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Rが一個増えたスズキのフラッグシップ。GSX-R1000Rはどう進化したのか?
スーパースポーツの最高峰でありつづけるために、レース技術のフィードバックを受け続けて進化を続けるスズキのフラッグシップ・GSX-R1000。このモデルは長らく日本の規制の問題などがあり、ユーザーは逆輸入車という形でしか手に入れる方法がありませんでした。
2015年2月に一世代前のGSX-R1000の試乗経験がありますが、こちらも逆輸入車でした。しかし国内の規制が変わった影響などもあり、2017年7月に正式な日本国内モデルとしてGSX-R1000Rはカタログにラインナップされました。
日本国内モデルはRが一つ増えてGSX-R1000”R”となっていますが、海外モデルを見てみるとGSX-R1000とGSX-R1000Rの二車種が用意されており、「R」がついた方が豪華装備となっています。
約3年ぶりとなるスズキのフラッグシップGSX-R1000Rの試乗ですがどのように進化したのか? 前回も通勤で使用しましたが、今回も同様に都内の通勤で使用してインプレッションします。
GSX-R1000Rに採用された特別な装備と足つき性は?
ベースモデルのGSX-R1000と比べて、Rが一個多いモデルは四つの特別な装備が追加されています。正直に言えば私程度のライディングスキルで街乗りしてわかるレベルの装備は二つだけ。 街乗りでも効果がわかりやすい装備としては、ギアのシフトアップ・ダウンをライダーがクラッチ操作をすることなく可能な「クイックシフトシステム」。ギアアップ時はアクセルを開けながらシフトチェンジすることが可能です。最近、クイックシフトはスポーツタイプの大型バイクに装備されることも増えてきていますが、シフトアップはできてもダウンはできない仕様のものがほとんど。
試乗中に使ってみましたが、シフトアップ時はCPUがペダルの動きを感知して自動で出力をカットし滑らかにシフトアップしてくれます。シフトダウン時もCPUが勝手に回転数を調整してくれるので変速ショックがほとんどありません。連続してシフトダウンしても全く問題ありませんでした。クイックシフトといえばタイムにシビアなサーキット走行でしか使わないイメージがありましたが、これは街中でも便利です。
先進の技術が投入されたSHOWA製の「バランスフリーサスペンション」も、街乗りライダーでも違いがわかりやすい装備の一つ。といっても、その技術の凄さがではなく、セッティングの幅が非常に広いことがです。
GSX-R1000Rの前後サスペンションは共に初期荷重による沈み込みの調整をする「プリロード」と、縮む際の抵抗値と伸びる際の抵抗値を設定する「ダンパー」の調整が可能となっています。GSX-R1000Rの初期セッティングは、リアサスペンションがバイクに跨った際に少し沈み込むぐらいでフロントはかなり硬いセッティングになっていました。
地面に凹凸がほとんど無いサーキットを走る場合にはこれでも問題ないと思いますが、街中を走ると細かい凹凸をフロントサスペンションがいちいち拾ってしまうので、プリロードを抜いて柔らかいセッティングにしてみたところ快適に走れるようになりました。
GSX-R1000Rのフロントサスペンションのプリロード調整ですが、初見ではどのような工具を使えば調整できるのかわからず最終的にトルクスという工具で調整しました。返却時にスズキの担当者に聞いたところ「トルクスでもできるけどコインドライバーが正解」なのだそう。マニュアル等には使う工具が記載されていないので注意しましょう。ちなみに硬貨ではサイズが合わないので破損の恐れがあります。絶対に使わないようにしてください。
リア側は多少柔らかめとはいえ、スポーツ走行をメインとしたセッティングになっているので、街中の走行やツーリングで使う程度だとやはり固め。こちらはフックレンチで調整可能ですので、サーキットを走るのでなければプリロードの調整はした方が良いでしょう。
足つき性が不安な場合もセッティングの変更が有効です。GSX-R1000Rは前のモデルに比べてシート高が15mm高くなったので、足つき性が若干悪くなりました。一番柔らかい状態にするとバイクに跨った際の足つき性にも変化があったので、足つき性が不安な方はリアサスペンションのプリロードを柔らかいセッティングに変更することをオススメします。
効果がわからなかった装備は、3軸6方向の動きと姿勢を感知してハードブレーキング時に後輪のリフトを減らすという「モーショントラックブレーキシステム」と、レースのスタート時に滑らかで効率的なスタートをサポートする「ローンチコントロール」の二つ。この二つの機能は、ツーリングぐらいでは効果を体感することは恐らくできないでしょう。
GSX-R1000Rの電子制御装備は?
