音楽好きが高じてその昔レコード会社で働いていたこともある私は「音楽」がトッピングされたものが大好物。今回ご紹介するのは70年代のロックカルチャーを綴った青春映画の枠を超えた名作、アカデミー賞をはじめゴールデングローブ賞など数々の賞に輝いた『あの頃ペニーレインと』です。
キャメロン・クロウの自伝的映画
監督であるキャメロン・クロウの自伝的映画といわれるこの映画は、15歳でローリングストーン誌のライターとなった主人公の少年ウィリアムの成長と初恋を描いた作品(クロウ自身、15歳で同誌の記者となっています)。と言ってしまうとあまりにありきたりですが、これがまた、ことのほかよくできているんです。登場人物それぞれのキャラクターがていねいに描かれ、ティーンネイジャーから大人まで立場や関わり合い方はそれぞれに違っても、そこの共通するのは人が人を思う気持ち。
そして、世の中善人ばかりではないけれど、生きていくことはすなわち人と関わっていくことで、どんなに嫌な奴だと思っていてもチャーミングな部分もあったりするもの。そもそも人間って、人生って、捨てたもんじゃないかもね、という気分にさせてくれる映画なのです。
ロックバンドのツアー同行シーンには、キャメロン・クロウ自身が記者時代に経験したエピソードがあちこちに散りばめられ、当時のアメリカのミュージックシーンの空気感がリアルに伝わってきます。
そして、そんな銀幕を彩るのはディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、イエス、レイナード・スキナードたちのロックチューン。
そこに音楽があるだけで、人の気持ちが動いたり、見知らぬ同士の気持ちがかよったりするといったマジックを実生活でも体験したことがある人は少なくないと思いますが、散々もめまくって疲れきったメンバーたちが、ツアーバスの中でひとつの歌を一緒になって歌うだけで、これまであったわだかまりなんかどうでもいい気分にさせてくれるのは、まさに音楽の力。
ケイト・ハドソンの可愛さにノックアウト!
この映画の見どころとして、やはり誰もがうなずくポイントがなんといってもケイト・ハドソンの可愛さです! 今や“ラブコメの女王”、またファッション・アイコンとしてその名を知られるケイト・ハドソンですが、このときはまだそれほどの知名度はなく、いわば彼女の出世作となった作品ともいえます。背伸びしてグルーピーのリーダーを気取っていても、中身は純粋で無垢な恋する少女であるヒロイン、ペニーレインの微妙な感情が実によく表現されていて、ケイト・ハドソンがペニーを演じたからこそ成り立った作品とまで言い切りたくなります。
さらに脇を固める俳優たちもなかなかユニークなキャスティング。バンドのマネージャー役で出演しているのは、天才ピアニストを描いた『シャイン』で青年時代のデイヴィッド・ヘルフゴットを演じたノア・テイラーだし、主人公の姉を演じるのはその後『(500)日のサマー』でブレイクしたズーイー・デシャネル。
グルーピーの女の子たちのファッションやスチュワーデスの制服がマリー・クワント風だったりする70年代ファッションも楽しめます。音楽オタクでない人も純粋によい作品に出会えたと思える1本ではないでしょうか。
DATA
あの頃ペニー・レインと
監督:キャメロン・クロウ
時間:161分