個人型確定拠出年金「iDeCo」の「年単位拠出」が可能に
2018年1月1日から、個人型確定拠出年金「iDeCo」の積立の自由度が引き上げられました。具体的には、新しい制度として「年単位拠出」ができるようになりました。「年単位拠出」では、1年間の間で拠出額を柔軟に変更できるようになります。たとえば、「1月~5月、7月~11月の積立は無し」「ボーナス月の6月、12月は10万円の積立を行う」のように、1年単位で、好みに合わせて拠出額を決められるようになりました。
年単位拠出の詳細なルールについては、すでにいろんな方がわかりやすい説明をしてくれています。あえてぼくが取り上げても仕方がないでしょうから、割愛させていただきます。
その代わり、今回は「年単位拠出をするなら、何月がベストなのか?」という疑問にお答えしましょう。実は、世界の株式市場には値動きのサイクルがあることが分かっております。このサイクルを知っておくことで、「年単位拠出」を効果的に活用できるはずです。
iDeCoの年単位拠出は、何月に積立するのがベスト?
年単位拠出は、10月末に集中させるべき!
様々な論文を調べてみたところ、世界の株式市場の動きには、サイクルがあるようです。特に面白かったのが、Cherry Yi Zhangらの研究(1)です。彼らによると、300年間のイギリス株のデータを調べたところ、株価は11月から4月の間に上がりやすく、5月から10月の間に下がりやすい傾向が得られたのだとか。この傾向は、経済学者らの間では「ハロウィン効果(Halloween Effect)」もしくは「セルインメイ効果(Sell in May Effect)」と呼ばれています。実は、イギリス以外でも「11月から4月の間に株式市場が上がりやすい」というサイクルは確認されています。
そんな中、ぼくら日本人にとっては、「日本株でも同じことが起きているの?」という点が気になるところでしょう。こちらについては、成蹊大学の俊野氏の研究(2)が参考になりました。
俊野氏によると、日本の株式市場でも1960年ほどから長期にわたってハロウィン効果(セルインメイ効果)が確認できることを示唆しました。彼の研究によれば、1990年代~2010年代は、5月~10月の間、日経平均は平均してマイナスパフォーマンスだったようです。
また、日興アセットマネジメントの調査(3)でも、「日本株市場は10月末から4月末にかけて、株価が上がりやすい」傾向があるとのこと。以上の話をまとめると、2つのことが言えるでしょう。
1つ目は「日本の株式市場は、5月から10月の間は下がりやすいので、積立を行うと損をする恐れがある」という点です。この時期は株式を買っても利益になりづらいので、できれば積立はしたくないですね。
2つ目は「11月から4月までは上がりやすいので、短期間で効率的に利益を出せると期待できる」という点です。この時期は株式市場が上がりやすい傾向があるので、相場が上がり始める直前の「10月末」に、大きく積み立てると利益につながりそうです。
サイクルが生まれる理由
ちなみに、株式市場の動きにサイクルが見られる理由としては、Rosenthalが提唱している「SAD効果」(4)が有力視されているようです。ここでの「SAD」とは「季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder)」のことを指します。平たく言うと、「僕ら人間の気分は、季節によって変わります!」ということです。この理論が株式市場にも影響を与えることで、株式市場の動きは周期性が生まれるのだと考えられます。近年の研究では、Mark J. Kamstraらは、自身らの研究結果(5)を踏まえ、「確かに株式市場にはSAD効果が存在する」と指摘しています。
言われてみれば当たり前のことなのですが、学者さん達がこうやって論理立ててまとめてくれたものなので、ぼく個人としても「おおよそ、正しいのでは?」と思っています。
まとめ
年単位拠出のおかげで、iDeCoの仕組みがかなり便利になりましたね。年単位拠出を使うと、口座維持手数料が安くなる! というメリットもあるようなので、個人的にも、乗り換えようかどうか検討中です。もちろん、乗り換える際は、この記事でご紹介した方法を使って、一括で全額10月に積み立てようかと。ちなみに「そもそもiDeCoをやってない!」という方は、ぜひこの機会に始めることをオススメします。積立投資は定期預金のようなものなので、始めるだけで貯蓄の習慣も身につくし、将来設計にはもってこいだと思いますよ。
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【参考文献】
- 論文:Cherry Yi Zhang and Ben Jacobsen, 2012, “Are Monthly Seasonal Real? A Three Century Perspective”, The Review of Finance, Forthcoming
- 調査:日興アセットマネジメント, 2014, “日本株式市場とハロウィン効果について”, 楽読(ラクヨミ), 868
- 論文:俊野雅司, 2017, “株式リターンの規則性”, 成蹊大学経済学部論集, 48(2), pp. 47-83
- 書籍:Norman E. Rosenthal, 1998, 『Winter Blues: Seasonal Affective Disorder: What It Is and How to Overcome It』 The Guilford Press
- 論文:Mark J. Kamstra, Lisa A, Kramer, and Maurice D. Levi, 2003, “Winter Blues: A SAD Stock Market Cycle”, The American Economic Review, 93, March, pp. 324-343