介護

不適切なケア・不十分な介護による高齢者虐待の予防法

【訪問看護師が解説】高齢者虐待は、介護する側には虐待という認識のないケースが大半を占めています。頑張って介護をしていても、介護の仕方が不十分だったり、不適切なケアになっていたりというケースです。介護体験を話せるコミュニティーへの参加や専門家への相談で、協力者を増やしていくことが大切です。

藤澤 一馬

執筆者:藤澤 一馬

在宅介護と生活設計ガイド

介護を頑張っているのに虐待扱いになってしまうケース

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気づかないうちに虐待となっているケースも


65歳以上の高齢者人口は、総務省統計局による平成28年の統計で3461万人とされています。総人口に占める割合は、27.3%と過去最高となりました。加齢による身体機能の弱まりや病気によって、サポートを受ける方が増加しています。介護保険によってサポートは受けやすくなりましたが、様々な原因からサービスの利用ができない事もあります。

訪問看護の現場で、仕事を辞めて介護をしてるご家庭や、家族一丸となり介護に当たられているご家庭に、私自身も訪問看護師として介入してきました。しかし介護はされてはいるのですが、ご家族が行う介護量が足りなかったり適切な食事管理ができておらず緊急入院してしまったりというケースもありました。

介護は、時には10年以上に及ぶことがあります。「経済的困窮」「介護疲れ」などで知らず知らずに虐待となってしまうことがあります。現在の虐待の実際を解説し、虐待の種類や事例を通して解決方法を紹介したいと思います。

当事者は自覚しにくい?高齢者虐待の通報はケアマネが3割

高齢者虐待防止の基本

ケアマネに次いで警察、医療者が相談・通報した件数が多くなっている 出典:高齢者虐待防止の基本


厚生労働省の平成28年度高齢者虐待防止法に基づく調査結果にて、虐待判断件数は16.384件、相談・通報件数は27.940件。平成18年度の調査結果と比較すると、相談・通報件数は1.5倍、虐待判断件数は1.3倍となっています。虐待判断件数も相談・通報件数も毎年増加しておりますが、未発見となっているケースがあり、虐待が潜在化していることは否定できません。

高齢者虐待に関する相談・通報は、ケアマネが全体の3割程度と高く、介護サービスを利用していない場合は、医療従事者や近隣住民からの通報が多くなる傾向にあります。高齢者の世話をしている方(以下、「養護者」)や被虐待者本人からの相談・通報は少なく、1割以下という結果でした。介護養護者としては介護を行っているつもりが、第三者からみると虐待と捉えられてしまうこともあり得るということです。

虐待の種類と各事例・最も多いのは身体的虐待

「高齢者への虐待」とは、養護者が高齢者に対し行う次の行為で、大きく5種類に分けられます。具体的な虐待となる行為、事例とあわせて見てみましょう。

■身体的虐待
高齢者の体に傷を負わせ、または負わせる可能性のある暴力
例:平手打ちをする、つねる、ベッドに縛り付ける、意図的に薬を過剰に飲ませるなど

■介護、世話の放棄、放任などのネグレクト
高齢者を衰弱させるような減食、長時間の放置、同居家族が行う虐待の放置など
例:入浴や着替えをさせない、水分補給や食事を十分にさせない、医療・介護サービスを理由なく制限する、同居人による虐待行為を放置するなど

■心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言または著しい拒絶的な対応、その他著しい心的外傷を与える言動
例:排泄の失敗を笑うなど恥をかかせる、怒鳴る・罵る・悪口を言う、侮辱を込め子供のように扱うなど

■性的虐待
高齢者にわいせつな行為をする、またはわいせつな行為をさせること
例:排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を出しておく、キス・性器を触る、性行為を強要するなど

■経済的虐待
養護者または高齢者の家族が高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産をもらうこと
例:日常に必要な金銭を渡さない・使わせない、本人の自宅を無断で売却する、本人の貯金や年金を本人の意思に反して使用するなど

厚生労働省の平成28年度高齢者虐待防止法に基づく調査結果では、身体的虐待が67%、心理的虐待が41%、介護等放棄、経済的虐待、性的虐待の順になっています。

地域性もありますが私が訪問した中では、介護等放棄や経済的虐待の可能性が高いご家庭がみられました。衰弱しきってしまっていたり、肺炎を患ってしまったり、床ずれが悪化し入院してしまったケースもありました。医療者として虐待が疑わしいを考えた場合には、主治医、ケアマネへ相談をすることもあります。

