カーボカウントとは……アメリカと日本で違いも
糖尿病の食事療法は栄養バランスのよい食事が基本です。バランスのよい食事を摂っているにも関わらず、血糖コントロールが悪い場合、食事中の糖質量を一定にすることで治療効果につながることがあります。
炭水化物は、糖質と食物繊維から構成されています。
食物繊維は人間の消化液で消化されることはないため、消化吸収のメカニズムに影響はありません。むしろ腸管内を通過する際に栄養素の吸収を阻害する働きがあるため、食物繊維は積極的に摂りたい栄養素。しかも、血糖値を直接上げることはほとんどありません。
そのため、実際の「カーボカウント」で数えるのは「糖質」ということになります。ただし、食品の栄養素をみると「炭水化物」として記載されていることもありますので、「糖質=炭水化物」と考えて計算してもよいことになっています。この根拠は、糖尿病患者が気になる「血糖値」を最もよく上昇させる栄養素は「糖質」と言われているため。
「食事中の糖質をコントロールすれば血糖コントロールもよくなるはず」、糖質の量を活動量に見合った量に抑えれば、血糖コントロールもよくなると考えられたのです。
ところが、このカーボカウントは、1カーボ=糖質15gとする「アメリカ式」と、1カーボを糖質10gとする「日本の食生活に合わせた改訂版」の2種類が知られており、医療関係者の間でも、若干、混乱を来たしていた状態でした。
そんななか「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」の出版の際に「次はカーボカウントのマニュアルを出します!」とアナウンスがあり、歓喜しながら待っていた医療従事者、患者様も多いのではないかと思います。
日本糖尿病学会によるカーボカウント統一方法
まず、最初に覚えてほしいことがあります。カーボカウントの手引きは誰にとっても使えるマニュアルではありません。このマニュアル「カーボカウントの手びき「糖尿病食事療法のための食品交換表」準拠」は、先に出された「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」に基づく食事療法を行っても効果が薄い患者様を対象としています。このことでも分かるように、「食事のバランス」がよくなければ、カーボカウントの効果は出ません。残念ですが、巷で言われているように糖質だけに注視すれば治療効果が上がるということはないのです。
また、「カーボカウント」はあくまで「糖質(炭水化物)を数える」方法であって、糖質(炭水化物)を控えなさい、という意味ではないところも気をつけるべきポイントと言えます。
上記のとおり、今回、出版された「カーボカウントの手引き」は、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」を理解しており、この内容をしっかり守れている人向けに出されたマニュアルですので、これからの説明には「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」の用語を使います。
実際のカーボカウントのステップは2ステップ。ステップ1が「基礎カーボカウント」、ステップ2が「応用カーボカウント」です。順に解説します。
カーボカウントのステップ1「基礎カーボカウント」
基礎カーボカウントでは、最も血糖値に影響を与える栄養素が糖質であることから「毎食ごとの食事の糖質の量を一定量にする」ことを目的に行います。カーボカウントの手引きにはもっと細かいステップで記されていますが、大きく分けると下記のようになります。
1. 糖質を多く含む食品を知る
糖質を多く含む食品は「表1」「表2」「表4」「表6(かぼちゃ、れんこん等、炭水化物の多い野菜)」「調味料」、そして、し好食品である「アルコール飲料」「し好飲料」「菓子類」です。
それ以外の「表3」「表5」「表6(かぼちゃ、れんこん等、炭水化物の多い一部の野菜を除く)」は基礎カーボカウントの際には、ノーマークでもOK。
2. 食事に含まれている糖質の量を知る
「食べようとしている各表の単位数×1単位あたりの平均炭水化物量(g)」の合計がその食事に含まれる炭水化物量(g)の合計だと考えてください。(かなりざっくりですが、食品にも個体差があるのでこれ以上、詳細に計算しても効果は変わりません)
1単位あたりの平均炭水化物量は「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」のp.12~13に示されていますが、「表1=18g」「表2=19g」「表3=1g」「表4=7g」「表5=0g」「表6=14g」「調味料12g」です。
例を出すと、ご飯を150g食べるなら、表1を3単位ですから、3単位×18g=54gの糖質を食べることになります。これをすべての料理の食材で実施し、合計を出します。
3. 自分が食べるべき糖質の量を知る
一方で、自分がどのくらい糖質を食べてよいかも重要です。エネルギー源となる炭水化物、たんぱく質、脂質は「炭水化物:たんぱく質:脂質=50~60:20以下:(100-炭水化物とたんぱく質の割合)」の割合で摂るのがよいとされています。そのため、
1日に食べる糖質の量(g)=指示エネルギー(キロカロリー)×
炭水化物の割合(50~60%)÷4
を計算します。
