2021年はニューノーマルを模索する一年となる
新しい年は、コロナ禍の感染者数がオーバーシュートしたニュースで始まった。感染者数の推移をニュースで追うことや、どこに行くにもマスク着用で、小まめに手指の消毒をして外出時間を極力短くするなど、私たちがコロナ禍で日常生活を送ることに慣れてきた矢先のことである。リモートワークが進み、全ての社員が同じビルの中で“すし詰め”になって同じ時間や空間で共に仕事をしなくても、オンライン会議などを有効に使えば協働は可能であり、工夫すれば生産性を下げることなく日々の仕事は十分にできることが分かってきた職場は多いことだろう。
企業にとって、事業活動の何にお金をかけるべきか、そして人件費や雇用のあり方も含めて、コスト構造を抜本的に見直す機会にもなっている。東京都港区にある広告業で国内最大手の電通が、本社ビルを売却することを検討しているというニュースが流れたが、これはその象徴的な出来事ではないだろうか。
売却検討の報道が出た汐留にある電通本社ビル(Manuel Ascanio / Shutterstock.com)
確かに先行きが分からない不安はある。しかし、働き方の慣習一つをとっても、日本人はとかく働きすぎで気持ちにゆとりがないと言われ続けてきただけに、このトンネルの先には、新しい日本人ビジネスパーソン象が生まれる期待を持てないだろうか。
日本の常識が世界の非常識ではなくなり、世界の常識に近づいていくことを見届ける日が来るかもしれないのである。今、世界で起きていることの多くは、さまざまな既得権益を打ち壊すチャンスととらえてもいい。
本稿ではキャリアと働き方のトピックに絞り、ニューノーマルを考えるために役立つキーワードを取り上げて、2021年に起きうる変化に注目する。まだしばらく続きそうなコロナ禍において、2021年度の会社生活を有意義に過ごすためのヒント、そして将来のキャリアや自らの生き方を考えるきっかけになれるように論じていきたい。
「通年採用」が一気に進む
世界では見られない日本の不思議な現象の一つが、4月入社の新卒採用である。世界の大学に合わせて日本の大学の入学時期を9月入学へ移行させることが検討されたときも、その実現の障壁となった理由の一つが、新卒が4月に一斉入社をすることであった。なぜ企業が新卒採用で4月にこだわるのかといえば、学校年度が4月から3月であること、そして大学が一斉入学、一斉卒業の方式を採用しているからである。採用活動を一元化できることで業務の効率化やコスト削減につながるメリットも加わり、現在の新卒採用のスケジュールが確立した。一方、優秀な人材を獲得するために、多くの企業は学生の青田買いをする。長年にわたり、経団連は会員企業を対象に独自の就活ルールを設定し、企業の青田買いがエスカレートしすぎないようブレーキをかけてきたが、その就活ルールも、今後はなくなる方向にある。
まして、コロナ禍で大学授業のオンライン化が進み、多くの学生が出席して行われる学校行事もほぼキャンセルとなった。今後は4月一斉入学だけでなく、9月入学をはじめ、入学時期の多様化が進む可能性もある。実際、海外の大学の中には年間6回の入学時期を設けている大学もある。入学する学生の多様化(年齢、国籍、社会人学生等)を考えれば、入学時期は複数ある方がいいという結論になるからだ。
現状、企業の中には、既に新卒採用は4月入社と10月入社の年2回と設定している会社も増えつつある。外資系企業などを中心に、新卒の入社も中途採用と同様、「通年採用」としている企業もある。この傾向は、コロナ禍で雇用環境のニューノーマルが模索されていく中で、さらに加速していくかもしれない。
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