年金/公的年金制度の仕組み

5年に1度見直される年金制度。気になるニュースの背景にあるものとは?

老後の収入の中心となる年金ですが、5年に1度その制度が見直されているのをご存知でしょうか。今年がその年であり、見直し内容に関してのニュースが新聞やネットでよく取り上げられています。今回は最近のニュースからその背景にあるものを考えてみたいと思います。執筆・監修/井出やすひろ

執筆者:All About 編集部

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最近増えてきた年金のニュース。どこに注目すればいい?

老後の収入の中心となる年金ですが、5年に1度その制度が見直されているのをご存知でしょうか。今年がその年であり、見直し内容に関してのニュースが新聞やネットでよく取り上げられています。今回は最近のニュースからその背景にあるものを考えてみたいと思います。
 

年金のニュース、どこがポイントになる?

年金のニュース、どこがポイントになる?

【厚生年金加入、70歳以上も 厚労省が納付義務を検討】


2019年4月15日付の日経新聞が報じたタイトルです。年金制度は大きく基礎年金(国民年金)と厚生年金に分けられますが、厚生年金は企業に雇われている会社員等が加入している年金です。現在はリタイア後の再雇用の場合でも月額賃金が8万8000円以上なら70歳までは保険料の納付が義務となっています。これを70歳以降も負担してもらうことを検討しているのです。
 

背景には年金財源確保のおもわくが…

高齢者への厚生年金の加入拡大策の背景にある理由の一つとして年金財源の確保があります。日本の年金制度の基本は「賦課方式」がとられており、働く世代が支払っている保険料が現在の年金受給者への支払いに充てられています。少子高齢化で年金受給者は増える一方で保険料の担い手が少なくなることが考えられますので、働く高齢者にも適応を拡大し加入者を増やすことで保険料収入を増やす必要があるのです。
 

働くシニア層の増加も議論を後押ししている?

働くシニア世代の増加が70歳以上の加入の議論を後押ししている側面もあります。図1は労働力人口の推移をみたグラフです。これによると高齢者の就業率は65~69歳は45.3%、70~74歳も27.6%、75歳以上では9%であり、65歳~74歳の就業率が年々増加していることがわかります。
 
労働力人口比率の推移(出典:内閣府HP 平成30年版高齢社会白書)

労働力人口比率の推移(出典:内閣府HP 平成30年版高齢社会白書)



また内閣府による現在働いている方の意識調査によると「働けるうちはいつまでも仕事をしたい」と考える割合が42%に上ることがわかるかと思います。
 
高齢者の就労意識調査(出典:内閣府HP 平成30年版高齢社会白書)

高齢者の就労意識調査(出典:内閣府HP 平成30年版高齢社会白書)

 【70歳雇用 企業に努力義務】


年金関連の記事ではないですが、2019年5月16日付の日経新聞の記事タイトルです。現在の法律では働いている方が希望すれば65歳まで継続して雇い入れる義務が企業にはあります。具体的には「定年延長」「定年廃止」「契約社員や嘱託などでの再雇用」いずれかの措置が取られていますが、これに加え「他企業への再就職支援」「フリーランスで働くための資金提供」「起業支援」「NPO活動への資金提供」などの選択肢を準備することで、働く意欲のある高齢者を後押しするよう企業への70歳までの努力義務を促していくようです。
 

高齢者の就労意欲を高めようとする制度改正はどうなった?

【在職老齢年金の廃止検討 政府・与党、高齢者の就労促す 高所得者優遇懸念】


2019年4月19日付の毎日新聞の記事のタイトルです。「在職老齢年金」とは一定以上の収入のある高齢者の厚生年金支給額を減らす制度のことであり、具体的には60歳以上で企業に勤めている人について、60~64歳では賃金(ボーナス含む)と年金の合計額が月28万円、65歳以上は月47万円を超えると年金支給額が減らされ賃金が多くなれば減額幅も大きくなるという制度です。この制度が高齢者の働く意欲を削いでいるとの指摘が今までもあり廃止することで就労意欲を高めようというのが狙いです。その一方で高齢者一律に制度廃止により支給が増えることになり、一部の高所得者を優遇することになるのではないかとの懸念がありました。

【働く高齢者の年金減額、現状維持に傾く 議論なお迷走】


2019年11月21日付の日本経済新聞の記事タイトルです。働く高齢者の就業意欲を高めるべく、10月には減額基準の見直し案が厚労省から出されました。具体的には60~64歳、65歳以上ともに月62万円に引き上げるといった大胆なものでしたが与党などから「金持ち優遇」と批判が噴出。その後月51万円に修正したものの、反対意見はおさまる気配がありませんでした。
 

【年金減額基準、働く65歳以上は「月収47万円超」維持】


2019年11月26日付の日経新聞の記事タイトルです。最終的に「在職老齢年金」の減額基準は65歳以上で月47万円超に据え置かれることになりました。一方で60~64歳は現行の28万円超から47万円超に引き上げられることとなりました。退職直後60~65歳のまだまだ働く意欲の旺盛な方にとっては朗報である一方で、「金持ち優遇」の批判をうけ65歳以上の方の就業意欲を後押しできない玉虫色の制度に落ち着いてしまった感は否めません。
 

キーワードは人生100年時代

安倍内閣は政策会議として「人生100年構想会議」を定期的に行っています。その中で具体的なテーマの一つとして「企業の人材採用の多元化、多様な形の高齢者雇用(注)」が掲げられています。紹介したような新聞記事からは、人生100年構想に沿った高齢者の活用、高齢者に活躍してもらう環境づくりをしていきたいとの意図が読み取れます。一つだけではその意図が分からない新聞やニュースも、時系列的に読んでいくと背景にあるものが見えてきますし、これからの報道記事もそのような観点で読んでいけば、より理解が深まるのではないでしょうか。

*注:首相官邸HP、人生100年構想会議、第一回議事次第配布資料より抜粋
 
執筆・監修/井出やすひろ

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