介護

エンディングノートの書き方・保管方法・注意点

【看護師FPが解説】終活とともに広がりを見せている「エンディングノート」。医療や介護への希望や、後のこと、家族に対する思いを伝えるノートですが、ノートを書くだけでは確実に思いを伝えることはできません。効果的なエンディングノートの使い方や書き方、保管方法、注意点について、実際の事例を踏まえて説明いたします。

藤澤 一馬

執筆者:藤澤 一馬

在宅介護と生活設計ガイド

最期の迎え方を準備するエンディングノートの役割

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自分のため、家族のため、転ばぬ先の杖としてエンディングノートを活用しましょう 出典:amana

終活を始められる方は、「人生最期の迎え方も自分で決めたい」「家族になるべく迷惑をかけたくない」というような思いを持たれていることが多いようです。最期を迎えるときは正常な判断が難しかったり、体が思うように動かなかったりすることも考えられます。また葬儀や埋葬、お墓の管理など、遺される家族に負担をかけてしまうことも少なからずあるものです。元気なうちに自分の思いを書き記し、最期に残る煩わしい手続きを少しでも軽減できるようにしたい方は少なくありません。

一方で、終活をしている方の多くは、終活を進めていることやその内容について周囲に話していないという側面もあるようです。エンディングノートを書いていても、プライベートな内容で日頃言えないことを書き綴られている場合、家族にはとりあえず秘密にしてしまうこともあるでしょう。そのため、金庫やタンスなどに保管しておき、万が一の時の備えと考えている方が多いようですが、終活をしていることさえ知らない家族は、もしものときが突然訪れても、その存在に気づかず、せっかく準備されていたものを活用できないことがあります。それだけでなく、後になって見つかったエンディングノートが家族の後悔や悲しみを深めてしまうケースも実際に見られます。

効果的なエンディングノートの使い方や書き方、保管方法、注意点について、実際の事例を踏まえて説明いたします。

エンディングノート認知度は80%・準備している方は14%

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終活をする実施していますか。10%しか実施されていない。出典:楽天リサーチ株式会社「終活に関する調査」


身辺整理を始め、遺言や葬儀、介護、延命などについての希望を、生前より考え、準備する「終活」。エンディングノートは、終活で考えたことや準備した内容を記し、万が一の時に家族に自分の意思や希望を伝えるためのノートです。楽天リサーチ株式会社で行われた「終活に関する調査」では、エンディングノートの認知度は80%を超えていることがわかりました。一方で、実際にエンディングノートを準備している方はわずか14%。終活自体を準備している方は7.4%でした。

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認知症の発症率は右肩上がり。2025年には65歳以上の5人に1人は認知症。出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」


終活やエンディングノートは、自分の最期について考えなくてはならないため、抵抗感を感じる人も多いかもしれません。しかし健康で元気に過ごせる健康寿命と、平均寿命の間には10年の差があると言われています。年齢を重ねるごとに体の機能は低下し、病気やケガの発症率は増加します。内閣府の「平成29年版高齢社会白書」にて、平成24年の統計で65歳以上の7人に1人は認知症を発症していると書かれています。認知症になっても症状や重症度によって判断能力や記憶力は異なりますが、完治させることは今の医療技術では難しいため、体も心も元気なうちにエンディングノートを書くことは大切なことです。

エンディングノートの書き方……全部を埋めなくて大丈夫

一言でエンディングノートと言っても種類は様々。内容は大体似ていても、一般的な市販のものから、NPOや士業、公共機関が作成したものなど、作成者によって特色が異なります。私が作成したエンディングノートは、医療、延命、介護に関する内容が多くしましたが、士業の方が作成したものでは相続や財産の内容が詳しく書けるようになっていたり、NPOや民間企業のものの場合はペットや葬儀についての希望が細かく書けたりします。実際に手に取って、自分は特にどんな内容を残しておきたいかを考えながら選ぶのがよいでしょう。

ほとんどのエンディングノートは文字通りノート形式になっているため、1ページ目から順に全部書かなくてはならないというプレッシャーを感じてしまう方もいるようです。しかし、全てを埋める必要はありません。エンディングノートは書き始められる所から書ける範囲で書くことが大切です。

今の時点であまり考えたくないような内容は、無理をして書いても自分の思いをうまく反映できません。私は、エンディングノートについて相談を受けたときには、1年程度を目安に内容を見直すことをオススメしています。もっと短期間で考えや希望が変わることもあると思いますが、いずれにしても最新の気持ちをノートに反映させておくことが大切です。

また、エンディングノートは必ずしも一冊にまとめる必要はありません。用途に応じて複数冊に分けていても構わないのです。例えば配偶者用には財産や遺言書の場所などを書き、兄弟用には自分の両親の医療や介護のことを書く、子供用には手紙のようなメッセージを残すなど、伝えたい相手によって分けるのもよいでしょう。

またノート形式にこだわることもなく、バインダーにルーズリーフ形式で閉じるだけでも十分です。クリアポケットに写真や思い出のポストカードを入れ、葬儀などの事前契約書を閉じることも可能です。私はエンディングペーパーと呼んでいますが、家族にわかりやすく伝えられるよう、色々な工夫ができることがノートとは違う魅力です。

エンディングノートの保管場所・注意点

エンディングノートの保管場所でよくお聞きするのがタンスや本棚です。相談に来られる方も、訪問看護でお伺いしている方も、これらの場所を選ばれていることが多いです。しかし大事な注意点が一つあります。

以前看取りをした時に、ご家族から葬儀や相続について相談を受けたことがあります。亡くなった方が終活をしたりエンディングノートを書いたりしている様子はなかったとのことで、タンスなどに保管されている可能性もあることもお伝えした上で、一般的な葬儀や相続についてご説明しました。その後、葬儀を終えられ、落ち着いたところでお焼香を上げにお伺いした時のこと。ご家族から、遺品整理中にエンディングノートが見つかったというお話を伺いました。ノートに書かれていた内容とは違う葬儀や埋葬をしてしまった後のことです。ご家族は「最期の故人の思いを実現できず、本当に悔しい」と涙を流されていました。また相続の時、遺言書の内容に納得がいかず家族間でトラブルになってしまったそうなのですが、遺言書の真意もノートに綴られていたため、「先にこのエンディングノートを見つけていればよかった」ともお話されていました。

せっかくのエンディングノートがこのようなことにならないためにも、準備したノートは適切な段階で確実にご家族が確認できるようにしておくことも大切でしょう。自分の思いや最期の希望について伝えることは、日常生活の中ではためらわれがちです。また、元気なご両親に最期についての希望を聞いたり、終活の準備をしているか尋ねるのも、縁起が悪いようにも感じて聞きづらいものかもしれません。ですが、人生の最期の希望を実現するのはご家族であり、それができなかったことにで後悔を感じてしまうのもまたご家族です。日頃から家族とのコミュニケーションをとり、自分のこれからのことや終活をしていることなども伝えるのがよいと思います。

エンディングノート含め、終活を始めることは、それまでのことを思い出し、今をみつめ、将来を考えるという過程が必要です。私は終活の相談をお受けしたり、講演をしたりする際、「最期は人生の中の一部で、特別なことではありません。今まで過ごした時間の集大成が、最期になります」とお伝えしています。日常を過ごす中で自分の人生の最期は考えづらく、不謹慎と考えるような風潮もあるようですが、理想とする終末期やその後のことについて共有しておくのは大切なことです。今まで過ごしたすべての時間が最期に反映されると考え、人生の棚卸を、今後の生活をより充実したよいものにしていくためにも、無理のないところからエンディングノートの作成と活用を始めてみてはいかがでしょうか。
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