<目次>
9月1日問題とは 夏休みはいじめも小休止
夏休み明けのいじめ再開を苦に、子どもの自殺は9月1日に集中する(出典:白書、年次報告書/厚生労働省)
いじめの現場になることが多い学校がない夏休み期間は、いじめも小休止します。いじめられている子は、つらい思いをする機会が減りますが、9月1日が近づいてくることを憂鬱に感じています。なんとか学校に行かずに済まないだろうかとずっと考え続けるのです。
内閣府が2016年6月にとりまとめた「2015年版自殺対策白書」によれば、1972~2013年の42年間の18歳以下の自殺者を日付別に整理すると、 9月1日が131人で最も多く、4月11日の99人、同月8日の95人、2日の94人8月31日の92人と続きます。これらの日付はいずれも長期休み明け前後。新学期が始まり、学校が再開することに深い絶望を覚え、自殺を選択してしまうということです。
■参考記事
夏休み明けの自殺防止!1人でいじめと戦わせない決意
■参考リンク
自殺対策白書など年次報告書/厚生労働省
夏休み中のいじめ被害 チェックポイント
夏休み中はいじめの被害にあう機会が減る分、いじめられているサインを見つけづらいかもしれません。しかし、夏休み期間特有のサインが表れている場合もあります。- ショッピングセンターや地域のお祭りなど、学校の友人に偶然会いそうなところに行きたがらない→いじめ加害者を避けているためという可能性
- スマホでの通話の後やLINEのやり取りの後、ふさぎ込むか妙に明るくふるまう→スマホを介してのいじめに遭っている可能性
- 新学期の学校の準備をしたがらない→学校がまた始まることを受け入れたくない心情である可能性
- 学校のことを考えると憂鬱になり、無気力になる→いじめが再開することを恐れている可能性
■参考記事
夏休み明けの自殺防止!1人でいじめと戦わせない決意
いじめかも?子どもから話を聞く4ステップ
■ステップ1:時間をかけて向き合い、傾聴するまずは、子どもの話をゆっくり聴きましょう。反応を見ながら、時間をかけて向き合いましょう。話しやすい雰囲気で、あいづちを打ちながら、真剣に聴いている様子が伝わるようにすることが大切です。子どもが話した出来事や感情に対し、善悪や正しいや否かの判断を下したり、もっとこうするべき、などの批評をしてはいけません。大きく感情が揺れ動いているとき、まずは話を聞き、子どもの感情を受け止めます。
■ステップ2:苦しんできたことをねぎらう
いじめ被害に遭っていることを打ち明けてくれたなら、「よく話してくれたね、ありがとう」と感謝の気持ちを伝え、今まで一人で苦痛に耐えてきたことをねぎらいます。
■ステップ3:心配していることを伝える
子どもの置かれている状況を理解し、心の底から心配していることを伝えます。
■ステップ4:一緒に考え、孤立を防ぎ安心感を与える
いじめという状況も、子どもが負ってしまった傷も、今すぐに解決できるものではありません。しかし、子どもの気持ちに寄り添い、一緒にどうすれば良いのかを悩むことで、これまで孤独感や絶望感を抱えてきた子どもにとっては大きな支援になります。
■参考記事
長期休み明けは要注意!子供を自殺から守る5ステップ
子どもに「死にたい」と言われたら
■絶対に駄目な返しは「そんなこと言うんじゃありません」
子どもに「死にたい」と言われた時、親は動揺し、戸惑ってしまうことでしょう。「こんなに愛しているのに」「大事に育ててきたのに」という気持ちが強ければ強いほど、子どもから自分の人生を否定されるようなことを言われると、親は傷ついてしまいます。驚きのあまり「そんなことを言うもんじゃありません!」などと叱ってしまいそうにもなるでしょうが、そこはぐっと我慢しましょう。親からすれば、自分を傷つける言葉へのとっさのリアクションでも、子どもは「つらい気持ちになってはいけない」と感情の否定として受け取ってしまいます。
■命の大切さや親の死生観を説いても、追い詰められた子どもには逆効果
子どもの多くは、大人に比べて人の死に触れる機会も少なく、死についての理解が十分ではありません。子どもの「死にたい」は、積極的に自分を破壊したいというものから、消えてなくなってしまえればいいのにといううっすらとした願い、明日学校に行きたくない、といったものまでさまざまです。大人でさえ死への認識には人によって開きがあるのですから、子どもならなおさらです。
