庭スペースが取りづらくなった現在の住まい
建物の規模にかかわらず、住まいの中にアウトドアの環境を採り入れる設計手法が近年、人気になっています。光や風、緑などが感じられるなど外とのつながりが感じられるほか、室内空間に広がりが感じられるようになるからで、その設計手法の有無で住まいに対する満足度が大きく左右されます。そこで、この記事ではどのようなことに留意してこの設計手法を採り入れれば良いのかについて、リビングの配置をどの階層にするかという視点から、実例をもとにポイントを探ります。まずは1階にリビングを設けるプランのケースから。庭のスペースを確保できる敷地に余裕のある住宅なら、庭に植樹をしたりテラスを設けることで、アウトドアの環境をリビングなどに採り入れることができます。例えば、以下のような事例のような感じです。
このようなケースでは、敷地の周りに塀や植栽があればプライバシーを確保しやすく、外部との一体感を感じられるリビングとなります。フルオープンサッシの採用など大開口にできるようなら、より広々とした空間に感じられ、アウトドアの環境を身近に感じながら暮らせることでしょう。
しかし、今の時代、それは大変贅沢な住まいのあり方です。中でも若い方々にとっては。というのも、建物と同時に土地も手に入れなければならないケースが多く、庭を確保できる条件の良い住宅取得をできるケースは少ないものです。
それは郊外で販売されている土地でも同様です。例えば、従来は大きな庭のある一軒家があった土地を複数の区画に分割したような土地が数多く販売されるようになっています。そうなると庭のスペースを確保するのはとても困難です。
ですので、上の写真ような住宅がこのところ大変増えています。1階にリビングがあり掃き出し窓があるものの、その前は駐車スペースになっていて、アウトドアの環境を楽しめる雰囲気ではありません。
玄関スペースを多目的に活用する手法
こうした事例は、注文住宅でも特に南入りの敷地によく見られます。これは南側に玄関とリビングを配置し、特にリビングの日当たりを良くする設計ですが、プライバシーの確保の面でもあまり好ましくない状況が生まれます。風通しを良くしたい春から秋にかけての時期も、窓を開けるのにも躊躇しがちになってしまいます。つまり、そんな時期でもエアコンに頼りがちになるわけで、光熱費の面でも優れた設計とはいえないでしょう。
さて、先日、こんな問題点を解消する興味深い提案を盛り込んだ商品の発表がありましたので、ここでご紹介しておきます。旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)の「のきのまent(エント)」がそれにあたります。
このプラン商品の代表プランは、1階にLDK、2階には主寝室や子ども部屋、浴室回りを配置。その上で、玄関に広めのテラス「のきのま」というスペースを設け、さらにリビングとの連続性を持たせたプランニングであることが特徴となっています。
玄関スペースのプライバシー性を高めることで、リビングにアウトドア環境を採り入れています。「のきのま」は、普段は子どもたちの遊び場や家族が趣味を楽しむ場所になる一方で、友人や地域の方々との交流の場ともなります。
また、LDKへのアクセスは玄関ホールからに加え、玄関テラスからという2通りになります。つまり、荷物が多い場合などはリビングに直接、荷物を入れることもできますから、家事負担の軽減につながります。
もちろん、「のきのま」をガーデニングスペースのように緑を楽しむ場所として活用することも可能です。このように、1階リビングでアウトドア環境を採り入れる考えられた商品なので、参考にされてみてはいかがでしょうか。
人気が高まる2階リビングの場合は…
さて、次に2階以上のフロアにリビングを配置するプランについて。3階建てで3階にLDKを配置するケースもありますが、ここでは2階にLDKを配置する「2階リビング」、1階に主寝室や子ども部屋、浴室回りを配置するケースを中心に考えます。このような設計は、都市型住宅に近年、採用されるケースが増えています。住宅密集地では1階のプライバシーや採光の確保が難しいことから、2階にLDKを配置することが増えているわけです。この場合でもアウトドア環境を採り入れる手法はいくつか存在します。
最もポピュラーなのはベランダの活用ですが、通常のベランダに鉢植えを設置するだけでは味気がありません。そこで最近、増えているのはベランダを広めに確保し、そこを上の画像のようにリビングとの延長の空間として活用するプランニングです。
上の写真の設えのように、フルオープンサッシを開けると、狭い空間に広がりと明るさが加わり、とても気持ちの良い暮らしができます。ただ、周辺環境との兼ね合いもありますから、全てに採用できるわけではありません。
狭小でもアウトドア環境を採り入れたいケースには
狭小住宅で、どうしてもまとまったスペースを確保しづらいケースでは、下の写真のような設えを採り入れると良いのではないでしょうか。これは建物の端に壁を設置し、1階から連続して建物本体と70cmほどの間隔を開けた設計です。このようにすると、狭い空間でありながら緑を感じられますし、白い壁が外光を建物の内部まで導き、スリット素材は1階と2階の間の通風ができますから、室内の環境は何もない場合に比べてより良くなるはずです。
なお、2階リビングが最近、人気が高まり採用が増えていることに既に触れましたが、問題点もないわけではありません。それはLDKに至るのに、必ず階段の昇降が伴うということです。これは、身体機能が衰える将来、皆さんに不利に働くかもしれません。
身体に問題がなくても、毎日、買い物を抱えて階段を上り下りするのは大変。2階リビングならまだしも、近年は3階にLDKを設けるケースも増えています。そんな場合はエレベータの設置も積極的に検討すべきです。
屋上利用では継続して利用したくなるような工夫を
最後は屋上の活用について。これも防水や植栽(土壌も含む)の技術が高まってきたことから、アウトドア環境を住まいに採り入れる際の提案として採用が増えてきました。一般的な提案としてはガーデニング空間としての活用があります。最近は、ハウスメーカーによっては、より本格的にグランピングやキャンプを楽しめる、などといった打ち出し方をしているケースもあります。
屋上の利用については明確な注意点があります。それは、簡易なキッチンなどを設けておくことです。何の設備もない単純な屋上だと、そこを訪れる動機となるものがないため、せっかくの費用をかけて調えた屋上が使われなくなることがあるからです。
また、大都市の中心部など、周囲にマンションや商業ビルなどの高層建物がある場合は、目隠しになるフェンスなどで視線を遮断することも求められます。一般的な屋上のある住宅では、周囲の視線が気になるという理由から、全く使われていないというケースもあるからです。
事業者の提案に差が現れるアウトドア環境の導入
ところで、かつての住まいには坪庭に代表される、居室と外部の環境を繋ぐ空間がありました。その空間は住まい手に季節の移ろいを感じさせ、風や光を住まいに導き、心地良く暮らせるようにするものでした。現在の住まいづくりで行われているアウトドア環境の導入は、それら古来の住まいづくりの工夫を現代的にアレンジし、私たちの暮らしに合わせたものといえます。ただ、かつてに比べ、特に都市部の住環境は非常に厳しい状況となっています。
どの階にアウトドア環境を設けるにしても、周囲の状況に応じた設えが求められるのが、この分野の難しさ。さらに、居住スペースや収納スペースとの上手な兼ね合いも求められます。
つまり、都市部の住まいはアウトドア環境の導入も含め、色々な要素の陣取り合戦という側面が強いのです。そこにハウスメーカーなど住宅事業者の提案力の差が現れますので、ハウスメーカー選びの中で提案内容をしっかりとチェックしていただきたいものです。
住宅展示場のモデルハウスでは最近、アウトドア環境を採り入れた間取りを採用している事例がとても増えていますので、それも是非参考にしてみてください。