「結婚保留」で風通しがよくなった彼との関係
「結婚したい気持ち」は、なぜか人を不自由にすることがある。相手の家族との関係、相手の経済力や家庭向きかどうかなど、いろいろなことが気になってしまうのだ。「家庭」というひとつの社会を作ろうとするのだから当然のことだが、それによって関係性が濁っていくこともある。
「結婚」を考えたとき
彼のことが好きで、つきあいも順調。そうなれば、恋人同士の間に次にたちはだかるのは「結婚」という関門だろう。
「彼のことが大好きだったから、つきあって2年たって結婚という話が出たとき、当然だと思いました。彼となら結婚したい。心からそう思いましたから」
そう言うのはフミコさん(37歳)だ。友人の夫の友だちである同い年の彼とは、穏やかでいい関係を作ってきたと自負してきた。
「ふたりの間で結婚の意志を確認しあったのが35歳のとき。家庭を作るのはどういうことかといろいろ話し合ったんですよ。このご時世、共働きは当然としても、そもそも結婚後の姓はどうするのか、家はどうするのか、子どもはどうするのか。私はひとりっ子、彼は姉と妹がいる。親のことはどうするのか。話せば話すほど混沌としてきて答えが出ない。結婚はふたりだけの意志があればいいというけど、現実はそうはいきませんよね」
彼女自身、彼に嫌われたくないという気持ちがあったから、もう少し年をとったら彼の親と同居してもいいと言ってはみたものの、やはりひとりっ子としてはむしろ自分の親と同居したいのが本音。
「いい妻であろうとする自分と本音とが違う。だから私自身、だんだん苦しくなっていきました」
彼のほうも同じだったようだ。実は結婚後すぐに親が同居を望んでいるけど、自分はそうはしたくないと彼が本音を打ち明けた。
「私も本音は、自分の親と同居まではいかなくてもせめて近くに住みたいと思っていると白状しました。もちろん、私たちは親のために結婚するわけじゃない。だけど周りのことも考えながら生きていかなければいけない。何だか誰のための結婚なのかわからなくなっていって」
1カ月ほど、彼と連絡をとらずに距離を置いたこともある。
「結婚」という枠を外してみたら
一緒になりたいから結婚という方式をとる。だがそのために、ふたりが疲弊していったら本末転倒だ。ある日、フミコさんは疲れきっている自分に気づいた。「だから彼に言ったんです。結婚という形をとることを保留したほうがいいんじゃないか、と。ふたりだけで過ごすなら何の問題もないんですから」
彼は「それだとけじめがつかない」と言っていたが、何のためのけじめなのか、いちばん大事なことは何なのかとフミコさんは問いかけた。
「それで私の住んでいる部屋が更新時期だったのを機に、彼の住むマンションの近くに越しました。お互いワンルームですから一緒になってしまったほうがいいのかもしれないけど、それもちょっと違うなと思って」
彼の実家は埼玉県、彼女の実家は神奈川県。そしてふたりは東京の下町に住んでいる。つきあっていることは双方の親も知っているし、彼の父が入院したとき彼女は見舞いにも行っている。
「だけど結婚という形は保留にした、とそれぞれが自分の親に伝えました。だから私は彼のほうの親戚ともいっさい面識はありません。彼のおねえさんが、『ちゃんと結婚しなさい』と言っているそうですが、彼は『オレたちにはかまわないで』と返したそうです。妹さんは、『そういう関係っていいと思う』と賛同してくれています。すんなり結婚しなかったからこそ、彼の家族の本音も見えてきた」
お互いの日常生活には特に干渉せず、時間が合えば一緒に過ごす今の形が、フミコさんにはとても快適だという。
「結婚を保留したことで、“いい妻”になるよというアピールをする必要がなくなりました。私自身、ヘンな枠を作って、その中に自分を押し込めていたような気がします」
風通しのいい関係を作り出しているのだが、今、考えているのは子どものこと。自然に任せているのだが、もし妊娠したら自分自身が変わるのか、結婚という枠がほしくなるのか、それはまだわからない。
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