NT1.7㎜
首の後ろの黒く見える部分。水は超音波を反射しないので、黒く抜けて見える。 医学用語では後頚部透亮像(後頚部:nuchal、透亮像:translucency)。 NTの厚さに違いはあっても、この時期は、すべての胎児に見られる。
NT(nuchal translucency)とは何か?
NT(nuchal translucency)とは、妊娠初期の超音波検査で見える、胎児の首の後ろのむくみ(浮腫)のことです。超音波は水が溜まった部分は反射しないので、黒く抜けてみえます。医学用語では後頚部透亮像(後頚部:nuchal、透亮像:translucency)といいます。NT計測の規約に従って画像を拡大すると、浮腫の厚さに違いはありますが、全ての胎児に見つかります。この時期、胎児の心臓や大きな血管は、ほぼ形成されていますが、全身の血管やリンパ管の循環網は未発達で、血液や体液の還流がうっ滞しやすいために、生理的にむくみを生じます。
特に染色体異常や心臓血管系異常があると、循環とのアンバランスは起こりやすく、NTが厚いほど、胎児の染色体異常や胎児疾患の可能性は高まり、出生前診断の参考指標の一つになります。
NT値(NTの厚さ)の計測について
妊娠中の超音波検査では、NTだけでなく、思わぬ異常が見つかることがあります。そのため、検査の前に、超音波検査では何を調べるのか、何か異常が見つかった場合、どのように知らせて欲しいのか、などについて説明の上、相談しておくことがすすめられています。とくにNT値の計測を希望する場合には、あらかじめ「遺伝カウンセリング」を受ける必要があります。NT値で何が解るのか、他にどのような出生前検査があるのか、その検査はどこでできるのか、費用はどれくらいかについて説明を受けます。これらの事情は全国一律ではありません。
出生前診断を希望した時点で、いきなり専門施設を紹介されることもありますが、これは、医師が中途半端なカウンセリングや、不確実なNT値計測を行うよりも、むしろ誠実な対応と受け止めてください。
ただしNT値で出生前診断を確定することはできません。確定診断には、羊水検査や絨毛検査が必要になります。確定診断の結果、染色体に異常が無ければ、妊娠15週~18週頃に胎児心臓エコー検査などを詳細に行い、胎児奇形の有無を調べます。
< NT値測定の実際 >
NT値の計測には、厳密な規約があります。
- 妊娠11週0日~妊娠13週6日の間で計測する
- 胎児CRL(頭殿長)が45㎜~84㎜
- 胎児の頭部・胸部を画面いっぱいに拡大する
- その他、いくつかの規約あり
NT値計測に適したCRLの胎児
妊娠週数には少なくとも3日程度の誤差はあります。そのため、妊娠11週0日~13週6日の間でも、 CRLが45㎜未満、または84㎜を超えていると、NT値による診断はできません。 そこで、NTを活用した出生前診断には、妊娠12週頃の検査が勧められます。
NT値増加の意味
NT値増加に関連する異常としては、- 染色体異常:ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、ターナー症候群など
- 心疾患などの胎児異常
- 胎児奇形や遺伝子病
- 胎児死亡
- 正常児の一時的な生理的現象のこともある
- ダウン症に特有な症状ではない
- NT値が3.5~4.5㎜でも、70%の胎児は健康に生まれてくる
NTと染色体異常
染色体異常による障害がひどければ、妊娠初期に流産したり、妊娠中に子宮内で胎児死亡を起こします。ダウン症やターナー症候群で、比較的障害が軽度であれば、出産まで育って生まれます。ダウン症の頻度は、出生の約700人に1人で、母体年齢が高くなると確率が高くなります。障害はあっても、現在の平均寿命50歳を超え、社会生活をされている方が多くおられます。
ターナー症候群の頻度は、女児出生の約1000人に1人で、母体年齢とは関係ありません。低身長ですが、知的障害なく普通の社会生活をしている方も多くおられます。身体的特徴の翼状首(よくじょうけい)は、NTの名残りのように首の後ろにある皮膚のたるみのことです。
以前に比べ、NT値計測に関する混乱はかなり減っていると思いますが、出生前診断を希望する場合は、妊娠8~10週の頃までに、遺伝カウンセリングができる施設に紹介してもらいましょう。おそらく、気軽に紹介してもらえると思います。
【参考情報】