映画

何気ない日常のハッピーが見つかるシュールな大人向けファンタジー映画

沖縄ガイドとして活動する傍ら、洋画に関する記事も書いている小林繭さん。なかでも、いわゆる”単館系”の映画を好んで観ているそうです。今回は、そのなかでも特にイチオシだという西ドイツの映画を紹介してくれました。

小林 繭

執筆者:小林 繭

沖縄ガイド

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日本でミニシアターブームの火付けとなった『バグダットカフェ』
 

個人的な好みになりますが、私は特別ドラマチックなわけでも大作というわけでもないけれど、観る人の気持ちにふと心地よく寄り添ってくれるタイプの作品が大好き。つまり「単館系」と呼ばれる映画のほうがしっくりくるタイプです。

もちろん、ハリウッド映画が嫌いなわけではないし、スターウォーズのようなシリーズものも大好きです。けれど、子どものころから惹かれてきた映画は基本的に「単館系」。また、もともと音楽が好きでレコード会社で働いていた身としては、映像と音楽は切っても切り離せず、強く印象に残る作品は、必ず音楽もセットになって記憶に残っています。
 
映像の美しさに音楽が合わさることで、完璧な世界観が表現された作品として鮮明に記憶に焼きついているのが『バグダッド・カフェ』。まだドイツが西と東に分かれていた1987年に公開された、パーシー・アドロン監督の手によるドイツ作品です。日本ではミニシアターブームの火付け役のように紹介されています。
   

魅力的で愛すべき変人たちが紡ぎだす小さなマジカルストーリー

タイトルにある『バグダッド・カフェ』は、ラスベカスの先、モバーヴェ砂漠のはずれにポツンと佇むさびれた一軒のモーテル兼カフェ兼ガソリンスタンドの名前です。物語は終始この場所を舞台に展開されます。

大した事件やテーマがあるわけではなく、そこに住む人々とそこに集まる人々のそれぞれの心の交流や人間模様を美しい映像と音楽とともに淡々と描いたのが今作品の概要。一風変わったロードムービーとして捉えてもらったらいいかもしれません。

何しろ登場人物たちが皆超個性的。主役となるミュンヘンの田舎町からやって来た太った中年女性・ジャスミンや、いつも不機嫌なカフェの女主人・ブレンダを筆頭に、出てくる人全員が相当突拍子もないキャラクター設定。

言うなれば奇人変人の集まりなんですが、期せずしてこのジャスミンの登場がそれまで淀みに淀んでいた「バグダッド・カフェ」の空気とそこに集まる人々に波紋をなげかけ、それが小さな化学反応を呼び、やがてその連鎖がカフェも含むみんなに幸せを呼び込んでくるといった内容です。

かなり風変わりな大人のファンタジー映画といえるかもしれません。ファンタジーといっても、かなりシュールなファンタジーですが(笑)。
 

音楽と映像が紡ぎだす、完璧な世界を旅する

『バグダッド・カフェ』を語るとき、映像と一緒に鮮明に浮かぶのが主題歌である『コーリング・ユー』のメロディです。全編をとおしてこのジュベッタ・スティールが歌う『コーリング・ユー』が実に効果的に使われて、砂漠の乾いた風景や光と影が生み出したコントラストのハッキリとした背景とピタリと寄り添い、物語が紡ぎだす世界観を見事に彩っています。

この美しい砂漠の映像と『コーリング・ユー』の歌声のマッチが、これ以上は望めないレベルでこの作品の独特な世界観を創り出しているといっていいでしょう。

いつもイライラして無愛想だったブレンダが笑顔の似合う機嫌のよい人となり、薄汚れて閑古鳥が鳴いていたカフェが人々の活気あふれる人気の店になっていく変化に加え、物語にはジャスミンとブレンダの友情やジャスミンを想う中年不良画家とのキュートなロマンスなども散りばめられていて、観終わったときにはなぜだかとてもほっこりした気分になるはず。

人生に成功や大ロマンスを求めずとも、なんだか生きているってそれだけ素敵なことだな、人生って捨てたもんじゃないな、という気分になれる映画なので、ちょっとどんよりした気分のときに観ると脳内に幸せなドーパミンが充足するかもしれません。もちろん、旅したい気分の時にもおすすめです。
 
おまけですが、ルート66には実際に撮影で使われたこのカフェが実在します。レンタカーを運転していつか『バグダッド・カフェ』を訪ねに行きたい気分にさせられる、そんな映画です。
 
DATA
バグダッド・カフェ

監督:パーシー・アドロン
時間:108分
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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