アドバイス1 家計見直しで月5万円の貯蓄を
まずは、出産と住宅購入をマネープランに組み込んで試算をしてみましょう。設定として、出産は今から3年後、住宅購入は出産から3年後。奥様のプリンさんは便宜上、すでに転職し、正社員ではありますが、収入は3分の2(手取り額で給与14万円、ボーナス年間27万円)に減収したとします。毎月の家計収支ですが、世帯月収が29万円ですから、家計はほぼトントン。赤字にはなりませんが、貯蓄もできないという状況です。ボーナスは、ご主人の支給額が不透明ですが、データどおりであれば、年間30万円程度は貯蓄に回りそうです。ただし、3年後に出産されれば一時的に減収になり、育児休業後に復帰しても保育園費用等が発生しますから、おそらく継続的に家計赤字となるでしょう。この時点で住宅購入はきびしいと言わざるを得ません。つまりここで資産はついえてしまいます。
しかし、ではプリンさんが今の職場で働き続ければいいかと言えば、さらに高いリスクを抱える可能性があります。働けなくなるほど体調を崩したら、それこそ元も子もありません。今のコロナ禍を考えても、家族の健康を最優先と考えるべきです。
そうなると、今できる方策はひとつしかありません。家計の大幅な見直しです。目標として月5万円の貯蓄を目指したいところ。
そこで、まず手をつけるべきは保険。養老保険以外はすべて解約します。定期保険や収入保障保険を利用されている点はいいのですが、夫婦とも現時点で死亡保障は不要です。お子さんが生まれてから確保しましょう。医療保障は必要最小限(入院5000円)、確保したいところですが、現在加入の医療保険は65歳払い込み終了のため、保険料がやや割高。より保険料が安い、終身保障終身払いの医療保険か医療共済に切り替えます。養老保険は満期が数年後、あるいは予定利率が高いのであれば継続もいいですが、それも考えにくいので払済保険とします。これで毎月の保険料は3万円近く浮くことになります。
あとは毎月2万円、他の支出から捻出します。世帯にとっての優先順位、節約しやすい費目からで構いません。一般的に見て、通信費と雑費でしょうか。最初は大変かもしれませんが、ライフプランとして大きな2つの目標があります。ここは創意工夫で乗り切りましょう。
結果、毎月5万円の黒字となれば、年間60万円。ボーナスを含めると年間90万円ですから、出産までの3年間で270万円。出産~育児の1年間は減収等で貯蓄はゼロとして、復帰後さらに2年間貯蓄をして180万円。これで、貯蓄の上積みが450万円ですから、手持ちの資金と合わせて1350万円。ここから住宅購入資金を捻出します。
アドバイス2 教育資金は用意できるが老後資金がない状態に
まず物件価格ですが、仮に3500万円とします。手持ち資金は500万円は残したいので、住宅購入の頭金は700万円、諸費用150万円とすれば、借り入れは2800万円。変動金利の方が低金利ですが、金利上昇リスクがあるため、全期間固定、金利1.5%で借り入れるとします。完済時期をご主人65歳とすれば返済期間は32年間。毎月の返済額は約9万2000円(ボーナス払いなし)となります。ただし、この他に固定資産税や一戸建ての場合、将来の修繕費用は自発的に用意しておく必要がありますので、ランニングコストとして別途2万円上乗せすれば、毎月の住宅コストは家賃よりも約4万円アップとなります。
それ以外の生活のアップもあります。まず、出産後には死亡保障を確保する必要があります。夫婦とも定期保険で保険期間20年、死亡保障1500万円か、それに近い保障を収入保障保険で確保します。保険料は夫婦合計で月4000円前後でしょう。教育費は別途試算するとして、それ以外のいわゆる子育て費用も当然あります。結果的に毎月の貯蓄は難しく、貯蓄はボーナスのみ。年間30万円として、定年までの27年間で約800万円。手持資金500万円、児童手当が総額200万円ですから、合計は1500万円。
教育費は進路によってかかる費用は大きく変わります。高校まで公立、大学が私立文系(ただし自宅通学)で一般的には1100万~1200万円といったところ。1500万円から差し引いて、まだ300万~400万円余りますが、クルマを2台所有されていますので、車両価格を抑え気味にしても買い替え費用でほぼなくなるでしょう。結果的に定年時に貯蓄は「ほぼない」という状態が想定されます。
この試算は、世帯収入のアップを考慮していません。したがって実際は資金的余裕はあるかもしれません。また、退職金がご夫婦ともあれば、それが老後資金になります。しかし、ともに不確定要素です。もうひとつの問題は、住宅ローンの返済が65歳まで続くということ。教育費などが発生しませんから、生活費は下がりますが、それでも夫婦とも少なくとも65歳まではフルタイムか、それに近い形で働くことが必須条件となります。
一方、夫婦とも厚生年金加入に加入している点は強みです。65歳以降は、老後の生活費にもよりますが、住宅ローンは完済していますので、公的年金だけで毎月の生活費はまかなえるかもしれません。ただし、老後の予備費(医療・介護費用、住宅リフォーム、クルマの買い替え)がほぼない可能性があり、これは当然リスクと言えます。
アドバイス3 物件価格を下げることで将来のリスクは抑えられる
そう考えると、もっとも確実にリスクを抑える方法は、住宅コストを下げることになります。物件価格が3000万円であれば毎月の返済は7万5000円。先の試算より住宅コストが月1万7000円下がります。これを全額貯蓄すれば、返済期間32年間で650万円ですから、それだけ老後資金が増えるとも言えます。物件価格が2500万円なら32年間で1260万円にもなります。また、これだけ物件価格を下げると、60歳時のローン残高も低くなりますから、退職金額によってはその時点で繰上返済による完済も可能かもしれません。ただし、住宅購入について「新築一戸建てで4000万円以下に抑えたい」とありますので、物件価格が2500万~3000万円となれば中古物件か、希望地より不便な立地ということになるでしょうか。しかし、そこまで購入範囲を広げることで、よりリスクは抑えられます。
また、中古物件であれば修繕・リフォーム費用がより発生するでしょうが、そこは様子を見ながら、自分のペースでコストを掛けていくこともできるはず。まだ、時間はあります。住宅についていろいろ調べ、また実際に物件を見たりしながら、住宅コストをある程度抑えることができれば、お子さん一人と住宅購入ともに無理なく実現できると考えます。ともあれ、今はそのときに備えて、貯蓄体質をまずは目指してください。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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