女性の健康/女性におすすめの健康法

低出生体重児や早産リスクを下げる妊娠期の貧血対策

【医師が解説】妊娠中につらい症状が出たり、悪化したりしやすくなる貧血。日本の妊娠中女性は30~40%が貧血であると言われており、これは先進国の中で最低レベルです。低出生体重児や早産のリスクを減らすためにも、適切な貧血治療、さらには妊娠前からの対策は非常に大切です。副作用や、それを軽減する飲み方の研究なども含め、詳しく解説します。

山本 佳奈

執筆者:山本 佳奈

内科医 / 女性の健康ガイド

飲みにくさの訴えも多い貧血治療の鉄剤

鉄剤を飲む妊婦

貧血症状は特に妊娠中にひどくなりやすいようです。妊娠中の貧血治療も大切ですが、妊娠前から正しく対策しておくことも重要です


「鉄剤、飲めませんでした……」。こう言いながら、申し訳なさそうに外来の診察室に入ってくる患者さんは珍しくありません。

処方した鉄剤が飲めなかった患者さんの訴えで最も多いのは、鉄剤の内服によって、吐き気、不快感、便秘などの副作用が出現した、というものです。鉄剤が合わなかった患者さんから、「仕事が手につかなくなるほどの吐き気に襲われたけれど、貧血を治したいから頑張って飲みました」と伺った時は、心から気の毒だと思いました。10年程前ではありますが、私の母も「鉄剤を内服すると胃がムカムカするから飲めないわ」と、鉄が多く含まれた食品を頑張って摂取していたことを思い出しました。

先進国で最低レベル……日本の妊娠中女性の30~40%が貧血

一方で、女性の場合は特に妊娠中に貧血になりやすいことは、ご存知の方も多いと思います。妊娠中にひどい貧血に悩まされたという辛い貧血の体験談もよく聞きます。

具体的なケースとして、鉄剤の内服どころではないほど悪阻のひどい方で、それでも赤ちゃんのためだと思って、副作用を我慢しながら内服を続けられたという方もいらっしゃいました。しかしそれでも貧血は改善しなかったそうです。貧血症状がひどく、妊娠する前から貧血対策をしておかなかったことを後悔される方は少なくありません。

では、実際にどれくらいの割合の妊婦さんが貧血なのでしょうか。実は、先進国の妊婦さんの貧血が約18%であるのに対して、日本の妊婦さんの30~40%が貧血であると言われています。先進国の中でも、日本は最低のレベルだと言わざるを得ません。

なぜ、こんなにも多くの妊婦さんが貧血になってしまうのでしょうか? 一つの理由として、自分だけでなくお腹の中にいる赤ちゃんにも酸素や栄養を送るために、より多くの血液が必要になることが挙げられます。妊娠するとより多くの鉄を補充しなければならなくなります。二つ目の理由として、妊娠すると、お母さんの体は分娩の歳の大量出血に備える必要があることが挙げられます。

これらの貧血になりやすい事情があるにもかかわらず、日本の場合は貧血に関する知識の啓蒙が周知されていないこと、妊娠を控えている若年女性に妊娠前から貧血の状態の方が多いことなども影響しているのではないかと、私は考えています。

妊娠初期・中期に貧血である場合、低出生体重児を出生するリスクは1.29倍、早産のリスクは1.21倍に上昇することが、2013年に米国のハーバード大学の研究者らによって報告されています(Haider BA et al., BMJ, 2013)。低出生胎児は、子どもに長期的な合併症を残す可能性があります。妊婦さんの中で、このことを知っている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。

フェロミア錠の内服が中心となる妊娠中の貧血治療

妊娠中の貧血治療は、鉄の補充です。フェロミア錠(クエン酸第一鉄ナトリウム)という鉄剤を内服することで不足している鉄を補います。1錠あたりに鉄が50mg含まれていて、一日2~4錠(鉄100~200mg)を1~2回に分けて内服するのが一般的な服用方法です。妊娠中に飲んでいた方は多いのではないでしょうか。

前述したハーバード大学の研究者らの報告によると、この鉄剤を内服することで、低出生体重児を出産するリスクは19%低下したと言います。また、妊婦さんの鉄の摂取量が一日あたり10mg増加するごとに、妊娠中の貧血のリスクは12%減、低出生体重児を出産するリスクは3%減、出生体重は15g増加したそうです。

けれども、フェロミアの添付文書に記載された副作用の報告によると、悪心・嘔吐を5%以上、下痢・便秘・胸焼け・上腹部不快感・食欲不振・胃痛・腹痛を0.1~5%未満に認めたと記載されています。そんな鉄剤を、悪阻に悩まされている妊婦さんが内服し続けるのは容易ではありません。だからこそ、妊娠可能な年齢の女性の貧血に警鐘を鳴らしたいと思います。特に妊娠可能な年齢の女性は、妊娠する前からしっかりと貧血対策・貧血予防をすべきである、と。

鉄剤の飲み方で副作用軽減も可能? 内服の仕方に関する研究も

副作用の出やすい鉄剤ですが、内服の仕方に関する研究が、近年進んでいます。2017年10月、『ランセット・ヘマトロジー』オンライン版に掲載されたスイスの研究者らの報告によると、鉄剤を毎日内服するよりも、隔日で内服した方が鉄の吸収がよかったそうです。同時に、副作用である吐き気や腹痛の見られる割合は、鉄剤を隔日で内服した方が低い傾向がありました。鉄剤の飲み方を工夫することで、副作用を軽減できるようです。

鉄剤は古い薬ですが、現代では貧血が重大な公衆衛生学的な問題となったため、世界各地で研究が進んでいるのです。最新の研究成果を参考に、皆さんも貧血対策をしていきませんか。

今回は、鉄剤についての最新のトピックスもご紹介しつつ、鉄剤について解説させていただきました。鉄剤の副作用に悩んでいる方は、ぜひかかりつけの医師に相談してみてくださいね。
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