では早速、2020(令和2)年度の課題図書を見ていきましょう。本のあらすじや特色、感想文を書くためのポイントも参考にしてみてくださいね。
小学校低学年の部
山のちょうじょうの木のてっぺん
『山のちょうじょうの木のてっぺん』最上一平 作、有田奈央 絵、新日本出版社
からかわれると泣いてしまう「にしやん」と、やんちゃな「いがらしくん」。2人の男の子が、にしやんの家の犬・ごんすけの死を見守る物語。大きめの文字、かわいらしい絵のついた幼年童話で、とても読みやすい。
■読書感想文を書くときのポイント
- 大切な人・ペットが死んでしまうとき、どんな気持ちになるのか、辛いことのある人に何ができるのかを考える。
- いがらしくん・にしやんの人物像はわかりやすいけれど、いがらしくんは、にしやんを気遣うやさしさを見せ、にしやんもごんすけのためなら強くなる。そんな変化に注目したい。
- 冒頭の「はなまめ伝説」は低学年の子ども(特に男の子)には強烈な印象を残す。切り替わらない場合は、まずにしやんについて考えてみる。
- ごんすけの気持ちを想像するのもおすすめ。栄村でのおじいちゃんとの暮らし、にしやんのお母さんに引き取られてから、さらににしやんが生まれて……と、ごんすけとにしやん家族との気持ちの結びつきが見えてくるはず。
- ペットを飼っている人・動物が好きな人
- 死や別れについて考える機会があった人
- 友だちのことで困ったことがあった人
書籍名:山のちょうじょうの木のてっぺん
作:最上一平、絵:有田奈央
出版社:新日本出版社
定価:1,300円(税別)
おれ、よびだしになる
『おれ、よびだしになる』中川ひろたか 文、石川えりこ 絵、アリス館
小さなころからお相撲の「よびだしさん」が好きだった「ぼく」が、成長してよびだしになるまでを描いていた絵本。ぼくの表情や大相撲の様子など、元気であたたかみのある絵で描かれているので、本を読み慣れていない子にもおすすめ。
■読書感想文を書くときのポイント
- 一生懸命取り組むことの気持ちよさが伝わってくる絵本。がんばっていることのある人には共感しやすく、チャレンジしたいのにできないことがある人や飽きっぽい人には刺激になる。自分と比較すると書きやすい。
- お相撲を支えるよびだしの仕事がよくわかる。目立たないかもしれないけれど、大切な役割を果たしている「主役」であることが実感できるはず。大人だけでなく、クラスで係をがんばっている人など、身近にもそんな人がいるか、考えてみたい。
- 夢に向かってがんばっている人
- 目標を達成するのが難しいと感じている人
- がんばっているのに気づいてもらえないと思ったことのある人
書籍名:『おれ、よびだしになる』
文: 中川ひろたか 絵:石川えりこ
出版社:アリス館
定価:1,400円(税別)
タヌキのきょうしつ
『タヌキのきょうしつ』山下明生 作、長谷川義史 絵、あかね書房
広島に初めて小学校ができた頃、人間のまねをして一生懸命勉強していたタヌキたち。でも戦争が始まって―― 。明治から戦後までの広島を、タヌキと人々の交流を通して描いた本。原爆投下についての記載はあるものの、全体にあたたかみのあるお話と愛嬌のある絵のおかげで、悲惨さよりも、悲しさや平和を願う気持ちが伝わってくる。
■読書感想文を書くときのポイント
- 「戦争はよくない」という内容なら、どうしてそう思ったのか、印象に残った部分についての素直な感想をていねいに書きたい。
- かわいいタヌキたち、噂好きの人間、タヌキの家であるクロガネモチのがんばる姿など、気になるエピソードがちりばめられていますが、感想文では、その全てに触れず、一つか二つに絞って書く方がまとめやすい。
- タヌキたちへのお手紙形式にするのもおすすめ。
- じっくりと本を読むのが好きな人
- 生きものが好きな人
- 戦争や原爆について書かれた本を読むのが初めての人
書籍名:タヌキのきょうしつ
作:山下明生 絵:長谷川義史
出版社:あかね書房
定価:定価:1,100円(税別)
小学校低学年のその他の課題図書
『ながーい5ふん みじかい5ふん』リズ・ガートン・スキャンロン / オードリー・ヴァーニック 文、オリヴィエ・タレック 絵、木坂涼 訳、光村教育図書
【書籍データ】
書籍名:ながーい5ふん みじかい5ふん
文:リズ・ガートン・スキャンロン
絵:オードリー・ヴァーニック / オリヴィエ・タレック
訳:木坂涼
出版社:光村教育図書
定価:1,400円(税別)
小学校中学年の部
青いあいつがやってきた!?
