「結婚」をせずアラフィフになると……

執着

人恋しいときは誰にでもある。結婚せずにアラフィフといわれる年代になると、男女問わず、ひとりで楽しんでいる人と、「誰からも愛されなかった」と落ち込む人に分かれるのかもしれない。そんなときに恋をしたら、執着心が芽生えるのもやむを得ないのだが……。

 

孤独感に押し潰されそうな日々だった

ナツミさん(48歳)は、大学卒業後、とある有名企業に就職。しかし5年後に過労から倒れて退職、転職した。

「心身ともに疲れている時期が長かったので、30代半ばまで非常につらかったですね。当時、つきあっていた人もいたんですが、結局、私が結婚に踏み切れなかったので別れてしまいました」

父は彼女が大学を卒業すると同時に亡くなり、ひとりっ子だった彼女はずっと母と暮らしてきた。その母も、彼女が心身の調子を崩して転職したころに急逝。ショックを受けながらもなんとか仕事を続けられたのは、転職先の社長の人柄だった。

「社長といってもまだ若い三代目社長。前の会社で二代目社長にお世話になっていたんですが、二代目も母同様、急逝されて。だから三代目が私をすごく気にかけてくれて。ありがたかったです」

人の情に触れてがんばってきたナツミさん。40代になるころ、ようやく心身も安定してきた。

「結婚したいなと思いました。だけど40代だとなかなかチャンスがない。社長がまた気にしてくれたんですが、こればかりは相手のあることですし。縁がなかったんでしょうね」

ひとり暮らしには慣れてきたが、寂しさは日に日に募る。夜は眠れなくて、睡眠導入剤が手放せなくなった。

「仕事は少しずつ楽しくなってきたし、社内の人間関係も良好でした。だけど学生時代の友人たちはちょうど子育てに忙しいし、何をするにもひとりぽっちなんだなと思うと孤独感に押し潰されそうだったんです」

そんなとき知り合ったのが、取引先の10歳年上の既婚男性だった。少しずつ距離を縮めて、42歳のとき、彼と深い仲になった。

 

決して「好き」ではないのだけれど

それから5年ほど、つかず離れずつきあってきた。彼は「いい人」ではあるが、彼女にとっては「恋愛」とは言えなかった。

「すごく好きだとか離れたくないとか、そういう感情はなかったんです。ただ、優しいし私の孤独感が少しでも紛れるからつきあっていたようなもの。それなのに、彼、ある日突然、別れようと切り出したんです」

どうやら妻にバレかけているらしい。だがそのあたりのことは言わず、「申し訳ない。とにかく別れてほしい」の一点張りだった。彼が置いていった封筒には50万円が入っていた。5年のつきあいが50万円に化けたのか、と彼女は内心思い、同時に猛烈な怒りと執着心がわいたという。

「彼が私を振るなんて許せない。しかも50万って何よと思ってしまって。私のことをあれほど好きだと言っていたのに、最後はこんな仕打ちなのかとショックで」

好きではなかった彼なのに、「彼の都合で、またひとりになるのはどうしてもいや」だったのだ。別れたくない、別れられない、別れるくらいなら会社にも奥さんにもばらすと彼女は彼に訴えた。

「けっこうつきまといましたね。1年ちかく。彼の家の前まで行ったり、会社から出てくるところを待ち伏せたり。自分でも何がしたいのかわからなかった」

ある日、彼の家の周りをうろうろしていると、パトロール中の警官に声をかけられた。彼女の様子がおかしかったのだろう、そのまま交番に連行された。

「交番の椅子に座ったとき、なんだかもう疲れ果てていました。警官にいろいろ聞かれて、私、全部しゃべっちゃったんです。警官がいい人で、じっと聞いてくれました。私は私でしゃべったら妙にすっきりしちゃって」

その日はそのまま帰ったが、夜はよく眠れたという。翌朝起きると、憑きものが落ちたように彼への執着心がなくなっていた。

「正確には、なくなったわけではないんですが、理由のない執着心をもっているのは自分自身が寂しすぎるからだという客観性が出てきた。だから自分から連絡をとらないという決断をすることができました」

彼にもらったお金で、この年末年始、海外旅行をした。ひとり旅だったが、同じツアーでやはりひとりで来ている他の女性たちと意気投合、すっかり仲良くなったという。

「私は恋がしたかったわけでも結婚がしたかったわけでもなく、友だちがほしかったんですね。彼女たちには彼の話もしました。そうしたら『今度は本当に好きな人とつきあおうよ』と励ましてもらえた。他人の意見って重要ですね。まだ少しくすぶっていた自分の気持ちが本当にすっきりしました」

彼女は明るい口調と表情でそう言うと、ようやくとびきりの笑顔を見せた。
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