人材育成・社員教育

日本通運が旅行業から撤退! 先が読めない時代に、失業や不本意な異動のリスクとどう向き合うか(2ページ目)

コロナ禍で、特に旅行関連産業である宿泊業や飲食店、航空会社や旅行代理店などの苦戦が続いている。もしも失業や不本意な異動で転職を考えた場合、転職の難易度は実際どうなのか。今後のキャリア形成のポイントとは。人材コンサルタントの小松俊明が考察する。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド


その理由の一つは、会社が清算されることが世間に広く知られた状態で、同じ会社の似たような業務経験を持つ社員が同時期にたくさん転職市場にあふれることだ。それによって、転職活動をする際に自社の社員間での競争をしなければならなくなるかもしれない。裏返せば、同業他社にとっては関連した業務経験を持つ多くの候補者の中から厳選して優秀な人材を採用できるチャンスになる。

一方、コロナ禍の影響で旅行業界全体が大打撃を受けている。つまり、本来は経験と実績をアピールして同業他社へ転職することができる人でも、今のタイミングでは同業他社に受け皿は少なくて、競合他社への転職に苦労する可能性がある。その結果、異なる業界への転職を余儀なくされる人が増えるかもしれない。もちろん異業種転職をすることは不利なことばかりではないが、関連業界における経験と実績が問われがちな中堅社員以降の世代の社員にとっては、転職のハードルは上がりかねないのである。

一方、一般的には同業他社への転職が有利とはいえ、これを機会に異業種へ挑戦してみるのもいい。コロナ禍の中で、あえて旅行業界から離れてほかの業種に転職するという考え方もある。平常時よりも、社員のそのような考え方に対して理解を示す会社は意外に多いかもしれない。

清算される会社が業界大手の大企業を親会社に持つ場合、運が良ければ親会社やグループ会社などへの異動が打診されるケースも一部で起きることがある。それが救済措置になる場合もある。一方、運よくグループ内の異動で雇用が継続できた場合でも、それが不本意な異動になれば、新たな問題が生まれることになる。

最近では、グループ内の異動とは別に、全日空やトヨタグループの事例でニュースになったように、「自社グループ外」の企業へ社員を出向させて、会社が社員の雇用を守る事例も増えつつある。社員の雇用を守る動きは評価できるが、異動先の選定において、当事者である社員本人の希望がどれだけかなっているのか、そこは気になるところではある。

・参考記事:ANAグループ外出向の衝撃! 30代・40代の転職市場価値は今後どうなるか

ビジネスパーソンにとって、どのような業種や職種でビジネス経験を積むか、それがまさに本人のキャリアである。グループ内外の企業へ異動した社員が出向先で、やりがいをもって仕事と向き合えているのか、各企業が該当する出向者に対して丁寧な追跡調査を取り行うことに期待したい。
 

どこで働いていても顧客と取引先は引き継ぐことができる

どこで働いていても顧客と取引先は引き継ぐことができる

 

不本意な異動がもたらす働きがいの喪失の中心にあるのは、それまで取り組んでいた仕事が継続できなくなったことに対する失望である。特に自分が信頼関係を築いてきた顧客や取引先に迷惑をかけることになれば、社員の中には自らを責める人もいるかもしれない。

急な会社清算などで顧客や取引先に迷惑をかける可能性が出てきた場合、それを自分一人で抱え込むことがないよう気をつけることが大切である。自分だけでなく周りの社員にも、そのように思い詰める同僚がいないか、注意してみてほしい。もし顧客や取引先から厳しく叱責を受ける場面が想定されるなら、それは立場が上の社員を巻き込み、複数の社員で一緒になって対策を講じることが必要である。

顧客や取引先とは粘り強く誠意のあるコミュニケーションを心掛け、時には毅然とした態度で、何ができて何ができないか、丁寧に説明していく覚悟を持つ必要がある。どんな厳しい顧客や取引先でも、今、何が起きているか、それは理解しているはずである。

顧客や取引先も可能な限りの最善策を模索しているため、会社が清算される社員としては、相手の不安をできる限り取り除いて、そのうえで相手の期待にどうこたえていくか、そのことに集中すべきである。対応次第では、嵐が去った後にいつの日か、再度また同じ顧客や取引先と今度は異なる会社で付き合いを再開できる可能性があるかもしれない。働く会社に関わらず、顧客と取引先は引き継ぐことができるのである。

>次ページ「将来転職するつもりがなくてもキャリア形成を意識しておくべき」
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