、生産と販売の不均衡、貯蔵設備などの要因で影響され、かつ販売ルートにより出荷規格、有効期限シール、または政府の規則により消費期限が残り三分の一以下になると販売できないため、棚に並ぶ前に多くの食材が廃棄になるケースも。そして、台湾の消費者は他の先進欧米諸国と同様に、ライフスタイルの変化により購入数が減少し、プロモーションによる過剰購入により無駄になっている傾向や、昔の台湾教育において食農教育を欠けるなど、台湾の国民が土地や環境問題より利益を先に見てしまう現象などの問題を抱えています。

 

シェアリング:集めたもったいないものを再分配

「流通と共有」は食品廃棄物を削減するための最初の防衛線です。つまり、見栄えが悪いが高品質の農産物を収集し、必要な人々に再配布すると同時に、食品廃棄物と人口の飢餓の改善につながります。

台湾には、喫茶店、パン屋、レストランなど、様々なケータリング会社と協力している民間組織「享食台灣(キョウショクタイワン/英:Foodsharing Taiwan)」があります。該当組織は主にボランティアによる食料品の再分配の活動をしています。例えば、レストランにある消費期限が迫っている(廃棄となる)食料品を集め、必要となる団体に配布。また、彼らも協力先に冷蔵庫の設置を積極的に発信し、余った食料品を困っている人が無償で利用できるようにしています。
享食台灣の冷蔵庫シェアリングルール。

享食台灣の冷蔵庫シェアリングルール。(画像引用元:享食台灣 Foodsharing Taiwan)


もちろん、シェアリングのルールは自分が食べたくないものを寄付するのではなく、ちゃんとシェア側も美味しくいただけるものを求めています。昔の田舎によくある物々交換的な感覚で、冷蔵庫に食料品を置いたら該当組織が運営するFacebookのコミュニティにて告知するのが一般的です。こうやって、「享食台灣」は2016年に設立以来、現在(2021年3月)台湾の各地に約23台の冷蔵庫を設置し、毎年約1,000kg以上の食品廃棄物を効果的に削減しています。
 

バリューアップ:加工したもったいないものを再価値化

食品廃棄物の改善でもう一つ重要とされるのは「付加価値の創出」です。調理や加工を通じて、新鮮な野菜や果物の寿命を延ばし、食べ物の価値を高めることです。

農業の変革過程にて有機農家が生産した形の良くない果物や野菜のサポート、出盛りや売れ殘り問題を解決するために、台湾の有機食料品販売チェーン「里仁(leezen)」が農家生産者と食品加工メーカーをマッチングし、出盛りや形の良くない青果物を価値創出しています。例えば、出盛りや規格外の人参を100%無添加の有機人参ジュースに、台風の影響で土に落として出荷できない文旦をサクサク香ばしい滋味豊かなパイに変身させるなどです。
形の良くないオーガニック人参を商品化。

形の良くないオーガニック人参を商品化。(画像引用元:里仁 leezen)
 

「里仁」はただ生産者と製造者間だけのハンドリングでなく、青果物の数が加工規模に合わない場合は、自社の社員食堂も調整役として、形の良くない青果物を無駄なく1食あたり数千人に提供する料理に活用しています。こういう有機農家の支援することから、形の良くない果物や野菜を優れた製品にするまで、食品廃棄物をゼロにする努力は、台湾にて年間800トンの地元食材の消費につながっています。また、「惜食(もったいない)」精神や生産者の思いを様々なイベントによって一般消費者に伝えることで、日常生活でも食べ物を大事にする信念が浸透してきました。
 

食を可視化するシェアリングマップ

日本にもその名を轟かせた台湾のIT担当大臣オードリー・タン(唐鳳)氏による、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑えるべくマスクマップの開発は有名ですが、食ロスにおいても台湾のIT力の見せ場があります。それは台湾企業「易福(eFOOOD)」の共同創設者であるフールー・ショウ(鍾馥如)氏が手掛けたプラットフォーム「eFOOOD食物分享地圖(efoood sharing map)」で、情報技術を駆使し、有効かつ速やかな食べ物スタンド(食べ物を寄附や受け取る場所/台湾では一般的に「愛心冰箱(櫃)、社區冰箱」などと呼ばれる)を可視化したサービスです。「惜食、享食、捐食(食を大切にすること、食をシェアすること、食を寄附すること)」をコンセプトとした「eFOOOD」は、余った食料品を寄附する側や、食べ物の援助を待つ側にも、簡単に所在地から検索できるシステムです。
eFOOOD食物分享地圖(efoood sharing map)の検索画面。

eFOOOD食物分享地圖(efoood sharing map)の検索画面。(画像引用元:efoood sharing map)


ほとんどの台湾人が困っている人をほっとけない、善意による寄付の行動を呼びかける性格があるため、新型コロナウイルスによる失業者達へ支援の一環として、「待用餐(ゴチメシ)」を提供する店がさらに増えました。「eFOOOD」も2020年2月に「愛心待用餐(慈しみゴチメシ)」の機能を追加し、容易に検索することができるようリニューアルし、また多言語対応もされたので、まさに台湾にいる全員を巻き込んで、食べ物を有効活用する取組を推進しています。
台湾まち中の食べ物スタンド一例。

台湾まち中の食べ物スタンド一例。(画像引用元:台湾フードバンク聨合会/Alliance of Taiwan Foodbanks)


「eFOOOD」にも参画する台湾の社会慈善組織「台灣食物銀行聯合會(台湾フードバンク聨合会/Alliance of Taiwan Foodbanks)」では、2020年10月16日の「世界食料デー(World Food Day)」に「完食挑戦」のキャンペーンを行いました。食べ終わった空っぽのお皿と一緒に写真をとり、指定したハッシュタグと3人の友人にタグ付けしSNSで投稿すれば、もったいない気持ちを食に困る人へ援助できます。かつては一つの投稿につきグローバル資産運用会社PIMCOが10元(約40円)を寄附する仕組みでした。その寄付金は聨合会の「まちフードバンクの育成事業」に活用し、食の循環や環境を意識した食育の推進を目指しています。
台湾「完食挑戦」キャンペーンのビジュアル。

台湾「完食挑戦」キャンペーンのビジュアル。(画像引用元:台湾フードバンク聨合会/Alliance of Taiwan Foodbanks)
 

「食を大切にする」台湾の新たな国民運動

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、誰もが資源の再利用を考えていると思います。事態が悪化した場合、どのような準備が必要なのか? かつては日常生活の中で気づきにくいものでしたが、いまを生きるための社会には、これから食品ロス問題への関心がさらに増大するでしょう。台湾の完食挑戦の皆の合言葉「我完食,我驕傲!(私は食を大切にする誇りを持つ)」のように、一人ひとりで食品ロスを減らすための小さな行動も、食べ物をシェアすることによって不平等の資源を再配分することで大きな削減につながります。身近なところから意識し、自分から周りを巻き込んで積極的に行動していきましょう!

執筆者:呉 怡慧(All About Japan 繫体字 編集リーダー)

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