老後2000万円の意味は「退職金+α」残して引退しないとダメよ、というだけ
昨年話題になった「老後2000万円」といえば、もはやほとんどの日本人の話のネタとなってしまいました。喫茶店でも居酒屋でも電車の中でも、よく話題になりました。しかし残念なことに、間違った議論がたくさん行われていました。元々の報告書は、とてもまじめなものです。老後に向けた資産形成をどうサポートするか、また高齢者の資産運用はどうあるべきか、そこで果たすべき金融機関の役割はどうかなど、丁寧にまとめているものです。しかし、ニュースの切り取り方があまりにも短絡的で、話をおかしくしてしまったと思います。
今回の話をちょっと言い換えてみると、「退職金にプラスアルファのお金を用意しておくと、老後の心配はあまりないよ」というだけのことです。
皆さんの両親も親戚も、年金生活に余裕がある人は決まって、退職金をもらい、貯金もがんばった人です。老後にあまり余裕がなさそうな世帯があったとすれば、年金以外にお金を持たずにリタイアをすることになった人です。
これは過去も現在も未来も同じです。実はとても当たり前の「教えてくれないお金の常識」のようなものを、はっきり言ってくれたのが「老後2000万円」なのです。
しかし、「自分で2000万円貯めておけ!」と突き放したように解釈されてしまったので、話はおかしくなってしまったというわけです。
老後には一体いくら必要?
本当のところ、老後2000万円では足りない
といいつつ、タイトルでは2000万円ではなく7600万円だ、と書いています。実は老後に必要な額は2000万円どころではないからです。元の報告書は家計調査年報の全国平均の数字が基礎となっているのですが、年金生活をされているご夫婦が使っている1カ月のお金は、「26.4万円」です。これは食費、日用品、交通費、交際費、税金や社会保険料など、全部の合計です。
実はこれを65歳女性の平均余命である24年でかけ算すると、なんと7603万円もかかります。100歳人生を考えて35年で考えれば1億1088万円です。全部のお金で考えると「老後に2000万円」ではなく「老後に7600万円」、あるいは「老後に1億1100万円」が本当のところだと思います。
さすがにあなたのご両親や親戚、祖父母も1億円を貯めて引退していないように思いますが、日常生活をやり繰りしているはずです。なぜでしょうか。
公的年金は、6000万円以上もらうチャンスもある
しかし、老後に7600万円必要だからといって、それほど怯えることはありません。実は毎月かかるお金のうち約21万円は、夫婦が受け取る年金収入等により、大体まかなえているという実態があるからです。先ほどの24年で掛ければ、この年金受け取り額の累計は6163万円、35年で掛ければ年金受け取り額累計は8988万円にもなります。私たちは「どうせ年金はもらえない」と思い込んでいるので、信じられないでしょうが、実はすごい金額を人生の最後に受け取ることになるのです。
あなたが生きている限り、ずっと年金は振り込まれます。それは、払った保険料の金額とは関係ありません。長生きをすれば、保険料の元は取れるようにできています(特に平均寿命より長生きするほど得になる)。
「老後に2000万円もかかる」というのは間違いで、むしろ「老後には7600万円~1億1100万円もかかるけど、実際に準備するのは2000万円あればなんとかなる(繰り返しますが、退職金プラスアルファ貯めるというのは親も親戚も祖父母もやってきたことです)」のです。
2000万円で足りないのは、趣味・娯楽・交際費の分
それでも「2000万円も必要なんて!」と困っている人もいるでしょう。しかし、実のところ、これは飲み食いするお金が年金でもらえない、という意味ではありません。年金収入で老後の日常生活費をやりくりすることができれば、老後破産の心配はありません。そして、実態としても年金収入は食費や服代、日用品を買う分には足りています。
元となった報告書や家計調査年報をよく見ると、食費や日用品費、医療費など、生活をしていくために必要な金額を足し合わせた数字は21.1万円です。実は年金等の収入額とほとんどトントンになっています。
確かに毎月の不足が5.5万円となっていて、これを長い老後を意識して積み上げたのが2000万円の目標とされていますが、家計の内訳でいえば「教養・娯楽費」「交際費」の合計が月5.2万円で、毎月の不足分はこれに当たります。
つまり、旅行に出かけたり、友達と映画を見に出かけたり、年に数回くらいゴルフコンペに顔を出したりするお金が、年金では足りないということです。これはまさに、老後の楽しみやゆとりのためには大切な予算です。
国の年金はさすがに映画代や旅行代は出してくれません。自分で将来のために備えたお金でやり繰りするものです。そして備えれば備えるほど、老後の楽しみが増やせるのです。
私たちは、2000万円を食費のため、つまり「生きていけないから貯めろ」と言われているのではありません。「あなたが老後に映画を見たり、旅行に行ったりしたいなら、その分を自分で貯めておこう」と言われているのです。
そう考えてみたら、老後に向けてお金を貯める「やる気」もちょっとだけ湧いてくると思います。前向きに考え、自分の未来のために行動できた人は必ず、楽しい老後を迎えることができるはずです。「老後に2000万円」は、実はそういうアドバイスをしてくれているのです。
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