<目次>
ジェンダーのステレオタイプが子どもに与える影響
性差のイメージは子どもにどんな影響を与えるのでしょうか?
こうした「女の子らしさ、男の子らしさ」といった性差のイメージについては、他にも、次のような言葉を聞いたり、自ら用いることもあるのではないでしょうか。
- 女の子は数学が苦手
- 女の子は感情的、男の子は論理的
- 男の子は片付けが苦手
- 女の子は方向音痴
- 男の子は闘いごっこなど乱暴な遊びが好き
- 女の子は一生懸命勉強しなくてもいい
- 男の子は落ち着きがない
性差のイメージを子どもに伝えることの弊害3つ
性差のイメージを子どもに伝えることにより次のような弊害が考えられます。1. 可能性の芽を摘む
想像してみてください。活発でリーダーシップに溢れ数学が大好きな女の子が、「女の子らしく、おしとやかにしなさい。勉強も女の子なのだからほどほどでいい」などと周りの大人から諭されたり、繊細で感受性が豊かで創造力に溢れた男の子が「そんな些細なことを気にするなんて情けない」と繰り返し伝えられるとするならば、どういう影響があるでしょうか? その子がもつ強みやよい面を十分に発揮することが難しくなるかもしれません。
2. 自分らしくあれなくなる
周りが期待する性差のイメージと、本来の自分らしい姿が異なる場合、自分自身を否定されたように感じ、自信や自己肯定感が損なわれることもあるでしょう。また、周りの人々に理解してもらえないというストレスや孤独感を抱えることもあるでしょう。
3. ネガティブな決めつけ通りになる
社会心理学者クロード・スティール博士とジョシュア・アロンソン博士は、周りの人々からのネガティブな決めつけが、結果、ネガティブなパフォーマンスを生み出してしまう現象を「ステレオタイプの脅威」と名づけました(*1)。
例えば、「女の子は数学が苦手」や「男の子は乱暴」といったステレオタイプを持つ人々に囲まれることで、実際、子ども達が、数学が苦手な女の子となったり、乱暴な男の子になったりということが起こり得ると報告されています。
「男の子は乱暴者」というステレオタイプを強調する必要はない
性差のステレオタイプで子どもの可能性を狭めないためにできること5つ
では、性差のステレオタイプによって子どもの可能性を狭めてしまわないために、親として何ができるでしょうか?1. 性差に関わらず様々な玩具に触れられるようにする
周りの大人が与える玩具によって、9カ月の乳児でさえ、性差による玩具の好みをもつようになると分かっています(*2)。
それでも、性差にとらわれず様々な玩具に触れることで、子どもの能力もよりバランスよく育つと分かっています。例えば、女の子にも、組み立て式の玩具を与えるならば、空間認識力を培う機会となるでしょう。また男の子にも、人形やままごとセットを与えるならば、共感力やコミュニケーション力を伸ばす機会となるでしょう。
性差によって子どもの可能性を狭めるのではなく、より可能性を広げるような玩具の与え方を心がけたいです。
2. 異性と遊ぶ機会をもつ
性別の異なる相手と一緒に遊ぶ機会をできる範囲でもちましょう。同性のみの遊びでは、思いつかなかったような興味関心に感化されたり、新鮮な遊びに出会うこともあるかもしれません。また、自分とは異なる性別について、より理解する機会にもなるでしょう。
3.「性差のステレオタイプ」を超えて活躍するロールモデルに触れる
例えば、女性のパイロット、数学者、エンジニアや、男性の保育士、料理研究家、看護師など、より性差に偏りがみられる分野で活躍する人々について調べたり、実際に会って話を聞いたりする機会を持ってみましょう。
少数者であっても、自らの仕事に誇りを持ち生き生きと取り組む姿に触れることで、子どもも、性差のバイアスを和らげることができます。
性差の偏った職業のロールモデルに触れてみましょう
例えば、玩具屋では、女の子の玩具売り場はピンク色に塗られ、様々な人形がならび、男の子の玩具売り場は青色に塗られ、車や組み立て式の玩具が並んでいることがあります。そうした場合も、「女の子(男の子)だからこちらの売り場のこの玩具よ」といった言葉をかけず、子どもが興味を持つままに探索させてあげましょう。社会が強調する性差を、親はより強める必要はないと思い出したいです。
脳が最も順応しやすいのは7歳頃までという報告もあります(*3)。幼児期は、必要のない性差についての偏見をなるべくすり込まないようにしたいです。
5. ひとりの人として接する
人を男女と二分して決めつけるより、一人一人の子どもを観察し、それぞれの個性を見出だし接する方が、子どもはより健全に成長します。
例えば、性差を強調する言葉をできる範囲で用いないのようにしてみるのも方法です。「なんて優しい女の子!」より「なんて優しい子!」という言葉をかけるよう心がけてみましょう。
子どもがより自分らしく力を発揮できるサポートを
脳のスキャンによると、個々人によって程度の差はあるものの、生物学的な性別の違いは確かに存在するとされています。生まれつき、女らしさ・男らしさといった区別は存在します(*4)。しかし子どもは、生まれ持った「生物学的性差(セックス)」だけでなく、後天的に育まれる「文化的社会的性差(ジェンダー)」の両方から影響を受け成長します。
大切なのは、子どもがより自分らしく力を発揮できる大人に育つことです。その妨げとなる性差の強調は必要ありません。子どもが、より自由に個々の力を培い、持てる力を生き生きと発揮できるよう、サポートしていきたいですね。
【参考資料】
(*1)Steele CM and Aronson J. 1995. Stereotype threat and the intellectual test performance of African-Americans.Journal of Personality and Social Psychology, 69, 797-811.
(*2)Preferences for ‘Gender‐typed’ Toys in Boys and Girls Aged 9 to 32 Months - Todd - 2017 - Infant and Child Development - Wiley Online Library
(*3)National Scientific Council on the Developing Child 2007. The Timing and Quality of Early Experiences Combine to Shape Brain Architecture: Working Paper No. 5.
(*4)Daphna Joel, Zohar Berman, Ido Tavor, Nadav Wexler, Olga Gaber, Yaniv Stein, Nisan Shefi, Jared Pool, Sebastian Urchs, Daniel S. Margulies, Franziskus Liem, Jürgen Hänggi, Lutz Jäncke, and Yaniv Assaf n 2015. Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic' PNAS December 15, 2015 112 (50) 15468-15473; first published November 30
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