いずれにせよ、いじめ被害に苦しむ子どもが「自分は深い絶望や混乱の状態にある」ということを表現したのが「死にたい」です。最悪の状況を想定して、子どものつらい気持ちを受け止めることに専念しましょう。命の大切さや親の死生観を説かれても、子どもは共感してもらえないうえに気持ちを否定されたように捉え、孤立感を深めます。
■死にたくなるほどの問題かを大人の基準で判断しない
状況が見えてくるにつれ、大人からすると「なんで、そんなことで」と思ってしまうことがあるかもしれません。しかし、「死にたい」と言葉にするというのは余程のことです。毎日がつらくてつらくて仕方がない。それを表現する最大級の言葉として「死にたい」が出てきているのだということを理解しましょう。子どもの見ている世界、感じ方を共有する姿勢が大切です。
■参考記事
子どもに「死にたい」と言われた時の初期対応
子どものいじめ自殺を防ぐ親の関わり方6か条
■親の関わり方1:「あなたが死んだら悲しむ人がいる」と伝えるいじめ被害にあった子どもは深く傷つき、苦しみ、追い詰められた末に、苦痛を終わらせる手段としての「死」という選択について考えてしまいます。自分の「死」が周囲にどんな影響を与えるかまで想像する余裕がありません。
「あなたがいなくなると悲しむ人がいる」と伝え、「死」を自分の目線だけではなく、自分を取り囲む人々の気持ちからも考えられれば、最悪の事態を回避できる可能性が上がります。
■親の関わり方2:なんでも話し合える親子の信頼関係を築いておく
いじめがよりいっそう深刻化してしまうことを恐れて、子どもはいじめられていることを打ち明けづらいものです。日頃から子どものことを観察し、ささやかな変化にも気づけるようにしておきましょう。
日常生活における何気ない会話にも耳を傾け、なんでも話せる親子の信頼関係を築いておけば、つらい時にも相談しやすくなります。時には抱きしめて「大好きだよ」と伝えるなど、密なコミュニケーションが子どもの命を守ることに繋がります。
■親の関わり方3:いじめは暴力! 決して軽んじず、見過ごさない
加害者としては「からかっていただけ」「ふざけていた」つもりでも、クラスやグループなど一定の人間関係のある同一集団内で、身体的あるいは数の上で優位に立つ側から、心理的・物理的な継続的攻撃があるようなら、それは立派ないじめです。「気にしすぎじゃない」と子どものつらさを軽んじるようなことを言ったり、「ふざけていただけかも」と加害者の肩を持ってしまうような言葉がけは決してせず、はっきりと「いじめは暴力だ」と伝えましょう。
■親の関わり方4:「あなたは悪くない」と断言する
いじめ加害者がどれだけ自分の行為を正当化しようとしても、いじめにおける悪は当然ながら加害者。被害者には責任も落ち度もありません。もし、加害者の気に障るような言動がきっかけでいじめが始まったのだしても、被害者がいじめという暴力を受けるいわれはありません。子どもが自分自身を責めてしまわないように、このことを断言しましょう。
■親の関わり方5:「あなただけじゃない」と知ってもらう
深刻ないじめは、どの子にも起こりえます。現代のいじめは、加害者と被害者の立場が入れ替るなどしながら、多くの子どもたちが体験するのが特徴。被害者に特別な問題があるからいじめを受けた訳ではなく、誰もがターゲットになる可能性があるのだと知ることは、自己評価を下げないためにも大切です。
■親の関わり方6:「あなたの価値は変わらない」
いじめによって、子どもは自尊心に重大なダメージを負ってしまいます。「いじめが起こったのはあなたのせいではなく、加害者の問題」ということを強調したうえで、自信を失うことはないのだと伝えてあげましょう。子どもも親に気を使われていると感じるかもしれませんが、何度でも繰り返し言葉にしてあげることで効いてきます。
■参考記事
長期休み明けは要注意!子供を自殺から守る5ステップ
わが子がいじめにあったら伝えたい言葉5つ
学校に行きたくない子はどこに避難させればいい?