『青いあいつがやってきた!?』松井ラフ 作、大野八生 絵、文研出版
転校してなかなか友達ができないサトシの元に、やってきたのは青いカッパ!? 不思議な1日をきっかけに、サトシは前に踏み出すことができるようになる。小学生が共感しやすい「友達」がテーマで、会話文が多いので、小学校中学年の部の中では、特に読みやすく感想も書きやすい1冊。
■読書感想文を書くときのポイント
- 友達関係に限定せず、「なんとなくうまくいかないこと」まで広げて考えると、共感できる人が多いはず。「もし自分だったら」を考えてみる。
- カッパの正体が分かるまでなど、お話そのもののおもしろさについて書く場合は、文章があらすじだけにならないよう、一番印象に残った場面を要約して、その感想をしっかり書く。
- 「青いカッパ」がもし自分のところに来たら……という別バージョンを書いてもいい。
- 転校したことがある人
- 友達のことや、なんとなくうまくいかないことで悩んでいる人
- ファンタジーが好きな人
書籍名:青いあいつがやってきた!?
作:松井ラフ 絵:大野八生
出版社:文研出版
定価:定価:1,300円(税別)
ねこと王さま
『ねこと王さま』ニック・シャラット 作・絵、市田泉 訳、徳間書店
身の回りのことは全て召使に任せていた王さまが、ねこと2人で暮らすことになった。お話も絵も素直でかわいらしく、ふふっと笑えるところも多い、読みやすい本。ただし、いわゆる「作者の言いたいこと」がはっきりと書かれているわけではないので、感想文は書きにくく感じる子もいるかも。
■読書感想文を書くときのポイント
- 物語を楽しみながら、王さまが少しずついろいろなことができるようになっていく様子や、ねことの友情を押さえよう。
- ドラゴンの生態やお隣りのクロムウェルさんの王さまに対する気持ちの変化に注目するなど、好きな(気になる)登場人物や場面を軸にすると書きやすい。
- 「自分が王さまだったら」「自分の家の隣りに王さまたちが引っ越してきたら」という視点で書いてもいい。
- 苦手なことがある人
- 「友達って何だろう」と考えたことのある人
- 外国のお話、ほのぼのとしたお話が好きな人
書籍名:ねこと王さま
作・絵:ニック・シャラット
訳:市田泉
出版社:徳間書店
定価:1600円(税別)
北極と南極の「へぇ~」くらべてわかる地球のこと
『北極と南極の「へぇ~」くらべてわかる地球のこと』中山由美 文・写真、学研プラス
■あらすじと特色
北極と南極を比較し、今の暮らしの豊かさ、未来の地球を守るために必要なことを語る本。内容は専門的だけれど、写真・イラストが多く、クイズもあり、手に取りやすい。さまざまな不思議、かわいい動物たち、身近に感じられるエピソードから、これからどう生きていくのかを考えさせられる。
■読書感想文を書くときのポイント
- 本を読む前に、北極と南極のイメージや知識をメモしておくと、本を読んで初めて知ったことが明確になり、感想が書きやすくなる。
- 北極と南極の違い、地球の今と昔、基地や現地の人の暮らしなど、比較されていることが多いので、違いに注目してみる。特に印象に残ったエピソードを1・2個抜き出し、自分と比較してみると、「今後自分がどうしたいか」というまとめ(決意)も書きやすい。
- 難しいときは、まず「北極(南極)へ行ったら〇〇がしたい。なぜなら~」という形で書いてみる。理由部分に、内容の要約と自分の意見(感想)がくるので、それを柱に文章を考えることができる。
- 科学やノンフィクションが好きな人
- 環境・動物・暮らしに興味がある人
- 冒険や探検をしてみたい人
書籍名:『北極と南極の「へぇ~」くらべてわかる地球のこと』
文・写真:中山由美
出版社:学研プラス
定価: 1400円(税別)
小学校中学年のその他の課題図書
『ポリぶくろ、1まい、すてた』ミランダ・ポール 文、エリザベス・ズーノン 絵、藤田千枝 訳、さ・え・ら書房
【書籍データ】
書籍名:ポリぶくろ、1まい、すてた
文:ミランダ・ポール
絵:エリザベス・ズーノン
訳:藤田千枝
出版社:さ・え・ら書房
定価:1,500円(税別)
小学校高学年の部
ヒロシマ 消えたかぞく
『ヒロシマ 消えたかぞく』指田和 著、鈴木六郎 写真、ポプラ社
原爆で死んでしまった家族のアルバムを元にまとめられた写真絵本。お父さんの撮った愛情あふれる幸せな写真と細かく書かれたメモ、亡くなったときの様子の記述のギャップに、戦争や命について考えずにはいられない。
■読書感想文を書くときのポイント
