1960年代はインターネットなどなく、テレビもモノク ロが主流、すでにInstagramなどのボーダレスな世界観に親しんでいる私たちとは違った感覚で外国切手を見つめていたはずです。だからこそ、当時のデザインに新しい発見があるのかもしれません。
私が紹介する『切手帖とピンセット』は1960年代の切手のデザインを通じて、当時の空気を感じようと書かれたもので、今の女性たちがどんな関心をもって切手と向き合っているのかをわかりやすく解説する内容となっています。
1960年代の切手が持つ時代性
1960年代は郵便物の増加に対応するため、世界各国が郵便番号制を導入し、切手の供給量も飛躍的に伸びた時代です。一方、本書の書き出しが「個人の海外旅行が難しかった1960年代の大人たち子どもたちは、切手で世界にアクセスすることにわくわくしていたのでした」と始まるように、冷戦時代でもありました。東西陣営が経済や学術、宇宙開発やスポーツと互いに競っていたなかで、郵便切手はアクセスの難しい国々との貴重な接点となっていたのです。こうした時代背景も本書の基調となっています。
実際に切手を入手する楽しみも!
切手収集の楽しさは鑑賞だけではありません。気軽にオリジナルを買える楽しさもあります。本書で紹介されている切手は1,000円以下で買えるものが中心で、当時の本物の切手を手元において楽しむことも可能です。手の届く芸術作品の「美術ガイド」として面白く読めるのも魅力です。本書は切手を集める女性にかぎらず、「むかしやっていた切手収集を再開してみたい」、「外国切手をどのように集めたらよいか分からない」という方であれば、買って損のない1冊でしょう。また、ベテランの収集家にとっても何か新しい発見のある書になることと思います。
DATA
国書刊行会 | 切手帖とピンセット
著者:加藤郁美
ページ数:192ページ