最後の「÷4」は炭水化物は1gあたり4キロカロリーのエネルギーを出すと考えられているためです。
例えば、指示エネルギー2000キロカロリー、炭水化物60%の場合、
2000×60%÷4=300g
となりますので、1日に糖質を300g食べる必要があると考えます。
これを、朝食、昼食、夕食、間食に振り分けて、1回あたりの糖質量を決めます。例えば、朝食100g、昼食100g、夕食90g、間食10gといった塩梅です。
食事中の糖質量(2)で計算したもの)と、3)で計算した1日に必要な量が同じになるように料理を選ぶのです。
面倒な計算式を示しましたが、実際には、医師より、1日の指示単位と炭水化物の割合が指示されているはずですので、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」のP28~33を見て、各食事への配分を再確認しましょう。これで上記の1)~3)で行うべき計算は、整っているはずです。
4. 食事時間をそろえる
せっかく食事の糖質量をそろえても、食べる時間がバラバラでは血糖値の上昇を一定にすることができません。食事の時間をきちんと守るようにしましょう。
正直、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」に則った食事を考えるだけでもたいへんなのに、さらに糖質の量まで考慮しなければならないとなると、それだけで心労が増えてしまいます。
ただし、基礎カーボカウントの方法をよく読んでいくと「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」で示された表1~表6の単位数を3食に平均して食べるようにすれば、基礎カーボカウントはほぼ完成と言ってもよいような気もしてきます。
そのため、基礎カーボカウントを始める前に「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」が守れているようで守れていないのではないか?と考えて、かかりつけの医師や管理栄養士に再度、相談してみるとよいと思います。
カーボカウントのステップ2「応用カーボカウント」
次に「応用カーボカウント」です。皆さんがカーボカウントと言われて実際に思い浮かべるのはこちらの方だと思います。基礎カーボカウントで覚えた「糖質摂取量」と食前、食後の血糖値の変化によって、インスリン量をコントロールする方法です。使用しているインスリンの内容や血糖コントロールの状況による、完全な「オーダーメイド」です。
インスリンを使って行う方法ですので、応用カーボカウントは「強化インスリン療法」を行っている人のみが対象です。
インスリン療法で使われるインスリンには
- 基礎インスリン 食事に関係なく一定量が分泌されている(持効型溶解、中間型、basal insulin)
- 追加インスリン 食後の血糖値の上昇を補正する(超速攻型、速攻型)
ありがちな「Aさんは1日1回しかインスリンを打たなくていいのに、自分(Bさん)は1日に4回も打つんだよね。しかも2種類あるから間違えちゃいそう」という発言は、Aさんは基礎インスリンだけを使用し、Bさんは基礎インスリンと追加インスリンの2種類を食事のタイミングにあわせて使っているということになります。
このように、インスリン療法と言っても個人差があります。
さて、応用カーボカウントの主役になるのは、「追加インスリン」のほうです。
さらに追加インスリンを、2つに分けて考えます。
- 糖質用インスリン これから食べる糖質量にあわせて使用する。インスリン1単位で処理できる糖質量をあらわす「糖質/インスリン比(g/単位)」を用いて計算する
- 補正用インスリン インスリン1単位でどれだけ血糖値が下げられるか「インスリン高価値(mg/dl/単位)」を用いて計算する
糖質用インスリンは、患者自身でも計算できそうな簡単な計算式で比率は決めることができますが、他の薬剤などとの兼ね合いもあるので、必ず医師に相談して自分に合うようにカスタマイズしてもらってください。
また、インスリンの効き方は時間や体調、天候などによって変化します。1回のチェックだけでは不十分なこともありますので、注意して下さい。
補正用インスリンは、一般的な体格の患者様は50mg/dl/単位から開始することが一般的。やせた患者様や1日の総インスリン単位数が30単位以下の患者様は100mg/dl/単位で開始する場合もあります。
これも、医師から指示された数字を使って実施する必要があり、患者判断で勝手に数字を変更してはいけません。
このように、応用カーボカウントを行う際は、医師との連絡を密に取り合う必要があります。通院が難しいから応用カーボカウントを、と考えている人がいたら、危険ですので絶対に止めてください。(医師も許可してくれないと思います)
ここで私の実臨床での印象をお話しすると、応用カーボカウントが必要になるのは、1型糖尿病の子どもさんや、スポーツ選手のような方だけ。
1型糖尿病でも一般的な日常生活を送っている成人の方や2型で強化インスリン療法を行っている方は、「食品交換表」に書かれている食事療法をしっかり守れば、血糖値のコントロールはよくなると思います。
食品交換表だけでも実行しようとすると、かなりたいへんです。何か新しい治療を追加しようと考えるよりも、まずは、「基礎を見直すこと」の方が、実際には治療効果が高いのではないかと思います。