新型直6にモーターと48V電装システムの総合的な融合
Sクラスは、昔からメルセデス・ベンツの乗用車ラインナップにおける、最も重要なモデルである。他のブランドと違って、ブランドの全てのセダンは、Sクラスの影響下にある。Sクラスがあって初めて、EクラスやCクラスが成立する。他ブランドが“下から上へ”のラインナップ展開であるのに対して、メルセデス・ベンツではずっと“上から下へ”なのだ。そんなSクラスが、W222と呼ばれる現行型になってから、初めてマイナーチェンジを受けたのが17年夏のことだった。グレードの統廃合が進むなか、とあるグレードにがぜん注目が集まった。日本市場においては特に、S450(ISG)と呼ばれるモデルだ。
ISGとはインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターの略だ。エンジンとトランスミッションとの間にディスク型モーター・ジェネレーターを挟み込み、パワフルな48Vの電装システムを使って、強力なモーターアシストと、高効率な回生ブレーキシステムとを実現する、というもの。もちろん、このモーターはスターターモーターとしても使用される。
とはいえ、主役はやはりエンジン、というのがダイムラーらしい。この新しいシステムを実現するために、メルセデスは全く新しいストレート6エンジンを開発することにしたのだ。絶滅寸前のマルチシリンダーによる内燃機関の生き残りをかけた、それはメルセデスの執念が生み出した作品であると言っていい。
48Vという強力な電装システムを採用したことで、エアコンやウォーターポンプも電動化され、駆動ベルトが廃された。結果、直6であっても全長を短くコンパクトにまとめる設計が可能となった。そもそも直列エンジンは、V型に比べて部品点数が少なく、モジュール化も容易。しかもエンジンルーム内の熱管理面でも有利(エンジンを境にホットサイドとクールサイドとを容易に隔てることができる)、である。
また、電動スーパーチャージャーを採用したことで、従来の排気ターボによるラグを打ち消すことも可能となり、より大径のシングルターボを採用できた。同スペックのV6エンジンに比べて17%もの効率化を達成し、その性能はV8エンジンと同等にまで引き上げることができた。
言ってみれば、内燃機関と電動システムの総合的な融合である。事実、ボンネットを開けると、電気配線にぐるぐると囲まれたエンジンが見えるが、まるで電脳サイボーグのようだ。そこからは精密な機械造りを今後も厭わないというダイムラーの根源的な欲求を感じられて、にわかに感動すら覚える。
エンジンの回転と爆発のフィールが心地いい
果たしてそのエンジンフィールは、驚嘆すべきものだった。とにかく、エンジンの回転と爆発のフィールが心地いい。もちろん、ハイブリッドモデルらしく、モーターのアシストで十二分な加速パフォーマンスを得られているけれども、加速の最中にあっても、エンジンの存在感が際立っていて、モーターの助力を感じさせない。EV時代のとば口にあって、なんとエンジンが自らをアピールすることか! それでいて、カタログに謳われているとおりの効率化が実現されているというなら、エンジン好きのオールドボーイにはたまらないパワートレーンの登場、である。Sクラスそのものも、マイナーチェンジで目に見えぬ進化を果たした。乗り手をすぐさまリラックスさせる懐の深さは、さすがにSクラスだと感心する。乗り心地もいっそう良くなった。高価だが、同価格帯の国産高級モデルとは比べ物にならない完成度の高さ、である。
アイドリング時には充電電流を調整することでエンジンを低回転(520回転)に保ち、高率性と静粛性を向上させた。また、エンジンが2秒以上停止しないと予測した場合にはアイドリングストップを行わない機能が備わる
機械と電気システムの芸術的な融合が、しばらくのあいだだけでも、内燃機関に明るい未来を与えることを祈っている。