40代女性が直面する夫の「におい」問題
「夫のにおいが急に気になるようになってきた」という40代女性たちの声を立て続けに聞いた。実際、加齢臭が出てくる年齢でもあるのだろうが、話を聞くと、それだけではなく妻たちの心の動きも関係があるようだ。
急に気になった夫のにおい
結婚して15年、中学生と小学生の子どもがいるヒロコさん(45歳)。夫は1つ年上の46歳だ。昨年秋のある日、ベッドメイキングをしているときに「突然、夫のにおいで吐きそうになった」と苦笑した。
「別に夫のことが嫌いだというわけではないんですよ。ただ、もう5、6年、スキンシップなどはありません。当然、セックスレスですし。寝室は一緒ですが、ベッドを離して寝ています。どうしてあの日、突然、夫のにおいで気持ちが悪くなったのか、今でもわからないんですよね」
夫は特に横暴ではないけれど、日常的な不満はもちろんある。彼女自身もフルタイムで働いているが、平日はほぼワンオペなこと、夏休みや冬休みのイベントは夫が仕切ってくれるが、たとえば3連休にどうしようか、ということについてはほぼヒロコさんが子どもたちと話し合って決める。夫は言われた通りに動くだけ。
「夫はまじめな人ではあるんです。子どもとの会話もまじめ。だけど私は、子どもにもっと楽しい思いを積極的にさせたいんですよね。休みの日の朝に、『今日はみんなで家の模様替えをするぞー』とか、『今日は動物園に行くぞ』とか、なんでもいいのでサプライズ的に子どもを喜ばせたい。夫にはそういう思いがないんですよ。動物園に行くなら1週間前に言ってくれというタイプ。ま、おもしろみのない人ですね(笑)」
夫婦の会話もつまらない。まじめでいいけど、つまらない。ヒロコさんはそう繰り返した。サービス精神というものがないらしい。経理一筋20数年、社内では信頼も厚いというからまじめで几帳面な人であるのは確かだろう。
「私の中で、夫のつまらなさがマックスになっているのかもしれません。昨年、久々に大学時代の友人たちに会ったら、彼らとの会話で久々に笑い転げました。夫と一緒にいるときに私、こんなに笑ったことがないなあ、と思って」
それ以来、夫の悪臭がひどくなったような気がすると彼女はつぶやいた。さりげなく、バスルームに加齢臭をおさえる石鹸を置いてみた。どうやら夫は使っているようだが、だからといって「悪臭」が減少したとは思えないという。
あんなに好きだったのに……
夫のにおいに嫌悪感をもよおすようになったのは、夫のことが好きではなくなったから。そう衝撃的なひと言を発したのは、ミチカさん(43歳)だ。結婚して13年、小学生のひとり娘がいる。家族仲はいいという自負はある。「人に言えるような話ではないんですけど、3年くらい前から夫とのセックスが苦痛になって……。あるとき、行為の最中に夫がじんわり汗ばんできて、その感触とにおいに耐えられなくなったんです。それ以来、夫とのセックスから逃げています。何が起こったのかよくわからないんです。夫のことは今も好きなんですけど、洗濯をするときに夫のTシャツを持ち上げるとやはりオエッとなりそうになる」
大恋愛で結婚した。この人がいなければ自分は生きていけないとさえ思っていた。それなのに結婚してたった10数年で、自分が変わってしまったのだろうかとミチカさんは落ち込んでしまった。
「そんなとき、ばったり元カレに会っちゃったんですよね。ときどき会うようになって。私、夫と大恋愛したと思っていたけど、その前はこの人と大恋愛していたんだっけと考えて、恋愛って錯覚と思い込みなのかもしれないなあ、なんてふと思ったりもしました」
元カレはとはさらに深い関係へ。そのとき、ミチカさんは「元カレのにおいが大好きだったことを思い出した」そう。そして、元カレのにおいは今でも好きだと確信した。
「あれ、ひょっとしたら私、夫のことが好きじゃなくなったのかもと思いました。夫のことは好きでなくてはいけない、好きでいるんだ、と自分に暗示をかけていただけだったのかな。気づかなくていいことに気づいてしまったんですよね」
それでも彼女は、夫の悪いところを数えないようにしようと必死に自分を保っている。それはお互いさまだから。お互いに完璧ではないのだから、「夫の存在が私にとって害でない限りよしとする」と決めている。
「ぶつかるのを避けるために、お互いになんとなく言いたいことを抑えている。ウチはそんな感じなんですよね。いい夫婦を演じているだけなのかな……。一方、元カレとはケンカもするし言いたいこと言い合っている。責任のない関係だからといえばそれまでだけど、楽しいのは元カレですね」
加齢臭はともあれ、夫のにおいが気になったり、生理的に受けつけなくなったりするのは、やはり自分自身の夫への思いが関係しているのではないだろうか。ちなみに独身女性から、こんな声もあった。
「半同棲しているとき、彼が帰ってしまうと彼のにおいを探し求めている自分がいました。彼が着ていたTシャツを抱えてひとりで寝たこともある。だけどあるときから、彼の口臭、体臭を『クサイ』と思ったことがあって……。それからすぐでした。彼と別れたのは」
心と嗅覚は案外、密接につながっているのかもしれない。