前述した特別な装備のほかにも、GSX-R1000Rにはライダーをサポートする装備が盛りだくさん!「スズキドライブモードセレクター」は、A・B・Cの三つのドライブモードを選択可能。最も過激なセッティングになっているAモードと一番穏やかなセッティングになっているCモードでは明らかに挙動が異なります。走行するシチュエーションや気分に合わせて変更する事が可能です。
最近バイクに装備されることが増えてきたトラクションコントロール機能は、なんと10段階で調整可能。これは、リアタイヤの空転を緩和させる機能です。試乗中は常に真ん中の5に設定していました。雨の日などは路面の状況が滑りやすくなるので、更に空転制御の介入レベルが高い9や10にすることでより安心できるでしょう。
GSX-R1000Rの返却日が雨だったので、過激なセッティングのAモードにしてトルクコントロール機能を10にセッティングしたところ、多少ラフにアクセルを操作してもトルクコントロールが作動し、安定して走行することができました。
リアタイヤのロックを緩和するABSはもちろん標準装備。一週間の試乗中に一度だけABSが作動しました。ガクガクっとした挙動は一瞬焦りますが、リアタイヤがロックするよりは転倒のリスクが低くなります。
正直あっても特に魅力を感じないのは「スズキイージースタートシステム」。ポチっとセルモーターボタンを押すと、エンジン始動用のセルモーターをエンジンがかかるまで勝手に回してくれるというもの。排出ガスの低減にも繋がるらしいので、環境に配慮する上では大事なのかもしれません。
個人的には相性が悪い装備が「ローRPMアシスト機能」です。低回転走行時にエンジン回転の落ち込みが緩和されスムーズな発進を実現するというものですが、Uターンの際などにアイドリングが高くなり若干速度が上がってしまいます。クラッチやリアブレーキの操作で対応できますが正直あまり使い勝手の良さは感じられませんでした。低速時のエンジンストールは転倒に繋がるので、バイクの運転に慣れていない人にとっては有効な装備と言えるかもしれません。
GSX-R1000RのETC車載機の取り付け位置だけはなんとかしてほしい!
GSX-R1000RにはETC車載機が搭載されていますが、なんとメインシートの下に搭載されています。メインシートを外すにはサイドカバーのボルトを2本外して、シートを固定しているボルトを2本外す事で脱着できますが、更にテールカウルの方まで外さないと車載機にアクセスできません。
ETCはGSX-R1000R日本仕様にのみ搭載されており、日本のユーザーの要望が多いので追加したそうですが、元々ETCを装着する前提の装備になっていないので仕方がないとはいえ、これではあまりに使い勝手が悪いといえます。
更にスポーティーに進化したGSX-R1000R。街中での燃費は?
