障害年金はがん患者も対象

申請イメージ

がん患者も申請・受給の対象となる障害年金。麻痺などの症状がなくても受給されている方もいらっしゃいます

公的年金には老後の生活を支える「老齢年金」の他に、「障害年金」と「遺族年金」があります。障害年金は脳卒中などで麻痺が生じるほどの障害がないと申請できないと考えている方が多く、また「障害」という言葉に重さを感じるためか、生活や仕事に制限を感じていても申請を躊躇される方も少なくないようです。そして病院や年金事務所においても、がんで障害年金が申請できることが周知されていないことも事実です。

実際は麻痺の有無だけでなく、つらい症状により起こっている障害で、仕事や生活にどの位制限を感じているのかが重要で、がん患者さんも障害年金を申請することが可能です。

がん診療連携拠点病院での「お金と仕事の相談会」(NPO法人がんと暮らしを考える会相談事業)の相談員を務める立場から、実際にがん患者さんより聞かれた内容などを踏まえ、障害年金の申請において注意する点を中心に解説します。

障害年金とは……最初のポイントは「初診日」はいつか

まずは障害年金の概要をご説明します。65歳までの年金保険料を納付している方が、申請し審査が通れば受給できる年金です。下記の表は障害基礎年金・障害厚生年金の違いをまとめたものです。加入している年金によって異なります。
障害年金概要

ポイントは初診日です


「初診日」とは、がんと診断された日のことではありません。がんによる症状のために、初めて医師の診療を受けた日です。例えば肺がんの場合ですと、咳が続き風邪かと思ってかかりつけ医を受診した日などが初診日に当たります。そのため経過が長い患者さんはかなり遡ることもあります。また現在加入している年金が国民年金だとしても、初診日にあたる日が厚生年金の場合は、障害厚生年金に該当します。

初診日が証明できないと申請が難しくなるので、診察券や明細書は保管しておくことが大切です。医療機関でのカルテの保存は最低5年間です。再発など長期の治療経過の方で、医療機関が廃院となっているケースもあります。ちなみに初診日が証明できない場合は、証明するための審査があり、提出書類が多くなります。

障害年金で対象となるがん・末期がんでなくても申請可能

がん患者さんの場合、末期の方しか申請できないと思われている方も少なくありません。しかし私が把握している中でも、

「抗がん剤治療中に体力が低下し、ほとんど寝たきりで介助が必要な状態」
「以前の30~40%程度しか働けない」
「脳腫瘍や骨転移により麻痺がある」
といった状態で、障害年金を申請している方もいらっしゃいます。

審査基準に「一日のうち50%以上臥床(横になっている)」というものがあり、その方の仕事内容や審査をする機関によっても対応が変わってきますので、「この状態だったら○級は通る」とは言い切れない現状があります。つまり同じ疾患・同じ症状でも個人差があるということです。

例えば3級を受給しながらパートやアルバイトをしている方もいらっしゃいます。治療を進める中で徐々に体の状態が回復し、障害の程度が軽くなった場合は、受給を止めることも可能です。ただ、障害年金と失業手当と呼ばれている雇用保険の基本手当は同時には受給できません。等級については以下の表を参考にしてください。

一般状態区分表

参考:日本年金機構ホームページ障害年金一般状態区分表


障害等級

国民年金には3級がありません


障害年金の申請方法・煩雑なので不明点は確認を

障害年金は申請するまでに時間を要することも多く、医療機関や年金事務所に何度も足を運ぶ患者さんやご家族も少なくありません。療養中は特に心身共に負担がかかるため、できるだけスピーディーに申請まで行えるための参考にしていただけたらと思います。

■申請手続き
だれが申請手続きを行うのかですが、本人または2親等以内の親族、後見人など。患者ご本人以外は委任状 が必要です。

■申請時期
経過が長い方は、年金事務所や社会保険労務士に確認した方が正確に分かります。申請の時期や状況により大きく分けて請求は3つに分かれます。

1.認定日請求
初診日から1年6ヵ月経過したときの「障害認定日」に障害の状態にある場合に申請できます。傷病手当金を受給している方は受給が終了する数か月前に申請準備される方もいます。審査の期間を逆算し、早めに準備を始めることで受給が途切れる時期を防ぐことができます。

2.遡及請求
初診日から1年6ヶ月経過した日である障害認定日時点になんらかの理由で請求をされなかった場合に、障害認定日から1年以上経過した後で障害認定日時点に遡って請求することをいいます。請求日が障害認定日から5年以上を経過している場合、遡及による支給は時効の関係で5年前までの分となります。

3.事後重症による請求
初診日から1年6ヶ月を経過した障害認定日時点には障害等級に該当していなかった場合に、その後65歳に達する日の前日までに障害が悪化し、障害等級に該当する状態に至った場合に請求することをいいます。なお、障害認定日時点で医療機関に受診されていなかったり、当時のカルテが保管されていないなどの理由で障害認定日時点における診断書が取得できない場合も、基本的にはこの事後重症による請求となります。

