河川の氾濫は毎年のように発生している
日本では、毎年6~7月の梅雨シーズンや8~9月の台風シーズンに毎年のように河川の氾濫が発生しています。最近では地球温暖化の影響を受け、短時間に狭い範囲に集中して雨が降るゲリラ豪雨も増えており、水害発生の危険性が高まっています。河川の周辺では日ごろからの水害対策が必須と言って良いでしょう。今回は、琵琶湖から流れ出て大阪平野を西南に流れる一級河川であり、西日本で流域人口が最も多い「淀川(よどがわ)」を取り上げ、これまでの氾濫の歴史を振り返りながら、現在公開されている浸水予想図から淀川が氾濫した時の危険性を確認していきましょう
【目次】
1.淀川氾濫の歴史を確認
2.淀川は近年も出水を経験
3.淀川水系の浸水想定区域を確認
4.大阪市の淀川氾濫時の浸水想定
5.桂川流域の危険地帯(想定最大規模)
6.木津川流域の危険地帯(想定最大規模)
7.浸水時間の長さと家屋の被害も想定
8.浸水継続時間が長い区域はどこ?
9.家屋が倒壊する危険性が高い区域はどこ?
淀川氾濫の歴史を確認
まず、過去に起きた淀川の氾濫の歴史を振り返ってみましょう。淀川では明治18年、大正6年、昭和28年と、過去に三つの大水害を起こしています【図1】。【図1】淀川の氾濫実績図(出典:国土交通省)
明治18(1885)年 6月中旬から7月初旬に発生した 明治大洪水 では淀川の堤防が次々に決壊し、当時の大阪府全体の世帯数の約20%となる約71,000戸が浸水し、家屋の流失が約1,600戸、損壊は約15,000戸という大きな被害が生じました。この水害をきっかけに、淀川流域では抜本的な淀川の改修に向けた機運が高まり、日本で最初に近代的な治水工事が行われました。
大正6(1917)年 9月29日、前線を伴った猛烈な台風の影響で淀川の本支流が共に急激に増水し、淀川大塚地区(現在の高槻市大塚町)の堤防が200メートルに渡って決壊し、右岸地域一帯に甚大な被害をもたらす 淀川大塚切れ が発生しました。浸水被害を受けた家屋は43,760戸に及びました。この水害は河道の改修や掘削、堤防の強化などの取り組みを継続的に行う淀川改修増補工事のきっかけとなりました。
昭和28(1953)年 9月25日に志摩半島に上陸した猛烈な台風13号の影響で、淀川の堤防の決壊は400か所に達し、橋梁流出は359か所を数え、家屋の浸水被害は163,788戸、主な国道・県道の56路線433か所が通行不能になるという被害が発生しています。この洪水は、流域全体の治水対策を取りまとめた「淀川水系改修基本計画」策定のきっかけとなりました。
淀川は近年も出水を経験
その後も約30年の間に10回もの大出水(おおでみず)を記録しました。近年では平25(2013)年の台風18号の影響では190戸の浸水家屋が生じています。また、直近では平成30年9月に大型台風21号が近畿地方に接近し、淀川と猪名川の河口部で計画高水位を超過する事態が発生しましたが、それまで進めてきたダムや水門の整備など河川整備の成果もあって、この台風では大阪市内の浸水を回避しています。淀川水系の浸水想定区域を確認
【図2】淀川水系洪水時の浸水想定区域(想定最大規模)(出典:国土交通省)を加工して作成
【図2】は淀川水系(淀川・宇治川・木津川・桂川)を含む淀川流域全体の浸水想定区域図です。ピンク色の濃い部分が5メートルから10メートルの浸水があると予測される区域で、淀川流域では広い範囲で大規模な水害が発生すると予測されています。
この図は国土交通省近畿地方整備局 淀川河川事務所が平成29年6月14日に公表した、想定しうる最大規模の降雨に対応した新しい洪水浸水想定区域図です。「想定しうる最大規模」とは降雨量が24時間で360㎜程度(平成25年の台風18号で発生した洪水時の約1.3倍)、1000年に1度程度の確率で起こる豪雨を想定しています。
大阪市の淀川氾濫時の浸水想定
大阪市の部分を拡大して浸水の恐れのある場所を確認してみましょう【図3】。【図3】大阪市近辺の浸水深さ想定図(出典:国土交通省)を加工して作成
着色してある部分が浸水の想定がある範囲です。特に大阪駅や梅田駅のある北区や福島区、東淀川区などで5メートル~10メートルの浸水が想定されています。またここで着色されていなくても、繁華街である難波駅を含めて地下街や地下鉄駅は集中豪雨などで浸水の恐れがあるとされており、注意が必要です。それでは次に、淀川流域全体の危険性を見ていきましょう。
桂川流域の危険地帯(想定最大規模)
