流行のSUVに登場した新生ボルボの主人公
2LディーゼルターボのD4(モメンタム 599万円、Rデザイン 649万円、インスクリプション 679万円)、2LターボのT5(モメンタム 599万円、インスクリプション 679万円)、2Lターボ+スーパーチャージャーのT6(Rデザイン 724万円)、プラグインハイブリッドのT8(インスクリプション 884万円)をラインナップ
ボルボにしてもラグジュアリーを大いに意識させた90シリーズで極めてユニークで北欧らしい内外装の新たなデザイン性をものの見事に演出し、多方面からの絶賛を得たボルボは、より一般的かつ量販的な60シリーズにおいて、その方向性をいっそう確実なものとしなければならなかった。裏を返せば、XC60こそが、センセーショナルなデザインで人気を再確立しつつある新生ボルボの命運を握る主人公でもあった。
新しいアーキテクチャーの採用や、パワートレーンの制限戦略(内燃機関は2L直4以下のみ)、徹底した内外装のデザインコントロールなどは、プレミアム性で先行するジャーマンブランドをも凌駕する厳格さと先見性に満ちており、早くもブランドのメッセージ性の強さ、従来からの安全に加えて環境とデザイン、においてドイツ勢の驚異となりつつある。
新型ボルボXC60のライバルは、メルセデス・ベンツGLCクラスであり、BMW X3であり、そしてアウディQ5だ。いずれもモデルチェンジしたばかりか、チェンジ後の日が浅いモデルばかり。それだけ流行りで元気のあるカテゴリーというになるだろう。
そんななか、XC60の評価はどうか。結論から言うと、個性の演出や見映え質感の高さ、動的パフォーマンス、ラインナップの種類、などなど、プレミアムカーとしての基本的キャラクターにおいて、ドイツ勢と同等もしくはそれ以上、だ。
ドイツ勢にはない、クリーンに走る感覚
なかでも動的パフォーマンスにおいて、XC60にはドイツ勢と明白な違いがあった。反応が素直でかつフラットフィールの強いハンドリングを有することだ。どこかに偏った重量を感じさせず、とにかくクリーンに曲がっていく。人によっては、もう少し荷重移動が分かり易いほうがいいとか、きっちり沈み込んで走るほうがいいとか、好みもあることだろう。個人的には、はっきりと腰が入っていくような姿勢を感じさせるクルマが好きだったりするが、それでも、XC60のフラットで正確な反応には舌をまいた。乗り心地の良さも特筆に値する。クルマの動きに確かな“軽やかさ”があるにも関わらず、しっかりと地に足がついた印象が絶えずあって、しかも、路面からのショックをうまくシート下で収めてくれる。クルマ全体で滑らかかつクリーンに走る感覚は、ドイツ勢にはないものだ。
ブランドイメージからして、しゃかりきになって攻め込むというクルマでないことは明らか。それでも面白いことに、攻め込んでみても独特の“味”があった。キレ味もアト味も、妙な尾を引くことがなく、実にさわやかな印象だ。ドライバーが多少、無理強いをしても、反応しながら受け流すだけの度量もある。
XC60にはSUVでありながら、乗り手を虜にする“味付け”がある(ただしPHVグレードは重量のためそこが少し削がれる)。あたかもそれは、これまでのドライビングファンの価値観、たとえば鋭い加速やハンドリングといったスポーツ性、とはちょっと違って、クルマのうちから自然とドライバーに伝わってくる心地よさのようなもの、とでも言おうか。
ひょっとしてボルボは、電動化&自動化へと至る大きな道筋をこれから決めていこうとするなかで、従来とは違う新たなドライビングファンの指標を見出すことに成功したのかもしれない。それは、運転する楽しさ、ではもはやなく、運転する心地よさ、というべきもののような気がする。
運転するという行為に“新たな光”を
ステアリング・サポート(ドライバーが回避操作を行った際に操舵力を補い、場合によっては内輪にブレーキをかけて衝突回避を支援する)、オンカミング・レーン・ミティゲーション(対向車がいる際、はみ出しを検知し自動で走行車線に戻す)、ステアリングアシスト付BLIS(後方から車両が来ている時、車線逸脱や車線変更しようとした際に自動で車線に戻す)を新たに採用
フル電動化の意味は、EV+プラグインハイブリッド+マイルドハイブリッドという広義の電動化であり、フルEV化であると混同されたフシもあったが、いずれにせよ純粋に“内燃機関のみで走る”クルマを全廃する、と宣言したのだ。そんな明確で時代ウケしそうな企業理念に、これまでの実績(たとえば安全のボルボ)を加え、さらにそこへユニークで新しいデザイン言語を覆いかぶせた結果、運転するという、世間的にはもっぱら未来の見えないような行為に、新たな光を当てようとしているのかも知れない。
XC90の成果を、より凝縮して、より多くのユーザーが試すことのできるXC60において、それが少なからず実現できたことの意味は大きいと思われる。
これまでも沢山の非ドイツ系ブランドが、ジャーマンプレミアム勢、なかでもメルセデス・ベンツとBMW 、に立ち向かっては返り討ちにあってきた。現在も、その熾烈な戦いは続いている。どうやらボルボは、そこから一歩抜きん出た、のみならず、はじめて一角を切り崩そうとしているのだった。