子育て

「子をほめて伸ばす」ブームの罠、真に伸ばすアドラー流「勇気づけ」

昨今「子をほめて伸ばす」という子育て法がブームですが、それを誤って捉えると子どもに悪影響を与えかねません。育児書でも増えてきたアドラー流子育て法では「ほめないことが大切」であるといい、代わりに「勇気づけ」を推奨しています。

田宮 由美

執筆者:田宮 由美

子育てガイド

子どもをほめて伸ばすのはよいの? よくないの?

子をほめて伸ばす

「子を褒めて伸ばす」という子育て法がブームだが……

昨今「子どもはたくさんほめて伸ばしましょう」という子育て法をよく耳にすると思います。私も、子育てや親子関係についての相談を受けると、「子どもの少しでもよいところを見つけ、ほめてください」とよくアドバイスします。実際にほめられると、子どもは喜び、次への意欲に繋げ、そして「認められている」と感じ、親子の信頼関係も深まるでしょう。
 
ですが、「嫌われる勇気」でブームになり多くの方に支持されるアドラー心理学の子育て法では「ほめないことが大切」としています。このアドラー流心理学に基づいた育児本も増えてきました。子どもはほめて伸ばすべきなのか、それともほめることはよくないのでしょうか。アドラー流子育て法が提唱している「勇気づけ」について紐ときながら解説していきます。
 
<目次>
 

アドラーの懸念する「ほめる」ことの問題点

アルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870~1937年)は、オーストリア出身の精神科医、心理学者で、フロイトやユングと並んで、現在のパーソナリテイ―理論や心理療法を確立した一人です。

アドラー心理学では、ほめることで次のような問題が懸念されるといっています。

■1. 縦の上下関係を作る
ほめることは、同等、もしくは目上の人に対して行うと、失礼にあたります。
なぜなら「ほめる」という行為は、上の者が下の者に対して「よくできたね」「頑張ったね」と評価をしていることになるからです。ほめることにより、上下関係を明確に確定していることにもなるでしょう。また縦の関係は、下の者に劣等感をもたせたり、その背後にある目的は支配や操作に関わってきます。
 
■2. 評価を気にして自立心を損なう
ほめることは、上下関係における評価を意味するので、評価を気にするようになり、人の言葉に呪縛され、子どもの自主性や自立心を損なうことに繋がります。

■3. ほめられなければ、何もしない
いつもほめられている子どもは、誰かにほめてもらわないと行動に移せない、頑張れないようになっていく可能性があります。たとえば、落ちているゴミを拾ったとき「えらいね!」とほめられれば、ほめられることが当たり前となり、誰も見ていなければ、ゴミを拾わないようになる可能性があります。
 
■4. 指示待ち人間になる
親はほめることにより、子どもを思うようにコントロール「操作」しようとしていることになり、指示がなければ動けない指示待ち人間になっていく可能性があります。
落ちているゴミを拾ったとき「えらいね!」と褒められれば、褒められることが当たり前となり、誰も見ていなければ、ゴミを拾わないようになる可能性があります

いつもほめられている子どもは、誰かにほめてもらわないと、行動に移せない、頑張れないようになって行く可能性もあります

そしてこのような懸念に対して、「賞」や「ほめる」対応に代わる「勇気づけ」を奨励しています。では、ほめることと勇気づけることは、どのように違うのでしょうか。
 
  • ほめることは、相手が自分の期待を達成したとき、という条件が付いているのに対し、勇気づけは、相手が自分の期待に添わなくても、失敗しても、無条件であらゆる状況で使われる。
  • ほめることは、ご褒美として上から下へ与える態度であるのに対し、勇気づけはありのままの相手に共感する態度である。
  • ほめることは、行為をした人に対し与えられ、他人との競争に意識が向かい、評価を気にするようになるが、勇気づけは行為に対して与えられ、自分の成長や進歩に意識が向かい、自立心や責任感が育まれる。

またアドラーは、勇気に近い表現に「自己受容」という言葉を挙げ、これを「自分を肯定的に味方につける能力・態度」と定義し、「自尊心」とほとんど同じ意味であるともいっています。
 

子どもの「セルフエスティ―ム」を高める関わりが大切

私は、これらのことから、アドラー心理学での「勇気づけ」とは、いわゆる「セルフエスティ―ム(Self-esteem)」を高める関わりといえるのではないかと考えます。日本では一般的に、「自尊感情」「自己肯定感」と訳されることが多いセルフエスティ―ムですが、その言葉の意味の捉えられ方には、ばらつきがあります。

例えば「子どもをどんどんほめて、自己肯定感を高めましょう」というほめ方には、「慢心」や「過信」が高まるようなほめ方が含まれている場面も見かけます。

テストで満点を取ってきたとき、「満点を取ってきて、エライわ!」というほめ方は、もしテストが満点でなければ、その子どもはダメな子となります。その場合は、「テスト勉強を頑張っていたものね。お母さん、嬉しいわ」のように、テスト勉強を頑張った過程や親の嬉しい気持ちを伝えることが大切です。

それは結果が望むものであってもそうでない場合にもいえることでしょう。このセルフエスティ―ムを高める言葉のかけ方は、アドラー流子育て法の勇気づけることと似ているように思います。
 

慢心や他人との比較を植え付けるほめ方はNG

私は、子どもをいっぱいほめることは、健やかな成長を促し、とてもよいことだと考えています。ですが、一概に「ほめる」といっても、真に子どもを伸ばすほめ方ではなく、慢心や過信の気持ち、また人と比較するような気持ちを植え付けるようなほめ方とが混同され、使われていることに懸念を抱いています。
 
アドラー流子育て法は、正しいほめ方を「勇気づけ」という言葉で表現し、誤ったほめかたと区別し、混同される問題を解決してるのではないでしょうか。そして「勇気づけ」により、子どもの健やかな成長を促し、伸ばす関わり方を伝えているといえるでしょう。


■参考文献
嫌われる勇気 岸見 一郎 ・ 古賀 史健 ダイヤモンド社
勇気づけの心理学 岩井俊憲 金子書房


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