「温厚な紳士」がゴルフクラブで妻を殴った!?
趣味や楽しみに使われるはずのゴルフクラブが、妻を傷つけるために使われました
翌日のワイドショーで男性コメンテーターたちが「温厚で紳士的な方。信じられない」「妻が通報だなんてあまり聞いたことがない」などとショックを受けているのを見て、筆者は「あるあるだから!!」と大きくツッコんでおりました。
また、番組では、被害を受けた妻がクリスマスイブに更新したブログに「健康で仲良く笑顔で家族元気に楽しく過ごせる幸せに感謝」と書いていたことも疑問視されていましたが、これも、DVあるあるです。
女性支援を専門とする臨床心理士・公認心理師のカウンセラー福田 由紀子が、ひとつずつ解説していきます。
DVの原因は「妻をサンドバッグにしていい」と思っていること
DV加害者は、外面が良く、腰が低い「いい人」であることが少なくありません。それは一方で、他人からの評価が気になるため、人に気を遣いすぎてストレスを溜めやすいということでもあります。しかし、妻に暴力を振るわない「いい人」もいます。というより、DV加害などしない「いい人」の方が多数派です。
違いは、自分のストレスを、妻で発散していいと思っているかどうか、です。DVには色々な言い訳が使われます。「俺が食わせてやっている」という自負のある人は危険です。ベースに妻への見下しがあると、「妻が悪いからだ」と暴力を正当化して、妻をストレス発散のサンドバッグとして使います。
「お酒を飲むと暴力を振るう」と、DVの原因はお酒であると認識している人も少なくありません。かつては「酒乱」という言葉もありました。しかし、DVの原因はお酒ではありません。病気でもありません。アルコールにより抑制が外れるということはあるでしょうが、「妻を殴りたい」「妻なら殴ってもいい」と思っているから殴るのです。どれだけお酒を飲んでも、妻を大切に思っている人は殴りません。
原田夫妻の年齢差は17歳。年収にも大きな違いがあるでしょう。社長として部下を使う立場に長くいる人でもあります。家庭内に支配と服従の関係が持ち込まれやすい面はあったでしょう。
なお、被害者の妻は、結婚を機に「家庭を優先するため」仕事をセーブしていたといいます。もしもそれが、彼女が心底望んで選んだことではなかったのだとしたら、その頃から「DVの芽」はあったと考えられます。なお、妻だけが夫に敬語を使っていたり、妻を「おい」「お前」と呼ぶ夫は要注意です。
妻によるDVの通報は少なくない
ゴルフクラブで殴打するというのは、DVが相当エスカレートしていたという印象です。DVは徐々にエスカレートしていくので、長年日常的に暴力を受けていたと考えるのが自然です。妻も有名人ですから、警察に通報するというのは「よくよくのこと」です。殺されると思ったのでしょう。
ちなみに、平成30年の内閣府の調査では、女性の3人に1人が配偶者からDV被害を受けたことがあり、7人に1人は何度も被害にあっています。また、女性の20人に1人が「命の危険を感じた経験がある」と回答しています。
「ゴルフクラブで殴られる」というのは、「刃物を向けられる」「首を絞められる」と同様、一歩間違うと死に至ります。そのため、最悪の事態を避けるため、凶器になりそうなものが夫の目に触れないよう隠しているDV被害者は少なくありません。
殺されると思ったら警察に助けを求めるのは市民として普通のことです。「どれだけ殴られても、妻が夫を警察につきだすなんてけしからん」と思っているのだとしたら、その人がDV加害者であるか、加害者予備軍かのどちらかです。
夫を恐れる心理。恐怖を忘れたい心理
「これはDVですか?」と相談に来られる方は少なくありません。そして夫の暴力の詳細を語りながら、夫をかばいます。「暴力を振るわない時は、いい夫なんです」「怒らせた私が悪いんです」と。どんな理由があろうと、暴力は100%加害者の責任です。気に入らないからと他人を殴れば犯罪になるのと同じです。しかし「俺を怒らせたお前が悪い」と日常的に言われ続けていると、だんだんそれが真実のように思えてきます。催眠や暗示をかけられているような状態になってしまうのです。
でも、これはさすがにおかしい。つらすぎる。そう思った時に、被害者はDV相談につながります。しかし、夫の機嫌を損ねる自分が悪いと思い込まされているので、暴力被害を受けることが「妻として恥ずかしい」とも思うのです。
家庭内は密室ですので、被害者が漏らさない限り、ほとんどのDVは表に出ません。ですから、自分の訴えによって夫のキャリアに傷がつくこと、逆恨みで仕返しされることを恐れて、誰にも相談しない被害者も多くいます。社会的地位の高い夫であればなおさら。DVを隠すために幸せを装うことは珍しくありません。
また、一方で、暴力の恐怖は忘れたいものです。DVにはサイクルがあり、激しい暴力の後に優しくなったり、泣いて謝ったりする加害者も少なくありません。その時期の夫が「本来の夫なのだ」と思いたいのは、好きで結婚した相手なのですから当然のことです。離婚したくても経済的な不安があるため、「生活のために」「子どものために」と、被害のことを忘れようとします。
しかし、恐怖は長く人を支配します。逆らうと怖いからと、寝たきりになった夫の言いなりになっている妻も少なくありません。
「70歳になった時、夫に従ってきた人生を後悔しないだろうか?」……もしも答えに迷うようなら、一度専門家に話してみましょう。
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