注射の痛みは軽減できる? 痛み軽減のための2つのアプローチ法
注射嫌いの人は大人でも珍しくありません。注射の痛みを軽減するコツを押さえましょう
注射の痛みをやわらげるには、大きく2つのアプローチ法があります。
- 注射による局所が組織損傷した情報をブロックする方法
- 脳から痛みを感じにくくさせる方法
注射の痛みをやわらげる4つの方法
1. 冷却法冷たさ(冷覚)によって痛覚を感じにくくする方法です。低温やけど、凍傷に気を付けながら、穿刺直前まで約1分間、注射する部位を冷やします。できるだけ低温の保冷材などがおすすめです。しかし、注射会場が自宅から離れていたり、待ち時間が長かったりして、注射直前には保冷剤が溶けているようでは効果がありません。会場周辺でキンキンに冷えた缶ジュースなどを購入し、穿刺予測部位に強く押し当てると代用できます。
当然ながら、冷やした部位と穿刺部位がずれてしまった場合や、腕を消毒してから注射までの時間が長い会場では、効果が薄れてしまいます。
できれば注射の列に並ぶ前に、穿刺する医療従事者が腕のどのあたりを刺すか確認できるとベター。また、腕を消毒する直前まで、保冷剤を穿刺予測部位に1分しっかり押し当てるようにしましょう。
2. 呼吸法
痛みは副交感神経を活性化させたときに和らぐと考えられています。出産時の呼吸法であるラマーズ法が有名ですが、「ひっひっふー」と、息を吸ってから細く長く吐くことで、副交感神経を活性化させ、痛みをやわらげることができます。痛みをこらえようと息を止めて力んでしまう人が多いかもしれませんが、注射の針を刺す直前から、薬液の注入が終わるまで、息を細く口からフーッと吐き続けましょう。1の冷却法と併せることで、さらに効果が期待できます。
3. 親指爪刺激法
注射の痛みを、他の痛みで紛らせる方法です。冗談のように聞こえるかもしれませんが、これは「広汎性侵害抑制調節(DNIC)」という手法を活用した立派な鎮痛方法です。注射される腕と反対側の人差し指の爪先で、親指の爪のつけ根をギューッと押さえてみましょう。強い痛みであるほど、DNICの効果が期待できます。DNICの鎮痛方法は、爪でなくても全身のどこに痛みを加えても作用します。注射の痛みを軽減できるのは、他の部位に痛みを加えているわずかな時間に限定されますが、一時的には効果があるでしょう。
4. ストレス鎮痛法
「「全集中!」で痛みが消える? 子どもの予防接種で有効な声かけ」記事で詳しくご紹介した、子どもたちが『鬼滅の刃』の技名で痛みを和らげる方法に相当するものです。2の副交感神経を活性化する方法とは逆に、交感神経を高揚させる方法です。
人は誰でも注射を受けようとしている段階で、すでに大きなストレスを感じています。戦闘中は痛みを感じにくくなるのと同様に、注射を受ける前は交感神経がすでに活性化していますから、さらに気分を高揚させる方法を選びましょう。注射して薬液が注入され終わるまで、穿刺部位をあえてグッと見つめる、というのもその一つです。怖くて見ていられないわ、とおっしゃる方は、自分の心が高揚する音楽を頭の中でガンガンに流してみましょう。自分の心を奮い立たせられる方法を選ぶことがポイントです。
注射恐怖症? それでも注射が怖い方へのアドバイス
どの科よりも注射を専門に扱う麻酔科医として、一言アドバイスです。実は私も注射が大っ嫌いなのです。人様に何万本注射を打っていても、自分の注射には慣れることはありません。それは小さいころから、注射の痛みを嫌なものとして深く記憶してしまっているからです。しかしどんなに苦手でも、やはり注射を受けるべき時があります。今回、痛みの軽減方法を知り、頭ではわかったつもりになっても、まだ注射を避けたいと思ってしまう時にはどうすれはよいでしょうか?
そんなときは、注射嫌いのあなたが、苦手な嫌な注射を「やっぱり受けるべきだ」と覚悟した理由を、もう一度思い出してください。
今は新型コロナウイルスのワクチン接種が話題になっています。
「このワクチンを受ければ、恐ろしい合併症を抑制できるかもしれない」
「感染せずに済むかもしれない」
「重症化するのは嫌だから少しでもリスクを低くしたい」
「家族にも絶対にうつしたくない」
あなたが注射を受けようと思ったきっかけを、できるだけ具体的に思い出してみてください。どんなに注射が嫌だとしても、人はその報酬によって、行動が変わります。変えることができます。注射を受ける目的を明解にすることで、きっとあなたは注射の痛みを、恐怖を、不安を克服することができるはずです。