生命保険

営業しないのになぜ共済は売れるのか?

都道府県民共済が売れている理由はどこにあるのでしょうか。大規模な広告宣伝や営業活動を行っているわけでもないのに、総加入数は大手生保並み。その理由を考えてみました。

執筆者:後田 亨

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宣伝していないのに売れるのはなぜ?

チラシは見たことがあるような気がするけど……?

チラシは見たことがあるような気がするけど……?


「なぜ売れるのだろう?」「都道府県民共済」の決算データを確認しながら私はそう感じています。2016年度の生命共済の新規加入数(人)は約91万、総加入数は1,750万強となっており、1,200~2,900万程度である大手生保の保有契約件数(個人保険+個人年金保険)と比較しても遜色がない水準だからです。

著名な芸能人が登場する都道府県民共済の広告を見たことがあるか? 職場や家庭に営業担当者が訪問してきているか? スポンサーになっているTV番組やイベントを知っているか? などと自問しても何も浮かびません。

販売促進活動として思いつくのは、自宅のポストに投函されることがあるチラシくらいです。つまり、大がかりな広告宣伝や人海戦術による営業活動をしないのに、加入者数は増えているのです。
 

人気の理由は3つ?

私見ですが、3つの要因が好循環を生んでいるように思います。

まず、掛け金が安いことです。主力商品である「総合保障2型(18~65歳)」の掛け金は月々2,000円です。多くの人たちにとって負担しやすい設定でしょう。

2番目に、商品がわかりやすいことです。複数の保障がセットになっている「総合保障型」の場合、「入院」「通院」「後遺障害」「死亡・重度障害」の各項目に該当した保障額を確認できる一覧表で、内容は容易に把握できます。

「入院保障2型」にしても同様です。18~60歳までといった年齢区分により一律料金であることも大きいと思います。「入院保障2型」の場合、20代の人でも50代の人でも「入院したら1日1万円が受け取れる。それで毎月2,000円なら加入したい」と、さほど悩まずに判断できるのではないでしょうか。

保障内容のわかりやすさは、先に触れた低価格の実現にも貢献しているはずです。直属の営業担当者や代理店による対面での説明を要する商品を扱う場合、面談にかかる時間や経費を考慮し、高いインセンティヴを与える報酬体系になりがちです。販売員への報酬は当然、商品価格に反映されます。

「都道府県民共済」には、担当地域の家庭にチラシなどを届けている「普及員」がいますが、その数は2017年9月末現在、全国で1,722名です。大手生保に各社3~5万人ほどの営業職員が在籍しているのとは対照的です。普及員の主な業務はポスティングなどで、対面販売には重点が置かれていないため、この程度の人数でも運営可能となっているのでしょう。

実際、2016年度の決算概況を見ると、掛け金収入に対する都道府県民共済の事業費の割合は11.7%となっています。都道府県民共済の商品はいわゆる「掛け捨て」です。掛け捨ての商品の契約が多い保険会社の事業費率が30%程度であることと比べても、明らかに低いと感じます。

ちなみに、各都道府県の共済の中で事業費の割合が最も低いのは埼玉県民共済で、直近の決算では3%弱になっています。埼玉には普及員もおらず、郵便局の配達員が指定地域の全世帯に配達する「タウンプラス(宛名なし郵便広告物)」が主な申し込み経路になっていることも、低コストの運営に影響していると思われます。

また、保障内容が把握しやすい商品は、各種の給付金支払いを素早く・漏れなく行いやすくするという面もあるでしょう。そしてそれは、口コミによる加入を促すことになるかもしれません。
 

共済の特長ともいえる「割戻金」の存在

最後に「割戻金」の存在です。保険や共済の商品では、入院する確率などをあらかじめ高めに見込んで価格設定が行われているため、原則的に剰余金が発生します。都道府県民共済では例年、単年度決算の後、この剰余金を割戻金として加入者に還元しており、共済商品全体の割戻率は概ね掛け金の30%程度となっています。2,000円の掛け金の場合、実質的な料金負担は1,400円程度になるわけです。

割戻金は、何より、お金の流れに関する「透明性」の面で評価できます。簡略化すると「掛け金から各種給付金や事業関連費用が支払われ、残ったお金は加入者に返還される」という流れです。

加えて、行動経済学で言うところの「認知バイアス」を生む効果もあるかもしれません。人が感じるお金の有難味は「お金が出入りする時期」によって変わる傾向があります。年末調整で税金の還付があると、払い過ぎたお金が戻ってくるだけなのに嬉しく感じたりすることもあるでしょう。同じような感覚で、割戻金が振り込まれることを喜ぶ人も少なくないだろうと思うのです。

合理的に考えると、毎年、30%程度の剰余金が生じるのであれば、2,000円の商品を1,400円強に価格改定したらいいはずですが、販売促進効果という点では見逃せない気がします。

県民共済の保障内容はベストなのか?」という記事でも書いたように、私は都道府県民共済の商品自体が最善であるとは考えていません。それでも、販売実績を見る限りでは、安くて(お金の流れも含めて)わかりやすい商品を歓迎する人が多いのは当然かもしれない、と感じます。一方で、一般の消費者には、難解で高額な商品は誰のためにあるのだろう、といった視点も持っていただきたいと思います。

※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。
 
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