母が他界し10年……もしも70代の父に恋人ができたら!?
配偶者に先に逝かれた人は心細いものだ。新たなパートナーを見つけて、楽しい人生を送ってもらいたいと願う。ただ、それが実の父親となると、娘としては諸手を挙げて賛成というわけにはいかないようだ。
ちょっと様子を見に行ったら
10年前に母が他界、同じ町でひとり暮らしをしている70代後半の父親の様子をときどき見に行っているというのは、サヤカさん(40歳)。
「自転車で10分くらいの距離に実家があるので、2、3日に1度は様子を見に行っていましたが、ちょっとこのコロナの影響で、父に感染させたら大変なことになるかもと思って、主に電話連絡をしていたんです。行くのは週に1度くらい、玄関先で顔を見て帰ってくることが多くなりました」
父親は料理もうまいし、食材をまとめ買いして作り置きなどもしているので、その点は安心していた。
「マスクが買えないと言っていたので、気にはなっていたんですよね。つい先日、たまたまスーパーで荷だししているところに遭遇、マスクが買えたので父にすぐ届けようと自転車を飛ばしました」
家に着くと、玄関前に父が立っている。どうしたのと尋ねると、「いや」と曖昧な答え。マスクを買ってきたからと差し出しても、いつものように闊達な反応がない。
「どうしたの、おとうさんと言うと、『いや、入るか?』と玄関を開けてくれました。まあ、入るのもなんだから帰るわと言いかけたときに、門の前に人影が。すると父が固まっている。振り向くと、父と同年代の小柄な女性がいて、彼女も固まっている。私としてはどうしようもないですよね、また来るからと帰りました」
サヤカさんの背後で、父が「まあ、とにかく上がって上がって」と彼女を招き入れている声がした。
「父はオープンな性格だから、本当なら私を娘だと彼女に紹介するはずなんですよ。どうして紹介すらしなかったのか、それが気になって」
年配の父に異性の友人ができることを、サヤカさんは反対しないつもりだった。たとえそれが『恋』であっても。
親へのわだかまりが浮き彫りに
その晩に電話すると、父親を非難しているように受け取られるかもしれないと思ったサヤカさん、翌日、おいしそうな果物をもらったからという理由をつけて実家に行ってみた。「父はマスクをして庭いじりをしていました。さりげなく、『昨日の人はお友だち?』と聞いたら、うん、と。それ以上、何も言わないんですよね。『おとうさん、このあたりの人で夫のいる女性だったら困るからね』と言うと、『うん』と、また力ない返事。それ以上、突っ込んでも何も言いそうになかったので帰ってきました」
夫に相談すると、「おとうさんだって大人なんだから、放っておいたほうがいい」と言う。ただ、サヤカさんはどこの誰なのかが気になってならないという。
「もし同じ町内の人で既婚者だったら噂になるでしょう」
どこまでも世間体の問題なのだろうか。サヤカさん自身が、何か言いよどんでいることがあるようだ。しばらくして彼女はようやく口を開く。
「私が小学生のときですけど、父が浮気をして母が泣いていたのを覚えているんですよ。言い争いする両親の怒鳴り声が怖くてたまらなかった。母は私に、『おとうさんがヘンな女とつきあっているから、一緒に家を出て行こう』と言いました。結局、父が平身低頭して母は許したようですけど、あのときの恐怖感が私、今でも残っていて、それが父へのわだかまりにもなっている。理屈では父がどうしようが父の人生だからかまわないんですけど、感情では、あの年になってもまだ女性を求めているのかという気持ちが拭えないんですよね」
ひとりっ子のサヤカさんは、大人になってから両親と距離を置いていた。幼い娘に父親の浮気の件を愚痴る母も、そして浮気を責められて怒鳴り声を上げていた父も信用できなかったのだという。
「父も年とったから、少しはめんどう見ないとと思ってやってきたけど、本心は私、あまり親には関わりたくないんでしょうね。だから世間体にかこつけてるんだと思う」
封印してきた親へのわだかまりが、思わぬ形で浮き彫りになってしまったことに、サヤカさんは戸惑っているのだろう。もう一度、少し距離を置いて関係を保ったほうがいいのではないだろうか。