「9月入学」が話題になるようになった経緯
9月入学には、子ども・親・社会のそれぞれにとってメリット、デメリットがあり、正解が1つしかないものではない
今回、新型コロナウイルスの影響で大きな問題となっているのが、学習の差です。家庭や市区町村における学習環境の差により、通常の時期以上にそれぞれの子どもの置かれたに状況に違いが出ています。特に情報機器(タブレット、スマホなど)の所有、通信へのアクセスは大きいでしょう。
このような事態への対応として出てきたものが「9月入学」です。9月入学については、現時点で色々な考え方があることを知り、思考を広げる、深めることに役立ててもらえたら嬉しいです。
なお9月入学は、急に話題になった印象があるかもしれませんが、実は関係者の間では、以前から議論されていました。文科省の審議会などでも議論がされていました。その時点では、メリットよりもデメリットの方が多いと判断され、実施を決定するには至りませんでした。
子どもにとっての9月入学とは
まず9月入学において、一番影響を受ける「子ども」にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。■メリット1、感染のリスクを冒して学校再開をしなくても良い
現状では、まだ感染の広がりの可能性があります。学校再開によって子どもが仲介者となって感染が広がる可能性があります。9月に改めてスタートをすることで、そういった感染が広がることのリスクを防ぐことができます。
■メリット2、現在、中途半端になっている学習をきちんと取り組める
現在、子どもの学習環境には差があります。この後、6月などに学校が再開された場合、やらなければならないことがあることが多いため、それぞれの子どもの苦手な部分や学習環境差をフォローしていくのはとても難しいことでしょう。9月にスタートすることによって、そういった部分を小さくしながら学校生活を進めることができるようになります。
■メリット3、行事を改めて行うことができる
校内だと運動会など、校外だと野球の甲子園の大会などの行事を改めて行うことができます。学習同様、学校内外の行事も子どもの育ちにおいてはとても意味のあるものです。高校野球の「甲子園」は、そこに参加する生徒だけでなく、そこを目指す多くの生徒にとって意味のあるものです。学校で行われる「運動会」も同様です。このままのスケジュールで学校が再開された場合、今年度の運動会を含めた行事は無くなってしまう可能性が高いです。
■メリット4、夏休みを確保できる
感染の広がりがある程度収まり、学校が再開された場合、今年度の夏休みは大幅に短縮されることが予想されます。すでに現時点でもそのことに言及している首長もいます。この数年、学校に冷房が設置されました。「冷房があるのだから、夏でも学習ができるのでは?」という主旨の話も聞こえてきます。ただ猛暑における学校の行き帰りは相当危険になります。9月スタートにすることで、こういった健康面での危険を回避することができます。
■メリット5、海外への留学などがしやすくなる
特に高校生、大学生にとっては、海外の高校、大学、大学院などへの留学が今よりもしやすい環境になります。様々な分野で国際化が叫ばれています。そういった中で留学への壁が一段低くなることは子どもにとって大きなメリットです。
9月入学までの期間、臨時休校が続くと、さらに学習格差が広がる可能性が
このままでは、来年以降、今の仕組みよりも卒業が半年遅くなります。そのことによって、卒業後、給料を受け取ることになるのが半年遅くなることがあります。
■デメリット2、学力格差が広がる可能性がある
9月入学にすることにより、それまでの期間、学校への通学が無いとします。そうなるとその間で子どもの学力にさらに差が生まれる可能性があります。その間にしっかりと学習に取り組める子どもと、そうでない子どもの差が出てきます。学習塾やオンライン学習などに取り組める子どもと、そうでない子どもの家庭の経済力の差による影響も出てくる可能性があります。
親にとって9月入学とは?
