敢えて「賃貸」、敢えて「認可外」で実現した優先入園
「育住近接」。リクルート住まいカンパニーが、2018年のトレンドになると予測したキーワードです。保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」が増えるというのです。それを実現する賃貸マンションとして、「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト」を見学しました。秋葉原からつくばエクスプレスで30分(通勤快速等利用)の柏の葉キャンパス駅から徒歩3分に立地。この街では、長期的な開発計画が進められています。
つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅徒歩3分のタワー型賃貸マンション
実は、マンション内に保育園を併設するマンションは、これまでにもありました。最近は保育園不足もあって、多くの世帯が移り住む大規模な新築マンションには、保育園を併設するようにといった行政からの要請もあるからです。ただし、併設される保育園は認可保育園なのが一般的なので、入居者に優先権はありません。
つまり、敢えて「分譲」ではなく「賃貸」のマンションに、敢えて「認可」ではなく「認可外」の保育園にすることで、優先的な入園を実現したのです。
入居者が優先入園できる仕組みは?時間や費用は?
優先入園できるのは、2017年12月1日から募集の第1期(102戸)の契約者で、入園を希望する先着順(※)となります。最大70人は、0歳児11人、1歳児18人、2歳児16人、3歳児以上25人の想定ですから、実際には希望する子どもの年齢によって入園人数が変わります。第1期契約者で空きがある場合は、第2期以降の契約者も対象になる予定です。入居者では定員に満たなかった場合だけ、入居者以外の希望を受け付ける可能性があります。
ちなみに、月極保育料(税別)は、0歳児で10万円、1歳児で9万円、2歳児で8万5千円、3歳児以上で7万円。延長保育料(税別)は30分当たり、7時~8時が400円、19時~20時が800円、20時~22時が1500円となっています。
※「チコル☆保育園」の入園には条件があり、保育園の運営事業者(株)マザープラネットの入園審査により入園できない場合もあります。また、別途(株)マザープラネットとの入園手続きが必要です。
保育園、学童保育、病児・病後児保育に食事の提供まで
保育園を運営するのは、地域密着で病児保育や保育園の事業を行っている(株)マザープラネット。当初は病児保育の誘致の件で声がかかり、最終的には賃貸マンションの3階の全フロアで子育て支援事業を展開することになったそうです。同社代表取締役の藪本敦弘さんによると、敢えて認可外保育園としたのは、優先入園のためだけでなく、行政のルールに縛られないことで「保育設計の自由度を追求し、保育サービスの質を高められる」から。実際に、希望すれば多彩な支援ができる体制が整えられています。
その3階フロアは「チコル」と名づけられ、子育てに「あったらいいな!」が集められています。「保育園」「アフタースクール(学童保育)」「屋内パーク」「コワーク施設&サテライトオフィス」「キッチン付き多目的ルーム」「レンタルスタジオ」で構成されていて、保育園以外は入居者でなくても利用できます。
保育園と学童保育のスペースは約196平方メートル。右奥が0歳児保育用のスペース
左奥がアフタースクール用スペース。人数に応じて仕切る予定と、藪本敦弘さん。
また、ボールプールやボルダリングなど遊具のある屋内パーク(有料)があるので、雨の日でも思い切り遊ばせることができます。
約100平方メートルのチコル☆パーク
ホームパーティや料理教室の開けるキッチン付きレンタルルーム、チコル☆シェアキッチン
1階には病児・病後児保育施設「オハナ☆キッズケア」が入る
8つのブースがある「チコル☆ワーク」。うち4つは窓からパークで遊ぶ子どもの様子も見える
「子育て支援」の課題に取り組んだ街づくり
そもそも三井不動産はこの地域で、公(千葉県・柏市)民(市民・企業)学(東京大学・千葉大学)連携の「街づくり」を展開しています。「柏の葉スマートシティ」と名づけたのは、いわゆるエネルギーを賢く使う街ではなく、社会課題を賢く解決する街という意味で、例えば環境共生や健康長寿などの課題を解決する街づくりを行っています。今回の課題を、働く女性が仕事と両立しやすくファミリーが安心して子育てできる「子育て支援」に据えたところ、既にこの地域で2000戸ほどの分譲をしており、入居者が入れ替わる賃貸のほうが街に多様性を持たせられるといったこともあって、賃貸マンションにしたそうです。
「36階建て総戸数491戸に対して、優先入園できるのが70人というのは少なくないか?」と尋ねたところ、この地域の分譲・賃貸実績から子育て世帯を推計した人数とのことで、入居者としては「近隣の一戸建てからの住み替えや親子近居のための移転など、子育て世帯以外の需要も見込んでいます」ということです。
どういった賃貸マンションなの?
端的に言って、地震の揺れを吸収する免震構造で、豪華なエントランスラウンジにコンシェルジュもいる、いわゆる高級賃貸マンションです。1回の認証で2人以上の入館を防ぐために、駅の改札と同じ「フラッパーゲート」を採用するなど、セキュリティもかなり高くなっています。エントランスラウンジのフラッパーゲート
見学したのは、Room 3302(33階・2LDK・70.61平方メートル)賃料21万2000円※管理費込み(以下同)、Room 3309(33階・2LDK・59.81平方メートル)賃料19万3000円、Room 1409(14階・1LDK・47.52平方メートル)賃料15万7000円の3住戸です。仕様や設備は、分譲マンションとほとんど変わりません。
左)Room 3302の子ども部屋とリビングの一部 右)Room 3309はリビングをはさんで2つの洋室が配置されている
Room 1409(47.52平方メートル)のLDと洋室
天然温泉大浴場(女湯)
スタディルーム
都心に住む子育て世帯には魅力的?
では、どういった人が入居するのでしょう?保育園や学童保育を利用する子育て世帯であれば、賃料と保育料などを毎月支払う必要があります。保育サービスを利用するほど負担が増えますし、合計するとかなりの額になります。賃料と保育料などで毎月30万円程度かかるという人もいるでしょう。
秋葉原直結のつくばエクスプレスで駅徒歩3分、充実した共用施設、高いセキュリティ、高級仕様のマンションといったメリットを魅力的に思うなら、坪(3.3平方メートル)当たり1万円程度の賃料も妥当と思うかもしれません。
ましてや、待機児童問題が深刻な子育て世帯にとっては、保育園の優先権があったり、多様な保育サービスがあったりすることは、かけがえなく魅力的に見えるかもしれません。
柏市では、国基準の待機児童数ゼロを3年連続で達成(2017年4月1日時点)しています。そのため、都心部に住む子育て世帯が優先入園を求めて流入する可能性も高いでしょう。
ただし、保育園だけでなく、生活の拠点となる住まいも選ぶことになるので、きちんとチェックして判断してほしいと思います。
さて、入園保証の賃貸住宅の先行事例として成功した場合、空室に悩む賃貸住宅オーナーが追随するということはあるのでしょうか?
藪本さんによると、保育園経営はそれほど簡単ではないといいます。優先入園にするには賃貸の住戸数などの規模が必要になりますし、保育園として提供される広さによって採算が合うと考え手を上げる保育事業者がいるかどうかも課題となるのだそうです。
なにより賃貸住宅オーナーにも、保育事業者にも、地域の子育て支援に寄与するのだという強い意志がないと、実現することは難しいのかもしれません。
【関連リンク】
パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト 公式HP
http://www.mitsui-chintai.co.jp/resident/original/kashiwanoha_chintai/concept.html
チコル☆保育園公式サイト
http://cicol.jp/nursery/