耳・鼻・喉の病気

低音難聴の治療法…薬・ステロイド治療・高圧酸素治療など

【耳鼻科医が解説】低音難聴の治療は、内耳の血流を改善してむくみを取ることで行います。軽度のものは自然寛解することもありますが、耳鼻科ではステロイド治療や、イソソルビド、ビタミン剤、時に柴苓湯、五苓散などの漢方も含めた服薬治療、点滴、高圧酸素治療などで治療を行います。治療の効果と注意点、回復判断の基準について解説します。

坂田 英明

執筆者:坂田 英明

耳鼻科医 / 耳・鼻・喉の病気ガイド

低音難聴と診断された場合の治療法……軽度なら自然治癒することも

低音難聴の治療法

低音難聴には様々な治療法がある一方、これという確実な方法がないのも実情。症状軽減に向けて合う治療法探しを

低音難聴の原因は内耳のむくみ(水腫・浮腫)や炎症であり、むくみは血流の低下で起こります。つまり内耳の血流をよくさせ、むくませないようにして消炎することが治療のポイントになります。発症から5日以内で軽度であれば自然寛解もありますが、長引かないよう適切に治療を行うことが大切です。主な治療法について解説します。
 

低音難聴に対するステロイド治療の効果・副作用

ステロイドには強い抗炎症作用や免疫抑制作用があり、内耳のむくみを取るために用います。同時に血流改善にもつながります。ステロイドは一般的な薬剤ですが、安易に使用してはいけません。難聴の程度や患者さんが持っている高血圧や糖尿病などの合併症によっては使用できない場合もあります。また内服、点滴、局所(内耳に直接)と投与形態が異なります。専門医とよく相談しましょう。ステロイド治療の副作用として、感染を起こしやすくなること、血圧があがること、血糖値があがること、胃があれやすくなることなどが挙げられます。
  

低音難聴に使われる主な薬・内服治療……イソソルビド、ビタミン剤など

薬の有効成分は胃の消化を受け、多くが腸で吸収され肝臓に入り解毒され、血液に乗って全身を回り内耳に届きます。服薬治療の場合はもちろん自宅で行います。使用する主な薬は次の通りです。
  • 浸透圧利尿剤(イソソルビド)……利尿作用で内耳のむくみを取る。利尿作用があり脱水を起こしやすく、また、長期は腎機能障害を起こしやすいことから高齢者の使用は注意が必要です。何とも言えない独特の味のため、飲みづらさもデメリットに挙げられるかもしれません
  • 代謝賦活剤(ATP)……細胞の代謝を活発にし、循環を改善させる薬。定番です
  • ビタミン剤(ビタミンB12)……内耳の血行を良くする薬。こちらも定番です
  • 自律神経調節剤……自律神経を整え代謝を改善する薬
  • 柴苓湯……内耳の浮腫(むくみ)や炎症を取るために処方されることがある漢方薬
  • 五苓散…内耳の浮腫を取るために処方されることがある漢方薬
  • ベタヒスチンメシル……内耳血流改善に用いられる薬。定番ですが、眠くなったりだるくなったりすることがあります

その他の主な治療法……点滴・鼓室内注入療法・高圧酸素治療など

■点滴
血管から有効成分が直接肝臓に入りその後は内服と同じです。内服よりは効率が良くなりますが毎回血管に注射しなければならず入院を要します。副作用も内服よりは出やすくなります。
 
■鼓室内注入療法
ステロイドを鼓膜に細い針で注入することで、直接内耳のむくみを取ります。メリットは局所(内耳)治療なため、腸や肝臓には影響がなく、副作用の心配がほとんどないことです。内耳での有効成分の濃度は内服や点滴に比べ約150倍になります。外来で可能です。デメリットとしては、まれに鼓膜に小さな穴が残ってしまうことが挙げられます。また施設によっては麻酔を行ったり、幼少時期に重い中耳炎があった場合は内耳の壁に偽膜があり、薬がしみ込まなかったりすることもあります。また、保険適応でないことが多いです。

■星状神経節ブロック
麻酔科やペインクリニックで行っている治療法です。鎖骨の上方の交感神経節に注射し血流を改善させます。血流改善の効果がある一方、疼痛がある他、一回では効果が得られず治療が頻回になる点はデメリットです。

高圧酸素治療
高圧酸素器に入り全身を高圧にし循環をよくする方法です。保険適応で血流改善の効果が期待できますが、耳管障害がある場合は鼓膜チューブ挿入術をしてからでないと行うことができません。また、圧が内耳にかかりすぎることによる正円窓破裂が起きた場合、難聴やめまいが起こるリスクもあります。
 

低音難聴は7割が完治・3割は再発……長引く場合は他の病気の可能性も

低音難聴は約7割程度の方は完治する病気です。しかし3割程度の方は再発されています。低音難聴は発症から2週間以内が勝負です。1か月経過すると回復はほぼ困難です。

もし両側同時発症の場合や以前片側、今回片側など両側罹患、再発が多いなどの患者さんは耳管機能異常や免疫が関係した内耳自己免疫病、低年齢から発症している場合は遺伝子の関与など特殊な病態も考えられます。耳鼻科専門医に相談してください。

いずれにせよ内耳のむくみを予防するために生活習慣や過労、ストレスをためないように注意が必要です。
 

低音難聴の回復の判定基準

低音難聴から回復したという判定基準としては、以下のように考えられています。

1.   治癒(全治)
(1) 低音3周波数(125、250、500Hz)の聴力レベルがいずれも20dB以内に戻ったもの
(2)健側聴力が安定と考えられれば、患側がそれと同程度まで回復したもの
2.   改善 低音3周波数の平均聴力レベルが10dB以上回復し、かつ治癒に至らないもの
3.   不変 低音3周波数の平均聴力レベルの改善が10dB未満のもの
4.   悪化 上記1、2、3以外のもの
 
※急性低音障害型感音難聴・聴力回復の判定基準(厚生労働省難治性聴覚障害に関する研究班 2012年改訂)より
 

低音難聴の治療は様々……治療法変更やセカンドオピニオンも検討を

低音難聴には、今回ご紹介した通り、様々な治療法がありますが、しかし残念ながら、低音難聴にはこれといった確実な治療法がないことも実情です。もし内服などで2週間から最大1か月経過しても軽快しない場合、同じ治療法をだらだらと続けるのもよくありません。別の治療法に切り替えるなど、早め早めの対処が重要です。時にはセカンドオピニオンも検討してください。
 
症状が長く改善しない場合は不安になってしまうかもしれませんが、治療法はたくさんあります。研究も進んでいますので、諦めずにご自身にあう治療法が見つかるよう、主治医と相談しながら治療を進めていきましょう。
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