いじめの被害に遭った子が「学校に行きたくない」と言ったり、教室にはもう通わない方がいいと判断されるような場合、親はどのように対応すればよいのでしょうか。義務教育を修了しているか否かで、選択肢は変わってきます。■義務教育期間中の子どもが「学校に行きたくない」と言った場合
義務教育期間中は、塾やフリースクールで学習を進め、高校受験に備えることができます。高校出願時に、出席日数について説明を求めるところもありますので事前に確認が必要です。学校説明会などに参加して準備しましょう。
また、転校という選択肢も視野に入れることができます。校長先生がいじめが原因である旨を認めてくれれば、教育委員会に申し立てて転校できます。
■義務教育期間を終えた子どもが「学校に行きたくない」と言った場合
- フリースクールに通う
- サポート校に通う
- 通信制高校に通う
- 高等学校卒業程度認定試験を受ける
もとの学校に登校を再開するという可能性が残されていたとしても、いずれにせよ一時避難は必要です。学校を休ませるという選択に、特に年配の方などからは「子供のためにならない」「辛いことは乗り越えるべきだ」という苦言があるかもしれません。子どものことを心配してくれているのだという気持ちだけ受け取って、相談先は現代のいじめ事情に詳しい専門機関などを探しましょう。
■参考記事
いじめられた子が学校に行きたくないと言った場合
子どものいじめ被害を相談できる専門機関はこちら
子どもがいじめ被害に遭った時、相談に乗ってくれる専門機関
子どもがいじめ被害を話し、つらい気持ちを相談できる専門機関をご紹介します。
■子どもの人権110番
全国共通の番号で、どこからかけても近くの法務局・地方法務局につながり、担当者がいじめなど人権に関する悩みの相談に乗ります。フリーダイヤルで、電話料金はかかりません。
電話番号:0120-007-110
受付時間:平日 8:30~17:15
※土・日・休日は受付なし
■子どもの人権SOSミニレター
法務省の人権擁護機関から、学校などを通じて配られています。小学生用と中学生用があり、いじめなど人権に関する悩みごとをミニレターの便せん部分に書いて裏面から切り取った封筒部分に入れて封をし、ポストに投函すれば、切手を貼らなくても近くの法務局・地方法務局に届き、担当者が手紙や電話などで相談に乗ります。
学校などで配られた際、保管が呼びかけられてはいますが、失くしてしまった場合は「子どもの人権110番」に電話して送ってもらうこともできます。
■インターネット人権相談受付窓口
メールで相談できます。いつ送ってもよく、担当者がメールや電話で相談に乗ります。
インターネット人権相談受付窓口/法務省
■24時間子供SOSダイヤル
いじめ相談や、子どもの安全にかかわる悩みを、24時間いつでも電話で相談できます。電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。子ども本人以外にも、親からも相談も受け付けています。
■参考リンク
「いじめ」しない させない 見逃さない/政府広報オンライン
夏休み明け、子どもを追い詰めないために
夏休み明けが迫り、思いつめてしまった子どもが自死を選ぶという悲しいケースが後を絶ちません。いじめという根本的な問題への対処や子どものケアはもちろん必要不可欠ですが、思いつめた末の最悪の事態を未然に防ぐためには、子どもの思考スタイルにも働きかけることが重要です。人間はだれでも、その人の「思考スタイル」を持っています。それをベースに状況を読み取り、物事を解釈しているのです。思いつめてしまうタイプの人には、次のような思考傾向が見られます。
■思いつめてしまうタイプの人の思考傾向
- 「白か黒か」の二極的思考
「白でないなら黒」「100%でなければ失敗も同然」のように二極的にものごとの捉える思考傾向。困難な状況に置かれたとき、危機的な側面ばかりを強調して考え、立ち直れないように感じてしまいがちです。 - 過度の悲観視
「1つダメだと、次もダメだろう」「これがダメなら、あれもダメだ」のように、「1点の黒」を「全体の闇」に広げてしまう思考傾向。行き詰まり、絶望感を抱きやすくなってしまいます。
■子どもの前では言うべきでない「二極的思考」&「悲観視」発言
「こんな調子じゃ、いつまで経ってもできるようにならない」
「完璧にできなくちゃダメ、これならできていないのと同じ」
子どもに、「どうせダメなんだ」と、もう可能性がないというような思考を刷り込んでしまいます。
■子どもの前では特に心がけたい「多極的思考」&「楽観視」発言
「私も昔は○○なことがあったな。でも、○○って考えたらラクになったよ」
「これがダメなら、あれができるよ、大丈夫、やり方はたくさんあるから」
誰でも失敗し、イヤな思いをすることはあるが、そこから立ち直ることができるのだというストーリーを意識した言葉選びがポイントです。端的に言えば「悪いことは続かない」というようなニュアンスです。
子どもがいじめ被害に遭ってしまった場合、親がすべきことをご紹介しました。自殺件数が集中する9月1日前後は特に気をつけて頂きたいですが、なにもこの日に限った話ではなく、日ごろからお子さんの気持ちに寄り添って、サインにすぐに気づけるようにしてあげてくださいね。
■参考記事
【9月1日問題】子供を追い込まない親の働きかけ
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