不適切なケアにより虐待に該当する具体例

虐待をしてしまう養護者をみてみると、「息子」が32%、「息子の配偶者」が20%と全体の半分を占めてします。また「介護に協力してくれるものがいた」割合は39%と高く、「協力者も相談者もいない」割合は17%となっています。養護者の虐待の自覚は、「自覚がある」が24%にとどまっており、ほとんどが自覚なく虐待をしてしまっていることがわかります。

以下で具体的な状況を考えて、介護のつもりが虐待になってしまう可能性を見てみましょう。

・高齢者(被介護者)
室内も屋内も杖を使って自力歩行できるが、以前転んで骨折した経験がある。介助で食事はできるものの、それ以外のことは全介助に近い状態。物忘れがあり、財布を落としたり同じものを何個も買ってきてしまうため、家族はお金を要求されても断っている。排泄はトイレに行くこともあるが、ほとんどおむつの中でしてしまう。介護サービスは恥ずかしさで拒否するため、使用していない。

・養護者である家族(介護者)
養護者は息子夫婦で、日中の大半は息子の配偶者が介護している。介護サービスは本人の希望の他、費用面の負担も感じるために使用していない。

・養護者が行ったこと
被介護者は家の中を常に歩き周る。転倒や骨折を避けるため、不要に動き回らないようにベッドの四方に柵を取り付けた。ある日、ご飯の準備ができたので、食事前におむつ交換をしようとすると、激しく拒否。おむつ交換はせずに食事をセットしたが、「いらない!」と手で払いのけられ食事は床に落ちてしまった。ストレスからとっさに怒鳴りつけてしまい、おむつ交換も食事介助もせず、その後1時間放置してしまった。

こういったケースは、残念ながら実際の介護の現場で珍しいことではないかもしれません。養護者であるご家族も精一杯も頑張られており、骨折リスクなどを考えてやむを得ずしている対策もありますが、上記の虐待の分類に当てはめると、これらの行為も虐待であると判断されてしまう可能性があります。

まず、ベッドに柵を4つ付け、自由に動けなくすることは「拘束」と考えられ、身体的虐待に該当します。怒鳴ってしまうことは、程度と内容によりますが、心理的虐待に当たることがあります。お金を渡さないことは経済的虐待、おむつ交換やご飯などの介助をしないことは介護等放棄に該当します。

また、一つの行動が5つの分類のいずれかに該当すれば必ずしも虐待と判断されるわけではなく、これらの行為が高齢者の生命や尊厳にかかわる場合に虐待となります。ですが該当する行為が継続する場合、近隣からの通報などを受けて、自治体からの調査と受ける可能性があります。

虐待予防のためにもケアマネ、介護士などの介護協力者は重要

実際の家庭での介護の現場では、養護者が介護に精通していることは少なく、手探り状態で介護を行っていることが多くあります。

高齢者のために、一生懸命介護を行っているご家族をたくさん見てきましたが、家族内で介護しなければと視野が狭まり外部の人やサービスに頼ることをあまり考えられていなかったり、ストレスを抱えて介護者側が介護うつなどになっていたりすることもあります。介護されるご本人の希望や経済的な問題をクリアすることももちろん大切ですが、他のご家族と協力し、養護者自身が過ごせる時間やストレス発散できる機会を作ることも大切です。同じような状況で介護されている方と情報交換ができる「認知症カフェ」「介護者の集い」などに参加されるのも有効でしょう。

介護の方法や仕方がわからず、体にも心にも負担がかかってしまっていることもあります。地域包括支援センターで相談をしたり、週一回の介護サービスを使い、介護の仕方を教えてもうこともできます。事情が分かっている「介護の仲間」ができ、相談もしやすくなります。経済的な理由でサービスを受けることが困難な場合も、経済状況に応じた行政サービスを紹介してもらうこともできます。

以前経験したケースで、どういうわけか高齢者側が家族による介護を拒否されており、介護士や看護師が行うとスムーズに介護を受けられ、ご家族が落胆されてしまったことがありました。高齢者の方に聞くと、「家族に排泄や着替えなどをさせたくない」「恥ずかしくてそんなこと頼めない」という理由で、家族に迷惑をかけたくないという高齢者の方の優しさによるものでした。養護者と高齢者がいつまでもお互いを尊重できるように、上手に介護サービスを使ってみることも大切です。

■参考・引用
統計からみた我が国の高齢者(総務省統計局)
平成28年度高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果(PDF)(厚生労働省)
高齢者虐待防止の基本(PDF)(厚生労働省)

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