日本でも新卒の「ジョブ型雇用」が増加するか
新卒一斉採用の慣習が減っていけば、日本でも「ジョブ型雇用」の増加が加速する可能性がある。ジョブ型雇用とは、職務を特定したうえで採用することであり、中途採用では一般的である。現在の新卒採用は、就職というよりも就社といったほうがより正確であり、ジョブ型雇用に対して、メンバーシップ雇用という言葉を用いて説明されることがある。多くの新卒採用は、入社時に特定の職務を本人に約束した形で採用はしておらず、本人の希望を事前に聞くことはあるものの、配属でそれが反映される保証はない。入社後は一定期間ごとにジョブローテーションがあるのが、日本の職場では一般的である。社員本人の育成計画もあるが、社員を異動させる理由は、会社都合が優先されることも多いのが現実である。さまざまな異なる分野の仕事を経験することで、その会社で働く人材としては最適化されていくのである。しかし、その結果、転職市場で売れにくい経歴になることもある。
日本でも新卒の「ジョブ型雇用」が増加するか
転職社会が定着している現代において、雇用の流動性と親和性の高いジョブ型雇用は、会社にとって効率的な経営が実現できる。そして社員個人にとっても、将来にわたり柔軟なキャリア選択(社外も含む)がしやすくなる可能性がある。
以上のように、新卒採用と中途採用のどちらにおいても、今後はジョブ型雇用が主流になる時代になるだろう。コロナ禍で在宅勤務が増えたことで、上司や先輩社員の監督がなくても、きっちりと一人で仕事を仕上げることができるスペシャリスト人材が重宝されていることも追い風になる。実際、世界の雇用の現場では、ずっと以前からジョブ型雇用が主流であることを見れば、日本がそうなるのも時間の問題かもしれない。
「スマートデバイス」で効率的に「在宅勤務」「副業」もOK!?
昨年来のコロナ禍で、働き方やキャリアと関係が深くて最も注目される商品はズバリ、「スマートデバイス」であるだろう。職場や外出先、そして家の中でさえも、周りを見渡してみれば、あらゆる商品がスマートデバイスへと進化を遂げていることが分かる。スマートデバイスとは、スマートフォンなどの多機能端末が代表例だが、基本的にはインターネットとつながり、通信や通話ができるもの全般を指す。軽量化とコンパクト化が進み、簡単に携帯できるようにもなり、操作性もタッチパネルで直感的に行うことができる。まずはスマートフォン、ノートパソコン、タブレットなどが思いつくが、考えてみればテレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、電子レンジなどの家電でも操作性は大きく向上しており、車に乗っていても家でデスクに向かってパソコンを操作しているのと同じような作業ができる場合もある。
コロナ禍になって「在宅勤務」(似たように使われる言葉:リモートワーク、テレワークなど)で毎日を過ごす人が増え、あらためて世の中の何もかもがスマートデバイス化していることを実感した人も多かったのではないだろうか。もちろん技術が進んだからといって、全ての人の生活空間がスマートデバイスであふれかえっているわけでもないだろうから、世の中の変化を実感するにしても感じ方に個人差があることは否めない。
しかし、多くの会社では在宅勤務に切り替える中で、社員にノートパソコンを持たせるようになり、リモートワークで仕事をするようになった人は、コロナ禍で日本中に一気に広がったことだろう。それによって通勤電車は、以前ほどの混雑がなくなった。朝早くから通勤ラッシュに巻き込まれなくなった分、ビジネスパーソンは余計なストレスからも解放されたに違いない。この変化を歓迎している人は、少なくはないのではないだろうか。
会議もオンライン化したことで、本当に必要な会議のみが実施されるようになれば、職場の生産性はむしろ上がる。会議後の議事録や報告書を作る必要もなくなり、残業時間が減った人もいるかもしれない。もちろん、何でもオンライン化することで、気軽なコミュニケーションが阻害されていることを指摘する意見もある。確かにデメリットもいくつかあるが、長年にわたり長時間労働の悪習を改善できなかった日本の職場が、ある意味、強制的に新しい働き方にシフトしたことは確かである。
いずれコロナ禍が収まった後に、以前のようなワークスタイルに戻す必要性を感じない人が職場に増えれば、コロナ禍がもたらした数少ないプラス材料として、日本の会社において「働き方の最適化」が進むかもしれない。
具体的には、スマートデバイスでステイホームが実現しやすくなり、通勤の負担もないから体力が温存できて、ストレスフリーとなる。うまく隙間時間を利用すれば、平日の昼間でも家庭の仕事を手伝うこともできる。例えば家族とランチをし、家族を最寄り駅まで車で送迎するなど、家族メンバーとのコミュニケーションも増えて家族円満につながるかもしれない(逆に喧嘩が増えて、家族の仲が悪くならないよう注意は必要だが)。
オンライン会議で生産性の高い働き方を実現し、雑務のような仕事が減少すれば、一日の仕事も早く終わる。残業という考え方はなくなり、結果を出すために最適な働き方を設計できる裁量労働制の考え方で、誰もが仕事を自由に組み立てられれば、仕事の自由度や生産性、創造性は増すかもしれない。もちろん裁量労働制に対するネガティブな見方(例えば社員間の業務量の偏りが助長されるなど)もあるため、社員間(上司・部下間を筆頭に)のコミュニケーションやマネジメントの重要性は一層高まる。
平日の働き方に変化が生まれれば、これまで以上に週末の過ごし方が楽しくなるだろう。時間をうまく使えば「副業」もできるようになるかもしれず、会社の給料が上がらないことを不満に感じるよりも、「足りない稼ぎの分は副業で補う」という発想が定着するかもしれない。
「副業があるおかげで、安心して本業に打ち込める」という見方もできる。日本では、長年にわたり雇用主が社員の副業をネガティブにとらえてきた(本業をおろそかにしかねないなど)。しかし、終身雇用や年功序列の慣習が薄まる中、さらに会社の雇用や働き方の多様化が進めば、「社員の副業は会社にとってプラスに働く」という考え方がもっと広まっていくかもしれない。
>次ページ「『ESG経営』と『ソーシャルワーク』に注目が集まる」