■申請方法
申請書類は多く煩雑です。文書代の実費がかかります。診断書や初診日証明の文書費用によりますので、医療機関により異なります。

「病歴・就労状況等申立書」は発病してから現在までの経過を詳しく記入する用紙です。経過が長い方はこれをまとめるのが大変だとおっしゃいます。日頃から日記などに体調や生活・仕事の状況をまとめておくと良いでしょう。いつ、どの位困難になるのかを詳しく記入することが大切です。例えば、「抗がん剤を行った〇日目には○時間ベッドから起き上がれなかった。」「家族の介助がないとトイレに行けなかった」「○時間働いたら○分休まないと仕事が続けられなかった」など数字を入れる方が分かりやすいかと思います。

抗がん剤などの薬物療法の副作用では体力の低下が多くありますが、他には手足症候群や爪周囲炎などで靴を履くことや歩行がつらいとおっしゃる患者さんもいます。副作用の診察は抗がん剤の投与を管理する主治医ではなく、他の科の医師が診察している場合もあります。また抗がん剤が投与可能な体調の時に外来受診することが多いため、投与後一番つらい時期を主治医は十分に把握していない可能性があります。「いつ、どの位生活や仕事が困難になっているのか」を主治医と共有しておくことも重要となってきます。審査は申請書類の整合性を判断されるため、医師の診断書と患者本人が記入する書類の時期や症状の程度、支障の程度にずれがないことが大切です。

障害年金は、申請・審査に時間がかかります。がん患者さんの中には病状により時間が足りない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご本人がお亡くなりになった後でも「未支給年金」としてご家族に支給されることが可能です。独身の若い患者さんで、貯蓄は無くても親御さんに何か残したいというお気持ちで申請された方がいらっしゃいました。税金に関しては受け取った方の一時所得という所得税扱いです。相続税ではありません。

制度の内容は、毎年のように変わります。時間もお金もかかる申請ですので、「私は申請しても通るのか?」という疑問がありましたら、お一人で悩まずに、事前に年金事務所やがん診療連携拠点病院などで相談を受けている、障害年金に慣れた社会保険労務士へご相談されることをおすすめします。一度申請が却下されたものを覆すことは大変です。

私は社会保険労務士ではありませんが、がん患者さんの相談を何度も社会保険労務士と一緒に行っていることもあり、傷病手当金や障害年金といった社会保障制度や、就労支援の専門家として社会保険労務士は重要な専門家だと実感しています。障害年金の代行業務の費用は社会保険労務士によって異なっておりますが、初回相談は無料のところもあります。国の指針もあり、がん診療連携拠点病院には、社会保険労務士を導入しているところもあるので、地域のがん診療連携拠点病院での相談支援体制の情報収集を行っておくこともお勧めします。困ったときの相談先を知っておくことで、より良い療養生活につながります。

制度の内容も等級も異なる「障害者手帳」と「障害年金」の違い

障害者手帳は福祉サービスです。交通機関の運賃割引や税の優遇、医療費の助成などが受けられ、等級は1~7級まであります。診断書は認定医のみ書けます。

障害年金は年金制度なので、月々もらえるお金です。等級は1~3級で、診断書はどの医師でも書けます。そしてこの2つの制度の等級は連動していません。

例えば、喉頭部がんの患者さんで喉頭部摘出により声を出すことができなくなった場合、障害者手帳3級で、障害年金2級。肺がんの患者さんで呼吸機能が低下し、在宅酸素療法を行っている場合、障害者手帳3~4級、障害年金3級といった具合です。

両方とも「障害」とつくので、心理的に抵抗を感じる患者さんがいらっしゃるようですが、制度やサービスを活用する手段として捉えていただけたらと思っています。障害者手帳を取得することで、障害者手帳枠の求人で無理をしない就労を探すことも可能です。また、お住いの自治体によっては等級により医療費助成を行っているところもあります。

末期がんで在宅療養を検討されている方は介護保険活用も可能

がん患者の方も40歳以上なら介護保険を利用できる場合があります。末期がんとご本人に説明されている場合です。余命〇ヶ月という規定もありません。医師と患者、家族が共通認識されていることが重要となってきます。「ステージ4と診断されていれば、末期がんに当てはまりますか?」とい質問もよく受けますが、ステージというのは進行度のことですので、イコール末期がんではありません。また余命より長く生存されていても返却しなければいけないという決まりはありません。自宅で過ごしたいと考えている方にとっては、介護保険が活用できるかどうかで在宅療養の費用がかなり変わってきます。余命と聞くと辛いから聞きたくないとおっしゃる方も多いですが、今後だれと、どこで、どのように過ごしたいかを考えるにあたり、制度を活用するための手段として捉えていただけたらと思います。

40歳未満の方は介護保険は利用できませんが、療養サポートのサービスを行っている自治体もありますので、確認していただくと良いでしょう。

がん患者さんが利用できる可能性のある制度は少なくはありません。適切な時期に適切な制度を利用していくことが療養生活をより過ごしやすくなるコツです。また制度を活用しながら生活設計も調整していくことで更に過ごしやすくなります。生活設計については「がん治療中の家計は?収入減で治療費を捻出する方法」にて記載していますので、ご参考にしてください。

参考:日本年金機構ホームページ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。