- 家族の記録を元にした戦争の絵本なので、共感・比較しやすい。素直な気持ちを丁寧に書きたい。
- 家族の一人一人がどう亡くなったかという記録には、衝撃を受ける。落ち着いて、じっくりと読みたい絵本。家族で読んで、いろいろな話をしたことをまとめてもいい。
- 「もし自分の家族だったら」「今の毎日が突然なくなったら」という感想は書きやすい。
- 戦争や原爆のことがあまりピンとこない人
- 広島に行く予定のある人、行ったことのある人
- 歴史に興味がある人
書籍名:ヒロシマ 消えたかぞく
著:指田和
写真:鈴木六郎
出版社:ポプラ社
定価:1650円(税別)
飛ぶための百歩
『飛ぶための百歩』ジュゼッペ・フェスタ 作、杉本あり 訳、岩崎書店
目が見えないルーチョが、山歩きや山での出会いから、大きく成長する物語。人の手を借りることを受け入れられず、壁にぶつかってしまうなど共感しやすい部分や、ワシの密猟というハラハラするようなエピソードもあるので、ボリュームはあるが読みやすい。
■読書感想文を書くときのポイント
- 自分が1番心を動かされた人物・場面に注目すると書きやすい。なぜ心を動かされた(共感・うれしい・悲しい・怒り・理解できない)のか、その理由や自分ならどうするかを考えてみる。
- 自分の「限界」とは何か。すぐに諦めたり、がんばれなかったり、無理してしまったことがあるか。ルーチョや友人になったキアーラと比較してみてもいい。
- 障害がある人・助けが必要な人の気持ちを知りたい人
- すぐに「無理」と言ってしまう人
- 意地を張ってしまうことがある人
- 自然や生きものが好きな人
書籍名:飛ぶための百歩
作:ジュゼッペ・フェスタ
訳:杉本あり
出版社:岩崎書店
定価:1400円(税別)
小学校高学年のその他の課題図書
『月と珊瑚』上條さなえ著、講談社
【書籍データ】
書籍名:月と珊瑚
著:上條さなえ
出版社:講談社
定価:1400円(税別)
『風を切って走りたい!:夢をかなえるバリアフリー自転車』高橋うらら 著、金の星社
【書籍データ】
書籍名:風を切って走りたい!夢をかなえるバリアフリー自転車
著:高橋うらら
出版社:金の星社
定価:1400円(税別)
中学校の部
天使のにもつ
『天使のにもつ』いとうみく 著、丹下京子 絵、童心社
職業体験で保育園に行った中学2年生の男の子・風汰の物語。「ふざけた髪型も、だらしない返事も態度も、アホさ加減も、これまで来た中学生の中で群を抜いている」風汰がさまざまな問題に直面し、自分なりに向き合っていく。文章が比較的ライトで、会話文も多いので読みやすい。
■読書感想文を書くときのポイント
- 多くの登場人物が、それぞれの問題(荷物)を抱えている。それら一つ一つが印象的に描かれているので、まんべんなく触れたくなるけれど、ポイントは一つか二つにしぼった方がまとめやすい。
- 進路について考えるとき、切り離すことができない「評価」。そのために一喜一憂する子が多い中、ルーズな印象のある風汰に、モヤモヤする人もいるかもしれない。なぜ風汰が周囲に受け入れられるのか、なぜ自分が風汰を嫌だと思うのか、その部分をより掘り下げてみてほしい。
- 職業体験をしたことがある人、これからする人
- 保育・教育に興味がある人
- 家族関係に悩みがある人
- 評価が気になる人
書籍名:天使のにもつ
著:いとうみく
絵:丹下京子
出版社:童心社
定価:1300円(税別)
11番目の取引
『11番目の取引』アリッサ・ホリングスワース 作、もりうちすみこ 訳、鈴木出版
アフガニスタンからアメリカにやってきた難民・サミと唯一の肉親である祖父。2人の生活の糧である楽器「ルバーブ」が盗まれた。サミは、ルバーブを取り返すために、取引を始める。サミがさまざまな人たちと出会い、希望を持ち始める姿に、胸が熱くなる物語。紛争・難民・差別というテーマや本の厚さに怯まず、ぜひ手に取ってほしい。
■読書感想文を書くときのポイント
- サミの学校生活や友達とのやりとりも描かれていて、国際問題が身近に感じられる。「難民とは」のような大きなテーマにすると一般論になりやすいので、「平和」「文化」「友達」とはなど、自分の心に響いた部分にポイントを置いて書くといい。
- 知らないことを想像で補うのが苦手な場合は、読む前にルバーブやアフガニスタンについて調べておくとわかりやすい。また、読んだ後にアフガニスタンについて調べてみるとより読みが深まる。
- 国際問題に関心がある人
- 「幸せとは何か?」を改めて考えてみたい人
- ミステリーや、ハラハラするような物語が好きな人
