とりあえず今は、泳がせておく

main

 


夫の不倫疑惑は思わぬところから明らかになっていくもの。疑わしい点がいくつかつながって線になっていく。いざ露見したら自分はどうするのか、その決意がつかないうちは見て見ぬふりをし、泳がせておこうと決めた女性がいる。

 

夫の様子が“何か”おかしい

もともと、2歳年上の夫は非常にまじめで几帳面、恋愛経験も少なかったはずだとアサコさん(46歳)は言う。結婚して18年、高校生と中学生のふたりの子がいる。

「夫は大学の先輩なんです。サークルが一緒でしたが、当時はそれほど親しくなかった。卒業して3年ほどたってサークルのOB・OG会で再会、そこからつきあいが始まりました。大学を出て1年後には夫は海外赴任していたこともあり、恋愛には疎いんだと言っていましたね。海外だからと羽目を外すタイプではないですし……」

彼のまじめさ、誠実さに惹かれて結婚したのだとアサコさんは言う。

「共働きでふたりの子を育ててきました。私の母に助けられた面も大きいんですが、母も夫のまじめさは高く評価しています。父はものすごい遊び人で、母はいつも泣かされていましたから」

夫は一緒にいて楽しい人ではない。どちらかといえば無口だしおもしろいことを言うわけでもないし、楽しい趣味をもっているわけでもない。それでも、アサコさんは夫への信頼度だけで、この人と一緒になってよかったと思ってきたのだ。

そんな夫の様子が、何かおかしいと思ったのは2年ほど前のこと。

「夫が会社で異動になった、と。そのときは珍しく今度行く部署の話などをしてくれました。不安だったみたいですね、ちょっと畑違いの部署だったから。でもそれは夫の勤務態度を評価されたんだと思います。出世するタイプではないけど、やはり信頼されているからの異動だと思えたので。夫にそう言って励ましました」

その後、帰宅が以前より遅くなった。だが夫が黙々とがんばっているのがわかったから、アサコさんは以前より家事の負担が増えても黙っていた。少したつと週末は以前のように食事を作ってくれたりするようになったので、部署にも慣れたのかなと感じていたという。

「だけどそのころから、私は何かがおかしいと感じていました。何と言われてもわからないし、異動があったからかもしれない。だけどとにかく、夫の様子が以前とは少しだけ違っていたんです」

言葉にならない違和感が彼女を不安にさせた。

 

黒に近いグレーだけど「今は我慢」

それきり、夫は仕事の話をあまりしなくなった。代わりに「今度の部署は、けっこう外部との接触が多いんだよね」とだけ言った。

「それからは週に1、2度帰宅が非常に遅くなることが続きました。忙しいのと聞くと、接待みたいな席も多いんだとひと言。どういう内容の仕事だからどこを接待という細かい話はしません。私も仕事をしているから、そんなことをいちいち家族には言わないのもわかってる。でも、本当なのかなという思いはありました」

もともと夫はあまり酒を飲まないから、帰宅しても匂いがするわけではない。だが、どこか夫の雰囲気がやさしくなったというか、「色気があるように見えた」そうだ。

「仕事に邁進している男性って、ちょっとぎらつくんですよね。だけど夫はぎらついていない、むしろふわっとした雰囲気が漂うようになった。女性がいるのではないかと思ったのはそのときです」

携帯を見たい。何度もそう思った。だが夫の性格だったら携帯に証拠は残さないだろう。ところがある日の夜、買い忘れたものを買いに外にでると、自宅近くで電話をしている夫の姿が目に入った。そしてなぜか夫は電話をしながら駅のほうに戻って行ったのだ。アサコさんは夫を追ったが、夫は途中から小走りになり、タクシーを拾って走り去った。

「その晩、夫が帰ってきたのは午前零時を回っていました。ますます何か怪しいと思いましたね」

その日、寝静まった夫の携帯を、アサコさんはついに見た。だが、アサコさんが見かけた時間に電話をしていることは確認できなかった。おそらく通話記録を削除したのだろう。メッセージのやりとりなども仕事以外、見つけられなかった。

「何か暗号を使っているのか、あるいは見つけられないようにしてあるのかわかりませんが」

このコロナ禍においても、夫はほぼ毎日出勤だった。それも本当かどうかわからないとアサコさんは踏んでいる。

「家での態度はまったく以前と変わりません。子どもたちとは普通に会話をしています。以前よりしゃべらなくなったわけでもないし、かといってしゃべるようになったわけでもない。ただ、子どもたちは何かあると父親に相談する。やはり信頼されているのだ。

おかしいと思っているのは私だけなんでしょうね。でも最近も、夜中にトイレでこそこそ電話をしていたんです。何を言っているのかわからなかったけど話していました」

いっそ浮気しているんでしょと言ってしまおうか、とアサコさんは考えた。だが、家庭に波風を立てたくない。まして今、こんなコロナ禍にギスギスするのは嫌だという思いがある。

「今は我慢と決めました。微妙な挙動不審は今も続いているんですが、白黒つけるのは来年になって世の中が落ち着いてからにしようと思っています」

裏切っていたらただではおかない。そんな思いもあるものの、恨みつらみも含めて今は棚上げするつもりだという。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。