値段が高いモノが高級品、当たり前の論理のはずが……
値段が高いことは概ね品質の高さを意味し、私たちはそれが当たり前だと思っています。スーパーマーケットの魚売り場に行けば、100円の魚より1000円の魚のほうが高級品ですから、美味しいであろうと考えます。100万円の軽自動車より400万円の普通自動車のほうが、パワフルで安全性能が高いと考えますし、1000円の服よりも3万円の有名ブランドの服のほうが、質が高くオシャレだと考えるのは、当たり前のことです。
ところが「値段が高い=高品質」とは限らないのが、投資の世界の不思議なルールです。しかし、このルールを知っておくだけで、投資との付き合い方はがらりと変わってきます。今回のマネーハックは、あなたの発想を転換する「投資のお値段」の話をしてみましょう。
投資においての「高い」は手数料に着目する
投資において何が高いと考えるか、まず整理してみましょう。株価が上がったり下がったりすることでの値動きのことではありません。投資には何らかの手数料がかかります。投資のお値段、「高さ」として着目するべきはそちらです。株式や投資信託はそれぞれのルールに沿って手数料が生じるのですが、概ね次の3つに手数料がかかります。
・購入時
・保有時
・売却時
個別の株を買う場合は、以下において費用が生じます。
・購入時 売買手数料
・保有時 特になし(配当には税金がかかる)
・売却時 売買手数料(と利益に税金がかかる)
投資信託などの場合は、次の3つにおいて手数料が保有資金の一定率でかかります。ただし、購入時と売却時には費用不要の場合もあります。
・購入時 販売手数料
・保有時 運用管理費用(信託報酬)
・売却時 信託財産留保額(と利益に税金がかかる)
それでは、2つの投資信託があったとき、どちらがよい運用成績となるでしょうか(同じ投資対象、例えば日本株式を運用対象とした場合)。
【A投資信託】
・購入時 ゼロ(ノーロードという)
・保有時 資産額の0.2%(年率)
・売却時 ゼロ
【B投資信託】
・購入時 購入額の1.0%
・保有時 資産額の1.5%(年率)
・売却時 売却額の0.2%
あなたはどちらを高級品だと考えるでしょうか。たぶん、Bの投資信託のほうが高級品であろうと考えるのではないでしょうか。
運用期間中の手数料(運用管理費用)が約7倍もあるのだから、成績も7倍くらい高くなるし、元本割れも回避してくれそうな気がしますが、それは大間違いです。
高い手数料を「元本割れしない費用」と思うなら大間違い
投資における「高級品」という評価を何に求めるか整理してみると、おそらく「元本割れを避けてくれる」というものと「運用成績が他より高くなる」というものでしょう。まず「元本割れリスクが下がる」というイメージで、先ほどのB投資信託に期待するとしたら、それは概ね効果はありません。
「いやいやいや。プロが運用をしてくれるのだから、マイナスにならないよう上手く売買してくれるのではないの? だからこそ、高い手数料払っているんだけど」とあなたが思っても、特別にそうした運用方針を採用していない限り、世の中の株価下落時にはA投資信託もB投資信託も値下がりします。
日経平均株価のように、日本の平均的な株価を示した指数が20%ダウンしたとします。22000円が17600円まで下がるくらいです。手数料の高いB投資信託が日本の株式に投資し、日経平均株価をその目標値(インデックスという)としていたとします。
私たちは株価下落局面を敏感に察知し、日本以外の投資対象にお金を移したり、現金にしてタイミングを見てくれたりするのではないか、と思うでしょう。しかし、たいていの場合AとB、どちらの投資信託も20%下がります。せいぜいプラスマイナス1~2%の違いにしかなりません。
世界経済の平均、あるいは日本経済の平均的な値動きを回避して元本割れをしないことは、かなり難しいことです。ときどきそういう投資信託もあるにはあるのですが、そういう投資信託はアベノミクスのように、株価が2倍になったときに10~20%くらいしか値上がりしていなかったりします。