書籍名:11番目の取引
作:アリッサ・ホリングスワース
訳:もりうちすみこ
出版社:鈴木出版
定価:1600円(税別)
中学校の部のその他の課題図書
『平和のバトン:広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶』弓狩匡純 著、くもん出版
【書籍データ】
書籍名:平和のバトン:広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶
著:弓狩匡純
出版社:くもん出版
定価:1500円(税別)
高等学校の部
廉太郎ノオト
『廉太郎ノオト』谷津矢車 著、中央公論新社
「荒城の月」「お正月」などで知られる音楽家、滝廉太郎の伝記。滝廉太郎にはどちらかというと地味なイメージを持つ人が多いかもしれないけれど、音楽(芸術)がテーマのこの作品の印象は鮮烈。長めだが、登場人物たちがそれぞれの立場で懸命に生きる姿が力強く描かれ、文章もわかりやすいので、一気に読める。
■読書感想文を書くときのポイント
- 進路に対する家族の反対、スランプ、音楽への一途さには共感できる部分も多いはず。まずは、廉太郎、友人、ライバル、先生、家族など登場人物の思いをしっかりと読み取りたい。
- 真剣に取り組んでいることや進路についての自分の悩み・体験と、登場人物とを比較し、否定的な感情も含め率直な感想を書くことで、きちんと「自分」のある文が書ける。
- 音楽が好きな人
- 夢をかなえたい人、将来について悩んだり迷ったりしている人
- 何かの壁にぶつかっていると感じている人
- 人の生き方に興味がある人、伝記が好きな人
書籍名:廉太郎ノオト
著:谷津矢車
出版社:中央公論新社
定価:1750円(税別)
フラミンゴボーイ
『フラミンゴボーイ』マイケル・モーパーゴ 作、杉田七重 訳、小学館
1枚の絵をきっかけに旅に出た青年ヴィンセントは、動物と心が通じ合うロレンゾと、迫害を受ける民族のケジアに出会う。ケジアが語ってくれたのは、第二次世界大戦下のフランスで、必死に生きる人々の物語だった。戦争についての描写は、つらさはあるものの、過激ではないので、戦争を扱った本を避けていた人には挑戦してみてほしい。
■読書感想文を書くときのポイント
- ロレンゾとケジアは、それぞれの理由でバカにされたり嫌がらせを受けたりする。他にもさまざまな立場の登場人物がいて、その心情が繊細に描かれている。戦争や「他の人と違う」という悩みや問題を、自分のこととして考えやすい。
- 印象的なセリフが多く、フラミンゴやメリーゴーラウンドの描写も美しい。特に印象に残った場面から「印象に残っている場面は~。なぜなら~。自分なら~」と順番に考えて、書きたいことを整理するのもよい。
- 戦争についての描写が苦手で、戦争を扱った本を今まで避けていた人
- 物語の世界に没頭したい人
- 自分は何を信じるのか、自分にとって何が大切なのか、きちんと考えたい人
書籍名:フラミンゴボーイ
作:マイケル・モーパーゴ
訳:杉田七重
出版社:小学館
定価:1500円(税別)
キャパとゲルダ:ふたりの戦場カメラマン
『キャパとゲルダ:ふたりの戦場カメラマン』マーク・アロンソン 著、マリナ・ブドーズ 著、原田勝 訳、あすなろ書房
1930年代、大国の代理戦争に民衆が巻き込んだスペイン内戦。その様子を世界に伝えた2人の戦争カメラマン、ロバート・キャパとゲルダ・タロー。迫害を逃れて亡命した2人は、恋人で、友人で、ライバルでもあった。本格的な伝記なので、読み通すのが難しく感じる人もいるかもしれないけれど、映像が浮かんでくるような文章と多数収録された写真、登場する人々の魅力が、最後まで読者を引っ張ってくれる。
■読書感想文を書くときのポイント
- 2人の写真は、胸に迫るものがあり、戦争が決して他人事ではないことを訴えてくる。戦争についてはもちろん、「自分の目で見ること・自分で考えること」「事実とは」など自分の身近なテーマに結び付けて考えてみたい。
- 恋人・友人・ライバルと、はっきりと定まることのない若い2人の関係の変化や生き方にも注目したい。性別や人種や国籍にとらわれず、真剣に世界と向き合い生きる2人の姿に、「自分なら~」の視点を持ちやすい。
- 将来や生き方について考えている人
- 視野を広げ、社会をきちんと関わっていきたい人
- ノンフィクションやドキュメンタリーが好きな人
書籍名:キャパとゲルダ:ふたりの戦場カメラマン
著:マーク・アロンソン、マリナ・ブドーズ
訳:原田勝
出版社:あすなろ書房
定価:1800円(税別)