相続・相続税

民法改正で遺産分割前に相続預金が引き出し可能に?

相続発生に伴い被相続人名義の預貯金は凍結され、遺産分割が確定するまでは相続人単独での引き出しはできません。これが民法の改正により預貯金の一部が引き出せるようになります。今回はこの「相続された預貯金債権の仮払い制度」について解説します。

小野 修

執筆者:小野 修

相続・相続税ガイド

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相続が発生すると被相続人名義の預貯金は凍結されてしまいます。そのため生活費や葬式費用の支払いができず困ってしまうことがあります。そういった資金需要を考慮し、預貯金の一部が引き出せるように民法が改正されます。今回はこの「相続された預貯金債権の仮払い制度」について解説します。
 

相続預貯金はなぜ引き出せないのか

 
預貯金が引き出せないと生活費や葬式費用の支払いができないため、一部を引き出せる制度を創設することになった。

預貯金が引き出せないと生活費や葬式費用の支払いができないため、一部を引き出せる制度を創設することになった。


金融機関は相続が発生したことを知った時点で被相続人名義の預貯金を凍結します。これは現行の民法で「預貯金は遺産分割の対象であり、一部の相続人が遺産分割前に勝手に引き出せないようにするため、遺産分割が確定するまでは相続人単独での払戻しは原則としてできない」ようにしているためです。なお遺産分割が確定する前であっても相続人全員の合意(金融機関所定の用紙へ全員の署名と実印)があれば引き出しは可能です。
 

預貯金の引き出しのための全員合意は思った以上に大変

相続が発生した後は、当面の生活費、葬式費用の支払いや債務の弁済などが必要です。相続人全員がすぐに合意できれば早い段階で預貯金の引き出しは可能ですが、相続人が遠方に住んでいる、相続人が多い、未成年者、認知症、障害者、音信不通、遺産分割でもめてしまった、などで合意が難しく、かなり長期化してしまうことも珍しくありません。場合によっては多額の相続税の支払いも間に合わないといった事態にもなってしまいます。
 

遺産分割前でも預貯金が引き出せるよう民法が改正される

相続発生後の当面の支払いができるように民法が改正され、「相続された預貯金債権の仮払い制度」が創設されます。この制度により、一定の金額までは相続人が単独で預貯金を引き出せるようになります。なお遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、2つの仮払い制度が設けられます。
  1. 他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められる。手間や時間がかかるというデメリットがあります。
  2. 一定の金額(法定相続分の3分の1)までは家庭裁判所の判断を経ずに金融機関の窓口で引き出せる。相続人であることや法定相続分を証明する必要があります。例えばその口座の預金が600万円で妻と子が2人の場合は、妻は法定相続分2分の1の3分の1である100万円を、子は50万円を単独で引き出すことができます。
 
 

仮払い制度は遺産分割にも影響がある

相続された預貯金債権の仮払い制度は当面の生活費などの支払いに困らないようにする趣旨ですが、これが遺産分割にも影響してきます。たとえばAさんとBさんが遺産分割でもめてしまった場合です。Aさんは資金に乏しく、Bさんは資金に余裕がありました。早く遺産分割を決めて預貯金を引き出したいAさんに対し、Bさんは資金に困っていないので遺産分割を長期化させます。Aさんは仕方なく法定相続分より少ない預貯金でもよいので早く合意して欲しいとBさんにお願いしてしまいます。ですが民法改正後は「相続された預貯金債権の仮払い制度」によりAさん単独で預貯金の一部を引き出せるようになるため、対等に遺産分割協議ができるようになります。
 

仮払い制度はいつから?

相続された預貯金債権の仮払い制度は2019年7月1日からスタートしております。

相続された預貯金債権の仮払い制度により預貯金が引き出せるのはあくまで当面の生活費等のため、各相続人がそれぞれ単独で引き出せるのは一行あたり最大150万円までと定められました。

また引き出せるのは3分の1であるため、残りの3分の2を引き出すためにはやはり遺産分割の確定が必要になります。将来自分の相続人が困らないようにと考えている人は、生命保険に加入して受取人を決めておいたり、遺言書で相続させる額を指定しておくなどしておくとよいでしょう。

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