女性の健康

避妊だけでは不十分?女性に性感染症検査を勧める理由

【医師が解説】ピルやコンドームで避妊できても、性交渉がある限り性感染症リスクをゼロにすることはできません。性感染症は自覚症状が出にくいものも含め、将来的に不妊症の原因になることもあります。婦人科受診はもちろん、ネットで性感染症検査キットを取り寄せて匿名で検体を郵送し結果を知ることも可能です。詳しく解説します。

山本 佳奈

執筆者:山本 佳奈

内科医 / 女性の健康ガイド

性感染症の検査経験がある女性の割合はまだ低い

婦人科で相談する女性イメージ

婦人科で簡単に受けることができる性感染症検査。ネットで検査キットを注文して郵送する方法もあります

ある日のこと。「性感染症の検査って、受けた方がいいのかな?」と同い年の友人に相談されました。彼女はひどい月経痛に悩まされ、大学1年生の頃からずっと低用量ピルを内服していました。低用量ピルによって避妊ができると考え、それ以外の避妊はせずにいたそうです。

私は婦人科を受診して性感染症検査を希望すれば、すぐに検査を受けられることを伝えましたが、そもそも婦人科を受診したことがないため、行くこと自体が煩わしい気持ちもあり、また、受診を考えるにしても仕事も忙しくなかなか診療時間内の受診が難しいと言います。そこで私は、ネットで性感染症の検査キットを注文し、自分で検体を取って郵送すれば、匿名で検査結果をすぐに知ることもできるという方法を伝えました。友人は、自宅で簡単に検査ができるなんて知らなかったと、とても驚いていました。

実際に性感染症の検査経験のある女性の割合はどのくらいなのでしょうか。私がクリニックで緊急避妊薬を処方した女性33名に、性感染症の検査経験の有無を聞いてみたところ、検査経験があったのはわずか9名でした。中には、そもそも性感染症についてよく理解されていない方や、性感染症検査の存在を知らない方もいました。まずは性感染症とはどのようなもので、どのようなリスクがあるのか、予防のために女性がすべきこと、できることについて、しっかり理解を深めていただければと思います。
 

性感染とは……性交渉で感染。不妊症の原因になることも

性感染症とは、一言でいえば「性交渉によって感染する疾患」です。30種以上に及ぶ細菌・ウイルス・寄生虫が性交渉で媒介されて感染します。一般的に「性病」と呼ばれることが多いようですが、法改正により「性感染症」という名称に変更されたという歴史があります。

細菌が原因で起こる「クラミジア」「淋菌」「梅毒」、寄生虫が原因で起こる「膣トリコモナス」、ウイルスが原因で起こる「ヒトパピローマウイルス」「単純ヘルペスウイルス」「ヒト免疫不全ウイルス」「B型肝炎」の8つが、主な性感染症だといわれています。

性感染症のリスクは感染時のかゆみや痛み、不快感のみだけではありません。長期的なリスクとして知られているのは、不妊の原因の一つになりうることです。卵管や子宮頸管、さらには骨盤内に炎症が引き起こされることで、精子や卵子の通り道を塞いでしまうことがあります。性感染症の一つであるクラミジア感染症が、不妊症の原因の2割を占めていると推定している研究者もいます。少し話が逸れますが、肥満も排卵障害を引き起こすために、不妊の原因となることが知られています。シェフィールド大学のビル教授は、不妊の原因である性感染症や肥満の増加を受け、「将来は3組に1組のカップルが自然妊娠できなくなるだろう」と推測しているほどです。
 

アメリカでも性感染症患者数が過去最多に

米疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、2016年に全米で確認されたクラミジア・淋病・梅毒の性感染症患者は過去最多の200万人を超えました。いずれの疾患も急増しているようです。その中で、最も多かったのはクラミジア感染症の約160万人。次いで淋菌感染症の約47万人、梅毒の約2万7800人でした。特に、2000年から2011年まで人口10万人あたり約250~450人で推移していたクラミジア感染症は、2015年からの2年間で人口10万人あたり約500人にまで急増しています。

これらの性感染症は、薬を内服または注射することで治療することができます。例えば、クラミジア感染症の場合、アジスロマイシン(商品名ジスロマック)1gを1回内服し、淋菌感染症の場合、セフトリアキソン(商品名ロセフィン)1.0gを静脈注射にて投与します。

ここで大切なのは、パートナーとともに経口薬を内服し、治療することです。どちらか一方のみの治療では、性交渉をすることにより相手に感染させてしまい、完治させることはできません。実際、感染していることをパートナーに打ち明けることができず、感染を繰り返してしまうケースは後を絶たないのです。
 

日本の性感染症患者数も増加傾向……特に深刻な梅毒の拡大

そして日本も性感染症の患者数が増加傾向にあり、アメリカの状況は決して他人事ではありません。米国と同様、日本において最も患者数が多いのはクラミジア感染症で約2万7000人。次いで性器ヘルペスウイルス感染症が約9400人、淋菌感染症が約8200人と続きます。

注目すべきは、梅毒が急増していることです。厚生労働省の性感染症報告数によると、平成15年には509件だった梅毒の報告数は、平成27年には2690件になり、令和1年には6639件まで増加しています。特に、妊娠可能な15歳から24歳までの若年女性が増加傾向にあるといいます。

しかし、これらは氷山の一角に過ぎません。というのも、これら性感染症は初期症状を自覚しにくいため、病院を受診すらしていないケースが多いと考えられるからです。実際のクラミジア感染者は、届け出されている数の約5倍以上であると推定されています。
 

性感染症増加の背景に安易な出会い・性交渉を挙げる研究者も

性感染症が増加している原因は何なのでしょうか? まずは「ピルを飲んでいるから大丈夫」「コンドームをつけていれば感染しない」といった誤った知識により、正しい感染予防がされていないこともあるでしょう。その他にも、日本国内においては学校による性教育の課題や、性交渉年齢の低年齢化など、様々な要因が挙げられると思いますが、近年の出会い系アプリの普及なども原因の一つとして挙げる研究者もいます。前述したCDCのHIV/エイズ・ウイルス性肝炎・性感染症と結核予防センター所長であるジョナサン・マーミン博士は、実際に固有名称も挙げながら「『Tinder』のような出会い系アプリは、性感染症の原因かもしれません。地方の保健省のいくつかは、出会い系アプリと性感染症の増加に関連があると信じています。ただ、現時点では、原因と効果について完全には明らかではありません。」とニューヨーク・タイムズ紙にコメントしています。

もちろん出会い系アプリの存在や利用率は、性感染症の拡大の原因のごく一部に過ぎないかもしれません。しかし、いずれにしても男女ともに性交渉を目的としたような安易な出会いや、無防備な性交渉がハイリスクであることは間違いありません。2019年9月には、SNSとして最大規模であるフェイスブックにも「出会い」機能が追加されました。日本版フェイスブックではまだ機能は追加されていませんが、アメリカやカナダのほか、フィリピンやタイ、ベトナムなどアジアの一部の国や南米の国々でサービスが提供されており、今後ヨーロッパでもサービス開始予定だそうです。性行為の持つリスクについても正しい知識を持って、自分たちでできる方法で適切な予防・対策をしていくことが大切です。
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