桂川は京都府の佐々里峠を水源とし、京都市の嵐山で京都盆地に出て大阪府との境で木津川、宇治川と合流して淀川になる一級河川です。桂川の流域では、鴨川と合流する手前の二つの川に囲まれた地域(京都市南区)、宇治川と合流するまでの右岸・左岸(京都市伏見区)、向日市、長岡京市の付近で浸水高さが3メートルから5メートル以上になると予想されています。京坂本線の「淀駅」や「京都競馬場」」「京都府警察自動車運転免許試験場」あたりが危険な地域となっています。
木津川流域の危険地帯(想定最大規模)
木津川は京都府、三重県、奈良県を流れる淀川水系の一級河川です。三重県と奈良県の県境にある布引山脈を水源とし、山城盆地を貫流して京都府と大阪府の堺付近で宇治川、桂川と共に淀川へ合流します。上流から淀川の合流地点まで、木津川市、精華町、井出町、京田辺市、城陽市、八幡市の境界を流れていますが、木津川の両岸に広がる平地部分の広い範囲で5メートル以上の浸水危険地域に指定されています。主要な施設では木津川市役所加茂支所、木津川市役所、京都府木津総合庁舎、井出町役場、八幡市役所などがあり、鉄道でも関西本線、学研都市線(片町線)、奈良線、近鉄京都線の一部が危険地域を走っており、木津川の右岸にある加茂(かも)駅、木津(きづ)駅、棚倉(たなくら)駅、山城多賀(やましろたがえき)駅、山城青谷(やましろあおだに)駅、左岸にある祝園(ほうその)駅、三山木(みやまきえき)駅、京田辺(きょうたなべ)駅、大住(おおすみえき)駅などは川に近い位置にあるため、注意が必要です。
浸水時間の長さと家屋の被害も想定
同時期に浸水が続く時間を想定した「浸水継続時間」と「家屋倒壊等氾濫想定区域」も新たに公表されました。「浸水継続時間」とは、淀川水系において想定しうる最大規模の洪水が発生した時に、水深50cm以上の浸水が継続する時間を想定したものです。「家屋倒壊等氾濫想定区域」とは、同じく淀川水系において想定しうる最大規模の洪水が発生した時に家屋が倒壊する危険性が高い区域を想定したものです。浸水継続時間が長い区域はどこ?
淀川水系で最大規模の洪水が発生した時に50センチ以上の深さの浸水が続く時間を想定した図が【図4】です。これによると、大阪市此花区、西淀川区など淀川河口部にある海抜ゼロメートル地帯などで最大約18日間浸水が継続すると想定されています。また、淀川右岸中流部の高槻市、茨木市、摂津市では、排水河川が少ないため、最大で約15日間、浸水が継続すると想定しています。【図4】淀川水系洪水浸水想定区域図(浸水継続時間) 出典:淀川河川事務所 を元にガイドが加工
家屋が倒壊する危険性が高い区域はどこ?
続いて淀川水系で最大規模の洪水が発生した時に家屋の倒壊の危険性が想定される区域をご紹介します。河川の氾濫により家屋が倒壊する原因として「氾濫流によるもの」と「河川の浸食によるもの」があります。■氾濫流によって家屋の倒壊の危険が高い区域
洪水による堤防決壊に伴う氾濫流で家屋が倒壊する危険が高い地域は、京都市伏見区で7km2、八幡市では6.5km2、高槻市では5.8km2の区域が想定されています【図5】。
【図5】淀川水系洪水浸水想定区域図(家屋倒壊等氾濫想定図(氾濫流)) 出典:淀川河川事務所 を元にガイドが加工
■河岸の浸食により家屋の倒壊の危険性が高い区域
洪水によって川岸が浸食され、堤防や家屋の基礎を支える地盤が流失する危険性が高いと想定される区域は、京都市伏見区で0.6km2、京都市右京区と木津川市では0.4km2の範囲となっています【図6】。
【図6】淀川水系洪水浸水想定区域図(家屋倒壊等氾濫想定図(河岸浸食)) 出典:淀川河川事務所 を元にガイドが加工
今回は15年ぶりに見直された淀川水系で洪水・浸水の恐れがある区域について見て参りました。1000年に1度の確率で発生するとされる最大規模の降雨(24時間で360㎜)時には、桂川、木津川、宇治川を含む淀川沿いの地域で上流から下流までの広い範囲で浸水や家屋の倒壊の恐れがあること、淀川河口の此花区や西淀川区、中流域の右岸高槻市、茨木市、摂津市においては2週間以上の浸水が続くと想定されていることなどがわかりました。
大阪の主要駅であるJR大阪、新大阪、日本を代表する繁華街の一つである梅田周辺も浸水が想定されています。危険区域にお住まいの方はこれらの情報を参考に、万が一の時に素早く避難することができるよう避難場所の確認や準備を行うようにしてください。
【参考】
国土交通省 淀川河川事務所
国土交通省 近畿の一級河川 淀川
淀川河川事務所 淀川大塚切れ
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