今ではイタリアツアーも一般的になってきましたが、「フィレンツェ」という街の名前が日本に浸透するきっかけにもなったのが映画『眺めのいい部屋』です。
20世紀初頭の上流階級英国人の旅行の仕方や、彼らから見たフィレンツェの庶民の様子が分かり、興味深いです。また後半、舞台は英国に移ります。話の軸は、英国人令嬢ルーシーと、滞在中のフィレンツェで出会った風変わりな英国青年ジョージとの恋なのですが、映像や音楽も美しく、どれをとっても楽しめる映画です。
日本人が好きな要素が満載
英国上流階級、フィレンツェの建築や美術、トスカーナや英国の田園風景、オペラ音楽など、日本人が好きな要素が満載です。映画のテーマ曲となっているそのオペラ音楽とは、プッチーニの『ジャンニ・スキッキ』のアリア、『私の愛しいお父様 "O mio babbino caro"』。歌詞のなかにも「ヴェッキオ橋」「アルノ川」などフィレンツェの橋や川の名前が出てきます。「この恋が叶わないなら、ヴェッキオ橋に行って、アルノ川に身を投げてしまうわ」とお父様に訴える、という内容の歌詞です(ちなみに私の姉は、自分の結婚式でこの歌を父に捧げて歌いました)。
主人公の2人を演じるのはヘレナ・ボナム・カーターとジュリアン・サンズという美しい英国俳優、脇を固めるのはマギー・スミス、ジュディー・デンチ、ダニエル・デイ=ルイス、デンホルム・エリオットといった英国の名優たち、監督はジェームズ・アイヴォリー、原作はE.M.フォスターの『A Room with a View』です。
映画公開の1987年、日本は英国ブームでした
1985年の映画ですが、日本公開は1987年でした。私は、その4年前の1983年に生まれて初めて英国を訪れ、将来英国に住むのを夢見て、英国に関する映画を片っ端から見ていた時代です。1987年といえばミニシアターの先駆けであるシネスイッチ銀座がオープンして、翌年同館で上映した英国映画『モーリス』が大ヒット、まさに当時の日本は英国ブームだったのです。実は私、当時そのシネスイッチ銀座でバイトしてました!
英国に憧れていた私は、この『眺めのいい部屋』を何度見たか分かりません。でも、まだ行ったことのないイタリアという国に魅力を感じたのは確かです。その後、私自身も念願かなって英国に住みましたが、人生いろいろあって、現在はイタリア在住です。今思うと、なにか運命的なものを感じます。
実は続編があるのですよ
2007年に、英国のテレビ局ITVがテレビ映画『A Room with a View』を別キャストで制作しました。ジョージの父親であるエマーソン氏をティモシー・スポールが演じ、ティモシーの実の息子・レイフがジョージを演じて、初の親子共演が実現したのが注目で、ほかのキャストも魅力的です。また、フィレンツェのあとに、ローマのシーンも出てくるというおまけつきです。こちらYouTubeで見られますが、原作にはない10年後のお話が出てきます。オリジナルがハッピーエンドで終わっているので、それを大事にしたい方は見ない方が……。
ところで、フィレンツェ郊外のフィエーゾレにピクニックに行くシーンで、英国人たちが乗る馬車のイタリア人御者が「妹だ」と言い訳をして、彼女を同乗させ、イチャついているところを見つかり、彼女は途中で降ろされてしまう、というエピソードがあるのですが、こちらの2007年バージョンでは、その御者が重要な役割を担ってきます。
余談ですが、仕事でツアー中に、大型バスのドライバーが、奥さんや彼女を同乗させていいか、と聞いてくることがあり、そのたびにこのシーンを思い出します。日本の常識だったらあり得ない質問なもので。
また、ホテルの部屋からの眺めがよくない、とお客様から言われるたびに、やはりこの映画を思い出します。映画のように、それが素敵な出会いのきっかけになればいいですよね!
DATA
『眺めのいい部屋』
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:ヘレナ・ボナム・カーター、デンホルム・エリオット、ジュリアン・サンズ、ダニエル・デイ=ルイス、マギー・スミス