建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

逆転の発想の3階建て狭小住宅[日本橋の竪穴住居]

建築家・横河 健さんが手掛けた建築実例をご紹介します。東京・浜町の密集地に建つ鉄骨造3階建ての家です。最上階に玄関を設け、下に降りるほどプライバシーが高くなるという逆転の発想で、他に無いユニークな快適空間が生まれました。

執筆者:川畑 博哉

日本橋・浜町は昔からの下町の商業地域。通勤にも便利なこの場所に、都市に住むための12坪の小さな土地を見つけたKさん。以前暮らしていた八丁堀に、建築家の横河 健さんが2006年に建てた10坪の狭小住宅[桜庵]を目の当たりにして、「こうゆうものを設計する建築家ならなんとかしてくれるのでは」と、横河さんを探し出して家造りの夢を託したのです。

しかし、周りは高層ビル群に取り囲まれた防火地域で、地盤も軟弱なため杭を34mも打つ必要がありました。さらに、狭い敷地に階段とエレベーターの両方が必要となるという厳しい条件が加わっていたのです。

3階建ての白い塔の家

外観
通りに面した南側の外観。外壁はALC板。縦に走るクレバスのような凹みはテラス。
廊下
階段室から見たブリッジ。手すりを兼ねた収納が3つ並ぶ。奥は3.5階の明るい玄関。壁は収納になっている。
廊下
玄関からブリッジを通って階段室に至る。
階段
鉄製の螺旋階段で3階へ降りる。
階段
薄い踏面と細い手すりによる美しい螺旋階段。建築家のセンスの良さが現れる。

東京日本橋の浜町と言えば、古くから江戸の下町としてにぎわって来た職住接近の典型的な商業地域。隣の建物とほとんど隙間がない密集地にKさんのご自邸は建っています。とはいえ、近くには桜の植えられた幅のある緑道が走るという好立地でもあります。

緑道から路地に入ると直ぐに、間口約4m、高さ約12.7mの塔のような建物が現れます。スッキリしたデザインの白い壁が周囲からひときわ目を魅きます。氷柱を思わせる正面の白壁の中心には縦に走るクレバスのような約1.5mの深さをもつ凹みがあり、その奥には大きなガラス窓が顔を覗かせています。

丸いトップライトの下の四角いリビング

主室
螺旋階段から白い空間に入る。ここが3階の主室であるリビング・オーディオルーム。
主室
天井のトップライトを見上げる。トップライトまでの高さは約5m。
主室
ブリッジからリビングを見下ろす。鏡面の黒い磁器質タイルの床にトップライトが写り込む。
ロフト
リビングの下の2.5階は造り付けのクローゼットのある小さなロフト。キッチンダイニングとはカーテンで仕切ることができる。

Kさんのご自邸は1階ではなく最上階に玄関があります。エレベーターに乗って一気に3.5階に上がると、宙に浮いたブリッジが張り出す天井の高い空間が待っています。

円形のトップライトから四角い部屋に変わる3次元の曲面をもった、2層に吹抜けたドームです。ここは自然光が降り注ぐ白壁の明るい夢幻空間で、まるで大きな壷の内側に居るような安心感のある静謐(せいひつ)な佇まいになっています。

Kさんはお気に入りのオーディオセットと、壁面に映像を映し出すプロジェクターを備えたAVルームとして、ここでご自身の趣味を満喫しています。

2層吹抜けのダイニング・キッチン

台所
2階のダイニング・キッチン。天井高は約4.4m。
台所
ダイニング・キッチンの北側から南側を見る。天井に構造材のH鋼の梁が斜めに架かる。
台所
ロフトからダイニング・キッチンを見下ろす。ステンレストップのカウンターが部屋を一周している。
台所
部屋の西側に造られた無駄の無いデザインのキッチン。カウンターの高さは約90cm、奥行きは約65cm。造り付けの収納の表面もステンレス仕上げでデザインを揃えている。
テラス
正面のカウンターのトップを上げるとテラスに出られる。左の植栽はドウダンツツジ。

日常生活の中心になるダイニングとキッチンは2階にあります。ここも2層に吹抜けた正方形の空間で、頭の上にH鋼の梁が斜めに架かっています。これは将来計画のためでもあり、この大空間を成り立たせるための大切な構造材なのです。

南側には縦長の大きな窓があり、カウンターがそのまま部屋を一周しています。これは建築家の横河さんならではのユニークな発想の収納なのです。

南側の正面には高さ約3.5m、幅2.1mの十字のH鋼のフレームの大窓が開いています。その奥は丸く刈り込まれた植栽があるテラスになっていて、窓を開けて外に出ることも出来ます。

1階は忍者屋敷のような寝室

寝室
1階の落ち着いた雰囲気の寝室。
寝室
寝室の西側は上にエアコンが付いたクローゼット、南側は壁一面の造り付けの本棚。
風呂
寝室の北側にあるコンパクトなバスルーム。内壁はFRPの防水塗装。
便所
3階の北側にあるトイレ。鏡の内側は洗面収納。
便所
階段下を有効利用して造られた1階のトイレ。
テラス
K邸のコンセプトダイアグラム

寝室は1階にあって、造り付けの本棚と収納に囲まれた落ち着いた空間になっています。南側の本棚をスライドさせると避難口が現れ、そのまま外に出られます。まるで忍者屋敷のような楽しい仕掛けが隠されています。

この家は最上階に玄関を設け、3階にリビング、2階にダイニング・キッチン、1階に寝室とバスルームと、下に降りるにしたがってプライバシーが高くなるという普通とは真逆の間取りの構成になっています。
加えて10坪の中に5階建て分の高さの中に2つの吹抜けのある3階建てというプランニング(上図)によって、狭さと限られた予算に負けることなく、Kさんが望んだ「豊かに日常を楽しむための舞台」を提供できたのです。

[日本橋の竪穴住居]
所在地: 東京都中央区
構造・規模: 鉄骨造 地上3階
竣工年月: 2017年3月
敷地面積: 41.32m2
建築面積: 34.03m2
延床面積: 90.25m2
設計・監理: 横河設計工房
構造設計: 梅沢建築構造研究所


横河 健[横河設計工房]プロフィール

「私が建築を思考するとき、彫刻を見るように建築の外形を捉えることはありません。形ではなくむしろ境界と領域について考え続けてきました。つまり、それが私にとっての建築なのです。」をポリーシーに、40年以上に渡り公共建築から住宅・別荘まで数多くの建築を幅広く設計しています。現在、武蔵野美術大学の建築学科客員教授として、後進の教育にも力を注いでいます。

横河設計工房
Tel.045-949-4900
http://www.kenyokogawa.co.jp/

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          横河 健 [Yokogawa Ken]

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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