建築家・設計事務所

大窓と屋上で内と外を繋げた小住宅[屋上のある家]

建築家・小林剛さんが手掛けた建築実例をご紹介します。建築面積わずか7坪という狭小住宅ながら、3つのワンルームを積み上げ屋上まで設たことで、家と街並み、内部と外部が無理なく繋がった快適な住宅になっています。

執筆者:川畑 博哉

2007年に独立して自身の事務所をもった建築家の小林剛さん。それから5年後に結婚したのをきっかけにご自邸の建設を計画されました。ネットで探した土地に何度も足を運んで見つけ出したのが、最寄りの駅から歩いて10分で東名高速のインターにも近い約18坪の敷地でした。

ここは法規によって大きな建物を建てることはできないため、敷地周辺にはたくさんの「抜け」がありました。そんな「抜け」を建物に取り込みながら、家の内と外との区別のない、小さいながらも伸びやかな住宅を考えたのです。

大窓のある4層の小さな家

外観
2階の大窓と張り出した黒い外階段と屋上の手摺が印象的な外観。
外観
正面の高さは約7m。2階の大窓は間口2.1m、高さ2.6m。
玄関
アプローチの先にあるスチールのグレーチングの階段を3段上がって玄関に至る。足元には地下室のドライエリアのコンクリートの壁が50cm立ち上がっている。

最寄りの駅から交通量の多い街道に沿って歩くこと10分。ロードサイドの商業ビルから路地を入ると打って変わってそこは閑静な住宅地です。この住宅地の一画に小林さんのご自邸が建っています。

この家の敷地は18坪。2階の大窓と外階段と屋上が特徴的な7坪の小さな住宅です。一見すると2階建てのようですが、実は基礎部分には地下室があり、3つのワンルームが積み重なっていますので、全体は地下1階、地上2階、そして屋上という4層の構成になっています。

外と内を繋げるリビングの大窓

 LDK
正面の大窓を北側のキッチンから見る。ヘリンボンの床はアメリカンブラックチェリー無垢材のフローリング。
LDK
リビングの東側には造り付けのテレビ台が置かれている。
LDK
ダイニングの上部のハイサイドライト。フィックスのガラス窓になっていて、屋上からも室内を覗くことができる。
台所
リビングから見た北側のダイニングとキッチン。天井高は約3.4m。
台所
コンパクトにまとめられた機能的なキッチン。正面の壁は7.5cm×15cmのタイル張り。

リビングとなる2階には、少しスケールアウトしたくらい大きな両開きの窓を設けています。開ききった様子を外から眺めると鳩時計のようなイメージです。この大窓を開け放つことで、単に風や光を取り込むだけではなく、正面の壁が無くなって室内に外部空間が引き込まれたような不思議な感覚にとらわれて、他には無い独特の心地よさが生まれています。

キッチンがあるこの部屋の奥は天井が一段高くなっていて、法規によって北側の壁が傾いています。高い天井の東側に開けられたハイサイドライトから入る光が、暗くなりがちな部屋の北側を明るく照らしています。

広い空と世田谷の眺望を楽しむ屋上

入口
屋上に至る外階段へ通じるドア。低い造り付けの収納がステップを兼ねている。
外階段
外に張り出したスチールの階段で屋上に上がる。堅牢なパイプの手摺と落下防止のネットが安心感を与える。
屋上
傾いた屋根に沿って走る木製の階段で屋上に至る。
屋上
ウッドデッキの敷かれた屋上。屋上の北側は北側斜線により屋根が傾斜している。写真:鳥村綱一

正面の大窓の脇にある隠し扉のようなドアを開けると、その先に鉄製の外階段が現れます。その階段を上った踊り場の先に、折れ曲がった木製の階段が続いています。その階段を上りきるとウッドデッキの屋上が現れます。

小林さんは以前から都会の住宅地で建物を計画する時には屋上を活用したいと考えていました。法規制の厳しい住宅地では、どこも同じような高さの建物が建ち並ぶことになります。そんな現状を逆手に取り、家を魅力的にするために屋上を設けることは非常に有効であると考えたのです。

屋上は全体で約14帖。傾斜している部分を除いた最上部の平らな所が約7帖です。ここからは砧公園の緑や多摩川の花火や東京タワーまで見渡すことができるのです。その眺望や吹きぬける風は、住宅密集地にいながら自然や季節の移ろいを感じさせてくれます。

リビングと屋上は外階段を通じて直接繋がっているので、リビングのソファで過ごしていると、頭上にも地面があるような不思議な安心感と安定感を感じるそうです。

1階の土間空間とドライエリアのある地下室

1階
玄関から続く1階の土間空間。床はモルタル金コテ仕上げ。カーテンを引けば2室に間仕切ることができる。木製の階段で2階に上がる。
1階
玄関の右(東側)の壁一面は小林さんがデザインした造り付けの本棚。靴や日用品の収納も兼ねている。
1階
東側のワーキングスペース。ユニークな脚のデスクは小林さんの考案。2つの窓から外の様子を伺うことができる。
浴室
1階の北側にあるコンパクトなバスルーム。床と壁面の下部はタイル壁面の上部と天井はFRP塗装。北側には小さな窓が設けられていて、洗濯の物干し場としても使われている。
地下室
メープルの無垢材のフローリングの地下室。北側のカーテンの奥はクローゼット。階段の下は収納になっている。
地下室
東側には天井近くに採光と換気を兼ねたスリットの窓が設けられている。奥様のコーディネートによる家具とクローゼットのカーテンが落着いた雰囲気を醸し出す。
地下室
大小2つのドライエリアから光と風が入り込む。ドライエリアは高さ2.3mのコンクリート打放し仕上げ。

1階は玄関があり住宅内外の中間的な雰囲気を持つ約9帖の土間空間です。壁いっぱいの本棚とワーキングスペースがあり、いつもなんとなく街のことを感じることができる空間です。

さらに北側にある黒板壁の奥には洗面室とトイレが控えています。バスルームは洗面室と強化ガラスで仕切られた約2.6帖の一室空間になっています。

地下は一転して約12帖のフローリングのワンルームで、用途や使い方を限定することなく、暮らしの変化を柔軟に受け止めるおおらかな空間です。正面と東側の2つのドライエリアと、東側と西側に設けられた一対のスリット窓から差し込む外の光が室内を明るく照らします。白い壁と天井との相乗効果で、地下室にありがちな暗くて狭いという負のイメージを払拭しています。

小さな敷地に建つ狭小住宅ですが、それぞれの階や空間がそれぞれの役割を担うことで、住宅と街並み、内部と外部が無理なく繋がることで、狭さを感じさせずに日々を過ごすことのできる快適な住まいになっています。

[屋上のある家]
所在地: 東京都世田谷区
構造・規模: 木造 地上2階/RC造 地下1階
竣工年月: 2014年8月
敷地面積: 59.92m2
建築面積: 23.60m2
延床面積: 70.38m2
設計・監理: アナザーアパートメント株式会社
構造設計: 金子武史構造設計事務所


小林 剛[アナザーアパートメント]プロフィール

「クライアントや使用者が愛着を持って接することのできる建築をつくりたいと考えています。そのために対話が欠かせません。建築家とクライアントとの対話、敷地との対話、周辺環境との対話、施工者との対話、自分自身との対話などなどさまざまな対話を通じ、答えを探し出す作業を繰り返し、最適な建築をつくり出します。」をモットーに、これまでに首都圏を中心に数多くの戸建て住宅を設計してきました。

アナザーアパートメント株式会社
Tel. .03-3375-7995
http://an-ap.com

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          小林 剛 [Kobayashi Tsuyoshi]

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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