預貯金が遺産分割の対象となるという判断が与える影響

「預貯金」が遺産分割の対象となるか否かで遺産分割や相続税の申告等への影響が出てきます。今回の「預貯金が遺産分割の対象となる」という判断が与える影響と、その対策を確認してみましょう。

これまでは預貯金は遺産分割の対象ではなかった

これまでの遺産分割は、「金銭は法律上当然に分割され、各相続人が相続分に応じて権利を承継する」とされてきました。金銭は他の財産等に関わらず相続分によって分割されるので遺産分割の対象とならない、ということでした。

預貯金も遺産分割の対象になる

預貯金も遺産分割の対象になる



これからは預貯金は遺産分割の対象となる

最高裁は、預貯金は遺産分割の対象とならないとしてきた判例を見直し、「遺産分割の対象となる」との判断を示しました。平成28年12月16日には「普通預金、通常貯金、定期貯金」が遺産分割の対象となると判断され、平成29年4月6日には「定期預金、定期積金」も遺産分割の対象となると判断されたことで、預貯金すべてが遺産分割の対象となるということになりました。

預貯金が遺産分割の対象になると引き出しはどうなるか

被相続人の預貯金を引き出すには、金融機関は通常は相続人全員の同意(署名や実印)を求めてきます。しかしながらこれまでは「各相続人が相続分に応じて権利を承継する」ということから、一部の相続人が自分の相続分の預貯金を引き出したいと要求があれば、その分の一部引き出しに応じていました。今後は遺産分割の対象となるとの判断から、一部の相続人からの要求には応じてもらえなくなってしまいます。反面、一部の相続人が自分の分だけ引き出して行方をくらませる、という心配は無くなったとも言えます。

相続人全員の同意が得られないと困ること

遺産分割が円満に進み、相続人全員の同意が得られれば問題ありませんが、もめてしまったりすると同意が得られずに預貯金の引き出しが出来ない状態が続きます。長期化してしまうと、「今後の生活費が下せない」「建物の修繕が出来ない」「立替えていた費用が戻ってこない」といった影響も出てきます。また、相続税の納税期限までに相続人全員の同意が得られなかった場合、これまでは一部引き出しでいったん期限までに納税が出来ましたが、今後は「相続税が期限までに支払えない」といった事態にもなります。

預貯金だけは相続人全員の同意を得ればよい?

預貯金が引き出せなくて困るのは相続人全員です。もめてしまっていても相続人全員の協力(同意)で、例えば「預貯金については引き出しをして、期限までに相続税を支払う」ということは可能です。ですが思い通りに行かないこともあります。それは「相続人に認知症の人がいる」「寝たきりで署名が出来ない」「ほとんど会ったことが無い相続人がいる」「行方不明の相続人がいる」など、相続人全員の協力を得ること自体が困難なケースです。

預貯金が引き出せる対策とは?

もちろん相続人全員の同意のもと円満に預貯金を引き出せることが一番ですが、難しいことが予想される場合に相続人全員の同意が無くても預貯金が引き出せるようにしておく事前対策としては以下のものがあります。
  • 遺言・・・遺言書を書いておくことが一番の対策です。なお遺産分割だけでなく遺言執行者も指定しておくことが重要です。
  • 生命保険・・・預貯金で残すのではなく生命保険にしておきます。受取人の請求のみで現金が受け取れます。

スムーズに預貯金が引き出せるようにしておくことは、遺産分割や費用の支払い、相続税の納税など、遺された相続人も安心出来ます。なお、生前から家族名義の預貯金の口座に移しておくという話も聞きますが、相続税の申告においてこの預貯金を申告しないと税務調査において追徴課税や罰金の支払いになるケースもあります。また申告したとしても税務調査が入りやすくなる傾向があるため、あまりお勧めではありません。
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