最愛の人と結婚をし、夫婦となっても、なんとなく言いようのない寂しさを感じてしまっている既婚女性は多いのでは?
理想通りの家族や夫婦を作っていくことは想像以上に大変なこと。けれど、思い悩んだ時に孤独感を分かちあえる書籍が手元にあったら、心の重荷は少し軽くなるはず。
今回は、月40冊読破&ダ・ヴィンチニュースにて書評を執筆している筆者がリアルに泣けた詩集『すみれの花の砂糖づけ』をご紹介いたします。
既婚女性の寂しさを包み込んでくれる一冊
かわいらしいカバーが目を引く本作は、『東京タワー』や『きらきらひかる』といった代表作でおなじみの江國香織さんが手がけた詩集。江國さんが紡ぐ言葉には口には出せない既婚女性の哀しさや寂しさが詰め込まれています。収録されている作品の中で、特に筆者の心に響いたのは、「妻」という詩。
“妻” そのばかげた言葉のひびき これはほら あれに似ている “消しゴム” ちょうどおなじくらいの言葉の重さ(引用)
永遠の愛を誓い合い、彼女という立ち位置から妻になったとき、私たち女性は嬉しさと期待で胸が弾むもの。耳慣れない「妻」という響きのくすぐったさに、心が温かくもなります。しかし、そんな特別な名称も月日が経ったり、愛が零れ落ちていったりすると、日常に溢れている物と同じくらいの軽さに。
筆者は結婚後、思い描いていた夫婦生活とのギャップに苦しみ、心が通い合わない日々を過ごしていました。背中合わせで眠る夜を何度も超え、2人でいるのに埋まらない孤独にひっそりと涙していたとき、この詩に出会い、自身の抱いていた辛さを分かってもらえたような気持ちになりました。
妻になったことで夫から大切に扱われなくなくなり、女性として見られなくなった哀しみが擦り減っていく「消しゴム」に例えられているこの詩は心が傷ついていることを知らせてくれ、夫との関係を見つめ直すきっかけになりました。
「妻」って一体どんな存在なんだろう。そう思い悩んでいる既婚女性こそ、本作を手に取り、見て見ぬフリしてきた悲しみを癒してみてください。
女性ではなかった「あの頃の私」を思い出せる
誰のものでもなかった頃の「私」はどこへ…?
本作は女ではなく「自分」でいられた日を思い出させてもくれます。誰のものでもなかった自分はもっと自由で、生き生きしていたはず。それなのに、恋をし、誰かのものになることで私たちは”誰かのための自分”になってしまうように思えます。
実際、筆者自身も恋愛中や結婚生活を営む中で、「どうすれば相手に好かれ続ける自分でいられるのだろう」と思い、常に息苦しさを感じてきました。しかし、江國さんはそうした生きづらさと向き合い、どんな自分で生きていきたいのかを考えるきっかけをくれました。
既婚女性はもちろん、現在恋愛で悩んでいる方に“ありのままの自分で生きることの大切さ”を悲壮的に教えてくれる。…それは本作の大きな醍醐味。男や恋なんてもうどうでもいい…と悲観的になった夜こそ、手に取りたくなる作品です。
恋や愛に翻弄されていると、ポジティブな言葉を拒絶したくなることもあります。傷つくと分かっていても止められない恋愛や傍にいる相手を遠くに感じて苦しんでしまうことはあるはず。そんな辛さにそっと寄り添ってくれる温かさが江國さんの言葉には込められています。
夫婦の在り方や愛の正体が分からなくなった時こそ、本作を開いて心の傷をそっと癒してみてください。
DATA
新潮社|すみれの花の砂糖づけ
著者:江國香織
発売日:2002/11/28