脚本家・古沢良太の魅力に迫る!
時代を沸かせ、数多くの話題作を生みだしてきた脚本家・古沢良太。『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』では、テレビの前でスタンディングオベーションしたくなるような熱いシーンがいくつもありました。2018年4月にはコンゲームを描いた『コンフィデンスマンJP』がスタート、ノリに乗っている古沢良太の魅力に迫ります。個性あふれる多様な時代をけん引する
時代に応える独創的な言葉、時間と空間を自由に動かす感性、エンターテインメントを意識した視点……いくつもの要素が織りなす古沢ワールドは、ドラマだけでなく視聴者もけん引しながら、新しい作品を作り続けています。古沢流イメージセンサーが機能する脚本
パソコン上の文字が、やがて声となり命が吹きこまれ、言葉が動き始める脚本。常に映像をイメージしながら書き進める創造力が求められますが、古沢良太の脚本が映像へと変換されるとき、古沢良太だけが持つイメージセンサーが働いているように感じます。言葉、構成、いくつもの面白さを仕掛けながら、仕上げの段階で不要なエレメントをそぎ落とす。ドラマでは必須と考えられるものも古沢脚本において不要と判断すれば潔くそぎ落とすことで、作品はあか抜けていくようです。
たとえば2008年の『ゴンゾウ 伝説の刑事』(テレビ朝日系)は一つの事件を最終回まで追い続ける希少なスタイル。一話完結ではない刑事ドラマです。人間の内面を掘り下げながらも、深追いせず感傷的になりすぎないバランス感覚と、事件の特異性ではなく事件にかかわる魂の描写で、視聴者を魅了しました。
『ゴンゾウ 伝説の刑事』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/79UPjsk)
時代に融合する新しい感覚
漫画家志望だった彼の自由で豊かな感性と視聴者に対する冷静なマーケティング感覚、そして湧きあがるアイデアを試そうとする冒険心、そこに作品を成功させるという野心がスパイスされ、オリジナリティあふれる古沢流が成立していきます。商業的に成功するかどうかは基本とし、ドラマ枠、映画枠を意識して最適化する冷静な”大人の視点”と新しいことに挑戦する”少年の視点”の共存が、既存のドラマにはない描き方を可能にしています。
「多様性」「専門性」を生かす現代社会に生きる私たちの「観たいドラマ」と、登場人物の「切ない過去」で感動を煽らず個人のスキルで闘い抜く『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』の感覚がうまくマッチングしているように感じます。
独創性にあふれた
『リーガル・ハイ』と『デート~恋とはどんなものかしら~』
鍛え抜かれた言葉の瞬発力『リーガル・ハイ』
『リーガル・ハイ』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/crsXpkr)
法廷論争から日常会話まで瞬発力と説得力ある言葉で攻める弁護士・古美門研介(堺雅人)の法廷劇を痛快に描いた『リーガル・ハイ』。ウイットの効いた言葉や記憶に残る台詞はいろんな作品で見られますが、ここまで猛スピードで大量生産を続ける古沢良太には驚くばかりです。
「この国では世間様に嫌われたら有罪なんです」にあるように、「民意」「絆」など雰囲気ある言葉になびく現代人の曖昧さをビシバシと引きずり出す鋭さと、いつ何時でも論破できる瞬発力は圧巻、可笑しさのなかに真理を散りばめる古沢良太の手腕にもため息が出ます。
観ている誰もがときめく不思議
『デート~恋とはどんなものかしら~』
常に120%の自信を見せる『リーガル・ハイ』の古美門研介に対し、迷い、悩み、強気と弱気を経験しながら成長していく2人。心が変化していくドラマチックをやさしく描く新しい古沢良太も素敵です。
まだまだある!古沢流を堪能できる話題作&注目作
So Cool!『探偵はBARにいる』
『探偵はBARにいる』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/hzy6Ili)
札幌のススキノを舞台に、探偵の「俺」(大泉洋)と相棒の高田(松田龍平)が依頼された事件に命がけで立ち向かうことになる『探偵はBARにいる』。シリーズ3作を迎えた人気作品は、ワケありの人たちに追われる日々をタフに生き抜く2人がユーモアたっぷりに描かれます。
原作<ススキノ探偵>シリーズの匂いをそのまま感じさせる脚本力は秀逸。さらに躍動感あり、ブルース感ありの映像へと導く古沢良太のセンスはハードボイルドにも生きています。「持つべきものは友か金か。言うまでもないだろう」と言う主人公は悔しいくらいカッコよしです。
一石を投じる古沢作品の奥行きに感嘆する『相棒』シリーズ
今なお人気が高い『相棒』season5の『バベルの塔~史上最悪のカウントダウン!爆破ホテル予告の罠』。二転三転のスピード感と危機一髪のスリリング、登場人物たちの葛藤と複雑な人間模様を極上の緊張感で描いた刑事ドラマのお手本と言える名作です。一方season11の『BIRTHDAY』は、時間と謎を巧みに交差させながら、人間の生きる力や家族愛を濃縮、しっかりと人間ドラマが浮かび上がる感動作です。ジャンルを問わない脚本の奥行きに驚きます。
探り合い、つつき合い、爆発する密室の可笑しさ『キサラギ』
『キサラギ』(画像はAmazonより:http://amzn.asia/aZDRSPK)
自殺したアイドルの一周忌に集まった5人の男たちを描いた会話劇であり心理劇とも言える映画『キサラギ』。ネット上でつながっていた5人がお互いを知ることになる可笑しさはもちろん、アイドルの死の真相に迫ろうと繰り広げられる密室の会話から生まれる妬み、懐疑心、探り合いとせめぎ合い、やがて白熱する謎解き……、笑いながらも「どうなるんだ!」と目が離せない不思議な魅力に満ちあふれています。小沢良太が周到に用意した至極の108分に、ぜひ注目してください。
視聴率は思わしくなかったものの、高い評価で映画化もされた『鈴木先生』、情報戦争を背景に警察の裏の顔を一瞬の緩みもない震慄で表現した『外事警察』、寄生生物と人間の共存を描いた漫画家・岩朋均の名作『寄生獣』など、骨太な作品にも引き込まれます。
『コンフィデンスマンJP』に見る古沢良太の挑戦
『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』の魅力とはまた違う『コンフィデンスマンJP』。静と動のコントラストや衝撃の展開……という教科書通りの仕掛けを取り払い、ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)によるコンゲームに集中した展開は、感動的な要因をそぎ落とした挑戦的な作品とも言えます。
登場人物に想いをはせて涙する、そんな「ドラマチック」を作り込むこまないところは、興味深く感じます。緩急に頼らない作品は、まずオリジナルのリズムをつくることから始まり、そのリズムに視聴者をどう乗せるかが勝負。シンプルにノリノリで楽しむ古沢流は、複雑化する現代に新鮮に映りそうです。