■メリット1、新型コロナウイルスを家庭に持ち込む可能性が減る今回の新型コロナウイルスは、実際に感染した場合、年齢が高い程、その影響を受けやすいといわれています。特に高齢者は死に至るケースも少なくなく、非常に危険です。学校の再開が半年程度遅くなることによって、家庭にウイルスが持ち込まれる可能性を減らすことになります。高齢者がいる家庭だけでなく、全ての人にとって感染があまり広がらないことは大きなメリットです。
■メリット2、子どもの学習格差を減らすことができること
子どものメリットにも書いたのですが、子どもの学習機会をきちんと確保することができます。それぞれの学年で学ぶべき内容を規定通りの時間をかけて取り組むことができるようになります。
■デメリット1、経済的な負担についての不安があること
お金の心配があります。例えば、大学などでは、半年間在籍期間が延びる学生が出てきます。そういった場合、学費はどのような形になるのかの不安があります。
■デメリット2、社会構造を変えたことなどによる経済的コストを負担する可能性がある
先ほど、大学生の学費負担の可能性について書きました。実は、今回の件は、大学生の親以外にも大きく関わってくることが考えられます。9月に入学を動かすことは、社会構造を根本から作り変える必要があります。それに伴う費用は、社会全体で税金という形で賄う必要があります。
■デメリット3、このまま9月まで子どもが家庭にいる可能性がある
9月入学になることによって、感染の危険を冒してまで学校に通わないで良くなります。そうなると場合によっては、9月まで子どもが家庭で過ごす可能性があります。これまでの約2カ月の間、多くの家庭で様々な苦労がありました。家庭内での暴力が増えているという報告がWHOからも出されています。そういったことが解消されずに今の状況が続いていく可能性があります。
社会全体にとって9月入学とは?
最後は、社会全体にとって「9月入学」とはどういった意味があるのかについてです。「9月入学」は、家庭、学校だけでなく、広く社会全体に影響を及ぼします。■メリット1、感染に広がりを防ぐことができる
学校の開始を約半年遅らせることによって、現在、無理をして子どもを学校に通わせなくとも良くなります。子ども達は、重症化はしない場合がほとんどといわれていますが、ウイルスの仲介者となる可能性はあります。地域によっても違いがありますが、ある程度、感染が広がっている地域では無理に学校を開かなくとも良くなります。このことは、感染による重症化のリスクの高い高齢者には非常に大きなことです。
■メリット2、就職活動などにおいて通年採用が進む
これまでの大卒一括採用が崩れる可能性があります。大学生の就職に関しては、時期のことや採用方法のことなどで、様々な変化を経て、現在の姿になっています。それが、一気に変化し、今まではと違う「通年採用」に似た形になる可能性があります。
■メリット3、世界標準のスケジュールに合う
世の中の多くのものは、国際化が進んでいます。しかし、日本は学校の開始時期が4月だということもあり、国際的な人材の交流が進んでいない面があります。9月が入学になることによって、これまで以上に、日本から海外の学校へ行く人、就職をする人が増え、同様に日本に来る人も増えることが予想されます。
■デメリット1、就職なども含めて社会構造を変えていく必要がある
大きな変化が必要になります。例えば、4月始まりの日本の会計などを修正・調整していく必要があります。会計以外にも多岐にわたる分野での対応が必要になります。
■デメリット2、準備時間が短く、混乱が予想される
多岐にわたる分野での対応の必要性について書きました。そのための準備期間がわずか4カ月しかありません。これまで9月入学について、少しは議論がされていましたが、それは実行を伴ったものではありません。実際の準備は全くなされていない現状で、その準備の期間があまりにも短く、混乱が予想されます。
■デメリット3、9月に新型コロナウイルスが収束しているのかが分からない
海外の様子を見ていても、今回の新型コロナウイルスはこれまでの感染症にない様相を示しています。完全に押さえ込んだと言える国は本当にわずかです。日本における流行が、今後どのような形になっていくのかの予測はできません。流行がずるずると続き、夏になっても今のような状況が続いているという可能性があります。そうなると9月にスタートさせるということも難しくなってきます。
今回、「9月入学」について、「子ども」「親」「社会」の視点からそれぞれのメリット、デメリットをまとめました。正解が1つしかないものではありません。様々な議論が行われ、より良い形になることを期待します。
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