平均給与は2009年から右肩上がりだが、リーマンショック前の水準に戻らず
毎年、9月に国税庁が発表している『民間給与実態統計調査』。この調査は前年末12月31日現在の源泉徴収義務者のうち、民間の事業所に勤務している給与所得者が対象となっています。そのため、経団連などの調査より、実態に近い数値をみることができます。2017年に発表された最新調査によると、1年を通じて勤務した給与所得者は4869万人で前年から1.6%増加しています。内訳として、男性は2862万人(対前年1.1%増)、女性は2007万人(同1.3%増)。また雇用形態別では、正規雇用が3182万人(同1.3%増)、非正規雇用1155万人(同2.8%増)となっています。
人手不足が問題化していますが、男女、正規・非正規ともに、雇用は進んでいると言えるでしょう。では、給与はどうだったのでしょうか。
2008年のリーマンシックで急落した平均給与は、その後上昇傾向を見せ、2016年の平均給与は422万円まで回復しました。しかし、リーマンショック前の水準までは戻っていません。
正規雇用と非正規雇用の賃金格差は縮まらない
雇用形態別にみると、正規雇用の平均給与は約487万円、非正規雇用は約172万円。2012年からは、正規雇用は約4.1%の伸び率に対し、非正規雇用では約2.4%の伸びにとどまります。経済の回復とともに、正規雇用の平均給与は着実に伸びているといえますが、非正規雇用の待遇改善はなかなか進んでいないのが実情でしょう。
女性の正規雇用は2012年から約6.8%の伸び
さらに、男女別、雇用形態別にみると、2015年から2016年の伸びは、どの層でも増加しています。2012年からの伸び率では、女性の正規雇用の平均給与は約6.8%と高い伸び率を示しています。しかしながら、実数としては、男性の正規雇用との賃金格差は、あまり縮まっていません。また、女性の非正規雇用は、配偶者控除の範囲での働き方をするケースが多いためか、150万円を上回ることはありません。問題は、男性の非正規雇用。平均給与は約228万円で2012年からの伸び率も1.0%ともっとも低いという結果になっています。
女性の働き方については、さまざまな議論がありますが、より深刻なのは男性の非正規雇用です。人材不足の解消のために、契約社員を正規雇用に転換するなどの動きが見られるようになってきましたが、実態としては厳しい現実があるといえるでしょう。
インバウンドの恩恵を受けていない宿泊、飲食サービス業
業種別でみると、もともと非正規雇用が多いとされる観光、宿泊、飲食サービス業は、平均給与が234万円で、前年から0.8%のマイナスと厳しい結果になっています。2017年発表(2016年の調査)なので、ここから改善されている可能性もありますが、インバウンド(訪日観光客)の増加が騒がれるわりに、給与には反映されておらず、さらに人材確保が難しくなるというマイナスの連鎖に陥っているのが現状です。
年代、男女別の平均給与のトレンドに変化はない
さて、もっとも気になる年代別の平均給与。全体の状況としては、どの年代でも底上げはされていますが、年代でのトレンドは、例年から大きな変化はなく、男性50~54歳で661万円と最高額を示しています。60歳定年退職が65歳に延長されたり、再雇用、継続雇用が促進されていけば、高年齢層の給与水準はもう少し上昇するかもしれませんが、現状では、それほどの違いはありません。
女性に関しては、従来から言われているように、30歳前後で平均給与が300万円。これがその後も続き、増加することがありません。雇用に関しては、いわゆる「M字型」の雇用状況に変化が起きてきていますが、給与に反映されるには、時間がかかるかもしれません。
これまでの「お金の常識」から脱皮すること
いずれにしても、給与がすぐに2倍になったり、物価が下がることは、この先考えにくい状況であることに変わりはありません。こうしたなかで、自分の資産を増やしていくには、お金に関する情報感度を上げていくしかありません。親世代と同じような「お金に関する行動」をとっていたら、時代から取り残されるだけです。新しい金融制度をチェックする、リスクを極端に毛嫌いせずに投資行動を起こすなど、これまでの世間的な常識から脱皮することが求められるようになっていることを、理解しておきましょう。※データはいずれも、国税庁『民間給与実態統計調査』(平成28年分)より抜粋し、筆者作成