元本割れを回避することを前提とすると、今度は株価が上がってもあまり儲からなくなります。たぶん、それはそれで不満に感じるのではないでしょうか。だって、プロなのに? と思うでしょう。
普通の人が投資をするときは、「元本割れを避けてもらえる」とは思わず、「元本割れしても困らない程度の投資資金にとどめておこう(手元に定期預金も持っておこう)」と考えるほうがよいでしょう。簡単にいえば100万円を全部投資信託に預けず、50万円は定期預金に残し、50万円で投資をすればいいのです。
高い手数料を「運用成績が倍増する費用」と思うなら、これも大間違い
もう1つ、「高い手数料が高い運用成績につながる」という期待はどうでしょうか。プロが高い手数料を取るのですから、運用成績はぐぐっと高くしてもらいたいものです。確かに投資信託の多くは、高い手数料を取る理由として企業リサーチや分析、システムによる解析(AIなど)を活用するとうたいます。その手数料は、高い運用成績で報われるかのように、パンフレットに書かれています。カッコいいファンドマネージャーの写真も載っていたりします。年収は2000万円以上かもしれません。
しかし、高い手数料に高い運用成績の保証はありません。それは「がんばります」の料金でしかないからです。先ほどのとおり、大きな下落相場ではやっぱりマイナスになるので、手数料が高い分さらにマイナスが上乗せされますし、大きな上昇相場でも「市場の平均がプラス20%のところ、プラス22%になりました!」のように報告されます。
確かに運用成績が高くなってはいますが、全体の平均値から比べればそれほど大きく頭は飛び出ていません。
ときどき、平均より何パーセントも高い成績を上げる投資信託が現れます。それは確かです。しかし、高い手数料を取って何らかの着眼点を設定した投資信託の栄光は、続かないことが一般的な評価です。
3~5年くらい良い成績の投資信託があっても、市場のトレンドの変化などにより、高成績が続かなくなるのです(人気業種が変わるとか、投資していた企業の成長が止まってしまうとか、大人気により資産規模がデカくなりすぎてしまうとか、理由はいろいろ)。
そうなると、「B投資信託がいいときはBを買い、元気がなくなってきたらさっとC投資信託に乗り換える」ようなことをしなければいけません。しかしそのためには、私たちが投資のセミプロになっていかなければいけません。それはそれでかなり困難なことです。
そんなことより簡単なのは、A投資信託のほうを上手に活用することです。
低コストで市場の平均を堅実に買うほうが「安くて高品質」であることも
投資においては「安くて高品質」を意識したほうがよいと思います。先ほどの比較では、A投資信託のようなものです。報われるか分からない期待に高い手数料を払うより、市場の平均値を堅実に低コストで実現できる投資を行うほうが、シンプルかつ簡単です。値下がりのリスクは「投資額:預貯金額」を調整してコントロールすればいいですし、「もしかしたら、もっと値上がりしていたかも」については、「市場平均が20%上がれば、私の投資信託も20%上がるし、それで十分」と考えればよいのです。
A投資信託の典型は「インデックスファンド」です。TOPIX連動のインデックスファンドなら、東証一部上場企業をまんべんなく、日経平均225種に連動するインデックスファンドなら、採用銘柄の225社をまんべんなく買うような投資を行います。
つまり、平均値である株価指数とほとんど同じ値動きをします。投資のやり方がシンプルなので、手数料も安いのです。
もし悩んだら「つみたてNISA対象」と書かれている投資信託を選んでください。「安い」について絞り込みをかけてくれている商品リストになっており、先ほどのA投資信託に該当する商品が並んでいます。
「つみたてNISA対象」というのは、つみたてNISAで買えるという意味なので、NISAで買ってもいいし、普通に証券口座で投資をすることもできます。安い場合は、誰でも月100円くらいから購入できます。
「高級品嗜好」は投資についてはあまり意味がありません。それは同時に、高望みは禁物ということです。“シンプルイズベスト”の感覚で投資と付き合ってみるとよいでしょう。