以前試乗した2015年モデルのGSX-R1000は特にセッティングを変えなくても街中をそのまま快適に走れてしまう印象でした。しかしGSX-R1000Rは更にスポーティーなセッティングになっている印象です。
エンジンのパワー自体は以前のモデルが185PS/11000rpmだったのに対してGSX-R1000Rは197PS/13200rpmとなっており、12馬力向上しています。しかし、アクセルのレスポンス自体はあまり変わっていないので、一番スポーティーなセッティングのAモードにしてもハードすぎて扱いにくいという印象はありません。
もともと低中速のパワーを犠牲しないように配慮されているGSX-R1000は街中での扱いやすさも優秀。馬力の向上を感じるのは高回転時ですが、街中では高回転域まで回せませんし、高速道路でも一瞬だけしか感じる事しかできませんので、街中や山道の走行ではエンジンの特性は以前のモデルと比べて大きく変わった印象はありません。
大きく変わったと体感できるのは足回りのセッティング。かなりスポーティーなセッティングになっており、特にフロントフォークは硬め。プリロードがガッツリかかっているので、柔らかいセッティングにするとハンドリングも軽くなり街中の走行も苦にならなくなりました。
スズキドライブモードセレクターは街中で快適なのはBモード。Aモードは扱いにくさはありませんが、少し多めにアクセルを回した際のエンジンの回転の上がり方がクイックです。その点Bモードはエンジンの上がり方が若干穏やかなので扱いやすい印象。Cモードは正直やや物足りない感じ。ただ雨の日など路面状況によっては使い勝手が良いモードです。
GSX-R1000Rのエンジンは高回転でパワーを出力するセッティングですが低速でも極端に出力が落ちないので、一度6速まで上げてしまえば、30km/hまで速度が落ちても力強く加速する事ができます。高速道路では6速まであげればシフト操作はいらないでしょうし、街中でもせわしなくシフトチェンジする必要はありませんでした。
ブレーキも相変らずの使いやすさ。かけはじめの反応が緩やかなので高速道路や街中の走行でもギクシャクする事はありません。少し多めにブレーキをかけると「がつん」と効きますので、ライダーの操作に従順なブレーキシステムと言えます。
街中での走行でも意外と頻繁に使ったのがクイックシフト。GSX-R1000Rはクラッチがかなり重いです。最近では大型バイクにはクラッチ操作を軽くするアシストクラッチが装備されている事が多いので余計に重く感じたのかもしれません。
信号待ちでクラッチを握り続けるのはしんどいので必ずニュートラルに入れていましたし、クイックシフトがついているのでギアの上げ下げの際もクラッチはあまり使いませんでした。今後のモデルチェンジやマイナーチェンジの際にはアシストクラッチを追加してもらいたいところです。
GSX-R1000Rの街中走行での燃費は12km/Lでした。さすがにストップ&ゴーの多い街中での燃費は悪かったのですが、高速道路を走行した際の瞬間燃費は20km/L程度まで上がっていました。
価格も上がったGSX-R1000R。進化の歩みは止まらない
私が以前試乗した逆輸入車のGSX-R1000ABSの価格は176万400円(税込み)。2018年現在のGSX-R1000Rは204万1200円(税込み)となっており差額は約28万円。決して小さな金額差ではありませんが、センサーが多数追加され、電子制御が大幅に進化していますので仕方がない印象もあります。
性能だけを考えれば、サーキットを走るという目的がなければR付のGSX-R1000Rを購入せずとも以前のGSX-R1000で充分に満足できると思います。正直私のような街乗りライダーにすれば前モデルも非常に乗りやすく、圧倒的なパワーと性能には驚くばかりでした。
そう考えると「そこまでしなくとも」と思ってしまう所もありますが、GSX-R1000はスズキのフラッグシップモデルであり、レースの技術のフィードバックを受けて進化し続ける事を義務付けられたバイクと言えます。
しかもその次元はどんどん高くなり、一般ライダーには徐々にわからない領域に入り始めている印象があります。しかし、サスペンションの調整幅が広くなったり、優れたクイックシフト機能が追加されたりするなど「わかりやすい進化」を見せてくれているのも事実です。
最先端バイクながら幅広いライダーを受け入れる度量を持つGSX-R1000R。次に追加されるのはどのような機能なのでしょうか? GSX-R1000Rの進化の先が楽しみです。
GSX-R1000Rをカスタムするなら
GSX-R1000Rをツーリングで使うなら装着しておきたいスマホホルダー用ステー。視認性の良い位置にスマホホルダーをマウントできるのでナビ代わりに使うのに最適です。
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